消えたRyzenのメモリ暗号化、AMDが7月に復活へ

消えたRyzenのメモリ暗号化、AMDが7月に復活へ

ファームウェア更新で黙って無効化されたメモリ暗号化機能TSME。コミュニティの追及を受けたAMDが、Ryzen 9000シリーズへの復活を表明した。ただし、声明にはまだ語られていないことがある。


報道から4日での方針転換

経緯を振り返る。今年4月、ベン・キルパトリック(Ben Kilpatrick)氏がRyzen 7 9700Xにセキュリティ監査ツールHost Security ID(HSI)を走らせたところ、メモリ暗号化TSMEが「サポートされていない」と報告された。BIOSにはスイッチがある。有効にもできる。だが実際には何も起きない。数ヶ月にわたる調査を経て、MSIがRyzen 9 9800X3DとRyzen 9 PRO 9945を同一マザーボード上で比較検証した。AMDのファームウェア内部フラグDfIsTsmeEnabledは、コンシューマーCPUでだけFALSEを返していた。

この調査報道が現地時間6月15日に公開されると、反響は大きかった。AMDのエンジニアが2020年にコンシューマーRyzenでのTSME動作を認め、2025年にも使用を推奨していたことが、同じ報道で掘り起こされていたからだ。

4日後の6月19日、AMDは方針を翻した。

「特定のRyzen 9000シリーズPRO以外のデスクトッププロセッサで、Memory Guardを有効にするBIOSオプションが直近のアップデートで削除されていた。コミュニティからの貴重なフィードバックに基づき、7月のBIOSリリースでこのオプションを復活させる」

声明はRyzen PROラインからTSMEを外す予定はないとも明言している。

答えられていない問い

復活自体は歓迎すべきだが、AMDはまだ核心に触れていない。

なぜ、消したのか。

AGESA 1.2.7.0でDfIsTsmeEnabledがFALSEに設定された経緯について、AMDは「意図的なポリシー変更」とも「意図せぬ退行」とも言っていない。声明の「直近のアップデートで削除されていた」という受動態は、あたかも初めて知ったかのような書き方だ。だが、GitHubではすでに直接のやりとりがあった。キルパトリック氏がAMDエンジニアのマリオ・リモンチェッロ(Mario Limonciello)氏に「シリコンの制約なのか、ファームウェアのポリシー判断なのか」と尋ねたとき、返ってきたのは「これ以上共有できる情報はない」という一文だった。知らなかったのではない。答えなかったのだ。

もう一つ、声明の範囲にも注意が要る。AMDが復活を明言したのは「Ryzen 9000シリーズ」だけだ。TSMEはそれ以前の世代でも動作していた。Ryzen 9000なら7月に戻る。では、それより前のCPUを使っているユーザーはどうなるのか。

Ryzen TSME問題の経緯
2020年
AMDエンジニアがTSME動作を確認
Ryzen 7 3700X(コンシューマー)での動作をGitHubで認める
2025年
同エンジニアがTSME使用を推奨
BIOSで有効にすることを案内
2026年4月
ユーザーがTSME無効化を発見
Ryzen 7 9700Xでの監査ツール実行時に判明
2026年6月
MSIがファームウェア制限を確認
同一マザーボードでコンシューマーとPROを比較検証
6月15日
調査報道が公開
AMDエンジニアの過去の発言との矛盾が明るみに
6月19日
AMDがTSME復活を表明
Ryzen 9000シリーズPRO以外で7月に復活
7月
BIOSアップデートで復活予定
対象はRyzen 9000のみ。それ以前の世代は未定

空白の意味

AMDは一度もTSMEをコンシューマー向け機能として公式に宣伝したことがない。AMDからすれば、公式機能でないものを削除しても問題はない、となるだろう。

ただ、シリコン上では何も変わっていない。コンシューマーRyzenもRyzen PROも、メモリ暗号化を行うハードウェアは同一だ。違いはファームウェアのフラグひとつ。それを、告知もリリースノートもなく、Windowsでは検知すらできない方法で切り替えた。購入済みの製品に対して。BIOSの設定画面にはスイッチを残したまま。

「コミュニティからの貴重なフィードバックに基づき」復活させるということは、フィードバックがなければそのままだったことを意味する。声を上げなかったユーザーの環境では、暗号化されていると思っていたメモリが素通しだった期間がある。

7月のBIOSアップデートでTSMEは復活する。だが残るのは、復活したという事実よりも、黙って消せるという事実のほうだ。ファームウェアレベルのセキュリティ機能は、ユーザーから見えないところで変わりうる。今回はLinuxの監査ツールと一人のユーザーの執念がそれを可視化した。次も誰かが気づく保証はない。

参照元: AMD will reinstate memory encryption on Ryzen 9000 CPUs through a BIOS update in July

他参照: Users cry foul after AMD stripped memory crypto from its consumer CPUs

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