味の素ABFの上流値上げ、台湾載板三雄に転嫁の波
味の素のフィルム値上げ要求が3月末に表面化してから1ヶ月半。その圧力は台湾の載板三雄が4月に記録した売上の数字へと、はっきり姿を変えて現れている。
値上げのバトン、川上から川下へ渡る瞬間
工商時報が11日、台湾の載板三雄である欣興(ユニマイクロン)、景碩、南電の4月売上が揃って過去最高水準に達したと報じた。欣興は139.33億台湾ドル(約704億円)、景碩は40.72億台湾ドル(約206億円)、南電は44.51億台湾ドル(約225億円)。AIサーバーと高階交換器(スイッチ)チップ向けのABF載板需要が、業界全体の稼働率と価格を同時に押し上げている。
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2026年4月単月売上
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この記録更新の背景には、 川上から川下への値上げ連鎖 が動き出した事実がある。3月31日に英アクティビストファンドのパリサー・キャピタルが味の素に対して「ABFフィルムの30%以上の値上げ」を提案したことは、日本でも話題になった。その提案から1ヶ月半。今度は、その材料を加工して半導体パッケージ基板を作る台湾の載板メーカーが、自分たちの製品価格を上げる側に回りつつある。
工商時報は供給網関係者の話として、ABF載板市場で交期延長、現物価格上昇、材料コスト転嫁という3つの追い風が同時に発生していると伝えている。
ABF載板の供給ギャップは2027年末まで延長される見通しで、業界では2026年Q2から平均価格が 5〜10%の上昇 、現物価格の一部は30%超まで上昇する局面も出ているという。これは、味の素のフィルム値上げ要求が現実の取引価格に反映され始めた最初の兆候かもしれない。
数字で見える、粗利率の景色変化
売上の数字だけでなく、粗利率の方に目を向けると、2026〜2027年の景色がさらにはっきり見えてくる。業界平均粗利率は2026年に22〜30%へ、2027年は30〜35%まで上がると予想されている。
この水準は、AI需要が本格化する前の2023〜2024年に台湾載板メーカーが経験した苦境(一桁台の粗利率や赤字スレスレ)と比べると、別の業界に見えるほどの差がある。AIサーバー向けのABF載板は、製品が「 大面積・高層数 」へ向かうほど良品率が下がり、その分だけ単価が上がる構造になっている。
味の素は2026年4月時点で株価が累計40%以上上昇し、2月27日には終値で4,968円の最高値を記録した。WSJの記事や複数の証券アナリストが指摘してきたように、ABFはNVIDIAのBlackwell GPUの最終販売価格に占める割合が0.1%未満。値上げしても顧客負担は限定的、というのがパリサー側の論理だった。
その論理が、いま台湾の載板メーカーを経由して、より大きな価格転嫁の波として可視化されつつある。フィルム単体の値上げ余地が3割なら、それを使った載板側にも、味の素のフィルム価格30%上昇に対して 3〜6%の調整余地 が出てくる、と工商時報は試算している。
三雄の中で、勝ち組と「縛られ組」
ただし、台湾載板三雄のすべてが等しく恩恵を受けるわけではない。記事を読み解くと、各社の状況には明確な差がある。
南電(南亞PCB)は、BT載板と長期契約に縛られていないABF載板の比率が高く、今回の価格上昇サイクルでもっとも素直に恩恵を受ける位置にいる。景碩は、子会社の晶碩光学(コンタクトレンズ事業)の安定収益に加え、AIアプリケーションの浸透率上昇で高階ABF市場のシェアを伸ばす見込みだ。
欣興は約70%のABF出荷が長期契約に覆われており、短期的な値上げの恩恵を受けにくい。市場予測では、CPO(Co-Packaged Optics、光学部品と半導体チップを一つのパッケージに統合する技術)と次世代AIサーバーの需要拡大で、数四半期後には価格弾性が回復するとされている。
AIサーバー向け載板ビジネスには、興味深い構造がある。 長期契約と短期収益の反比例 という現象だ。欣興は世界最大のABF載板メーカーであり、4大クラウドサービスプロバイダー(Amazon、Microsoft、Google、Meta)とNVIDIAのBlackwell GPU向け第2供給者だ。それでも、契約の安定性が高いほど、足元の価格上昇には機敏に対応できない。
景碩や南電のような「相対的に長期契約の縛りが緩い」メーカーは、現物価格の30%超上昇の波に乗れる。代わりに、契約の安定性では一段下にいる。投資家からみれば、次の値上げサイクルで業績の振れ幅が大きいのはどちらか、という比較になる。
| 項目 | 欣興 | 景碩 | 南電 |
|---|---|---|---|
| 市場地位 | 世界最大の ABF載板 |
世界最大の BT載板 |
BT・ABF 両事業展開 |
| 長期契約 比率 |
約70% | 中 | 低 |
| 短期値上げ 恩恵 |
限定的 | 中 | 大 |
| 主要顧客 | NVIDIA 4大CSP |
Google Meta ASIC |
BT・ABF 両分野 |
| 注目 サブ事業 |
— | 晶碩 (コンタクト レンズ) |
— |
| 将来 成長要因 |
CPO・ 次世代AI サーバー |
AI浸透率 向上 |
価格上昇 サイクル |
日本企業の現在地、味の素とイビデンの立ち位置
最後に、日本人読者として気になるのは、味の素とイビデンの位置だ。
味の素のABFフィルムは世界シェアほぼ100%。複数の業界アナリストは、この構造が少なくとも2030年頃までは続くとみている。今回の値上げサイクルで実際にABF価格が30%上がるかは、アクティビストの提案への味の素の経営判断と、半導体メーカー側の需要圧力との綱引きで決まる。味の素自身は2026年2月発表の2025年度第3四半期決算で、AIサーバー向け高機能材料の伸びを背景に過去最高水準の業績を更新している。
イビデンは2026年3月期第3四半期で営業利益が前年同期比27.7%増となり、AIサーバー向け基板の需要を取り込んで業績を伸ばしている。同社は2026年2月3日、2026年度から2028年度の3年間で総額約5,000億円の設備投資計画を発表しており、増産の本格寄与は2027年以降の見通しだ。
つまり、味の素もイビデンも、いま「値上げサイクルの果実」をフルに刈り取れる段階にはまだ達していない。台湾の載板三雄が4月の数字で先に動いているのは、 流通段階の価格弾性 が早く反映されるからに他ならない。日本企業の業績にこの波が本格的に反映されるのは、2026年後半から2027年にかけてになるとみられる。
味の素のフィルム1枚から始まった値上げ提案が、台湾の3社の月次売上に届くまで、ちょうど1ヶ月半。次にこの波がイビデンや味の素自身の数字へ戻ってくるとき、AI半導体サプライチェーンの収益構造はまた違う顔をしているはずだ。
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