Anthropic、セカンダリ市場で評価1兆ドル到達OpenAI逆転
プライマリ380億ドルからたった3か月で、セカンダリ取引所Forge Globalの値はほぼ3倍に跳ねた。買い手は「値段ではなく名前を買っている」と市場関係者は語る。
プライマリ380億ドルからたった3か月で、セカンダリ取引所Forge Globalの値はほぼ3倍に跳ねた。買い手は「値段ではなく名前を買っている」と市場関係者は語る。
3か月で2.6倍という異常な跳ね方
AIスタートアップAnthropicのセカンダリ市場での評価額が、いま1兆ドル前後をさまよっている。プライベート株式取引所Forge GlobalのCEOケリー・ロドリゲス(Kelly Rodriques)氏がBusiness Insiderに認めた数字だ。同じプラットフォームでOpenAIは8800億ドルで取引されており、AIの2強の序列があっさり入れ替わった。
驚くべきはそのスピードだ。AnthropicがGICとCoatue主導のシリーズGで380億ドルの評価を受けたのは2026年2月。わずか3か月後、セカンダリ市場はその2.6倍以上を値付けしている。普通の会社なら、ここまで動くのに数年かかる。
数字そのものは狂っているように見えるが、これは「Anthropicが1兆ドルの会社だ」という意味ではない。セカンダリ市場で取引されているのは流動性の乏しい少数株で、議決権もなく、IPOや売却を強制する手段もない。買い手がその価格で少量のシェアを買う意思がある、というだけの話だ。
買い手が殺到し、売り手がいない
価格を押し上げているのは、需要と供給のバランスが壊れていることだ。
プライベート証券を扱うRainmaker SecuritiesのCEOグレン・アンダーソン(Glen Anderson)氏は、最近960億ドルの評価でAnthropic株を買える機会を提示されたと語っている。
1か月前なら想像もできなかった水準だが、その株はほんの数時間で競合する買い手に奪われていった。
エピックな走りだ、と同氏は表現した。「誰もがAI分野での世代的な機会に関わりたがっており、いまAnthropicはポールポジションにいる」という空気が市場を覆う。
売り手の話はもっとすさまじい。Saints Capitalの共同創業者ケン・ソーヤー(Ken Sawyer)氏によれば、あるAnthropic株主は1.15兆ドルの評価で株を手放したいと提示してきたという。
OpenHome創業者のジェシー・ライムグルーバー(Jesse Leimgruber)氏は、自身が保有するAnthropic株に対し「非常に名の通ったグロースファンド」から1.05兆ドルの評価で買いオファーが来たとXに投稿した。
https://x.com/JesseRank/status/2046730690386182629
「absolutely wild」(まともじゃない)と彼は書いた。率直な感想だと思う。
セカンダリ市場での1兆ドルという評価は、Anthropicが次のプライマリラウンドで1兆ドル調達できることも、IPOがその水準で値付けされることも意味しない。流動性のない少数株に、特定の買い手がその値を払う意思がある、ということを示しているだけだ。
LinkedInでは、14エーカーの邸宅をAnthropic株と交換したい、という投資家まで現れた。評価額は8000億ドル超。現金を積むだけでは足りず、不動産まで差し出す買い手が出てくる市場、というのは常軌を逸している。
売上の急角度カーブと「Anthropic投資家」の肩書き
狂騒の土台にある数字は、たしかに異様だ。
Anthropicの年換算売上(annualized run rate)は、2025年末時点で約90億ドル。それが2026年3月には300億ドルに到達した。1四半期で233%増という数字は、ソフトウェア企業の常識では起こらないはずのことだ。牽引役はAI コーディング支援ツールのClaude Codeと、企業向けAPI・エンタープライズ製品の採用拡大とされる。
Amazonが追加で最大250億ドルを投じたニュースも、ムードを冷ますどころか火に油を注いだ。私的株式取引を追跡するCaplightによれば、過去12か月でAnthropic株への関心は650%以上跳ね上がっている。
エンジニアや初期投資家が持つ株を放出させて買い取るしかない。そして彼らの多くは、まだ売る気がない。
この需給ギャップがそのまま価格に反映される。
一方で、アンダーソン氏の解釈には醒めた視線も混じる。「もはやリターンの話ですらない。『自分はAnthropicの投資家だ』と言えることのほうが価値を持っている」。数字よりステータス、リターンより肩書き。シリコンバレーの投資判断がこの段階に入ったとき、相場は大抵どこかで軋む。
OpenAIは「微増」、熱の向きが変わった
対照的なのがOpenAIだ。同社のセカンダリでの評価額8800億ドルは、2026年3月のプライマリラウンドでの8520億ドルからわずか3%上乗せしたにすぎない。
Caplightのデータによれば、2026年第1四半期のOpenAI株のセカンダリ取引では、売り希望が買い希望の5倍に達した。2025年末には買い手が優勢だった市場が、3か月で完全に反転している。アンダーソン氏はOpenAI市場を「tepid」(生ぬるい)と形容した。
ChatGPTの知名度と利用者数は依然として圧倒的なはずで、それでもセカンダリ市場の温度差はここまで開く。市場参加者がいま評価しているのは、コンシューマー指標ではなく、エンタープライズでの収益化速度とバリュエーションの「伸びしろ」だ。
1兆ドルは「プライマリの真実」ではない
ここで冷静になっておきたい。セカンダリ価格は、Anthropicが次の資金調達ラウンドで1兆ドルを調達できるという意味ではない。IPO時の時価総額がそこに着地するという意味でもない。
実際、AnthropicはゴールドマンとJPモルガンの助言のもと、2026年後半のIPOを準備しているとされ、目標レンジは4000億〜5000億ドルと報じられている。セカンダリで1兆ドル近辺の値がついていても、IPO時の公式評価額はその半分以下になる可能性がある。
もしセカンダリの高値で買った投資家がいて、IPOがそのレンジで着地すれば、彼らの持ち分は上場初日に紙の上で大きく目減りする。FOMOで積み上がった価格は、FOMOが抜けた瞬間に剥がれ落ちやすい。
世代的な機会か、世代的なバブルか
AI投資の熱はもはや財務モデルで説明できる段階を超えている。「名前を買う」「肩書きを買う」という投資判断は、バブル末期の典型的な語彙でもある。
ただし、Anthropicの収益カーブが本物であることもまた事実だ。1四半期で売上を3倍以上にできる企業は、ソフトウェア史全体を見てもごくわずかしか存在しない。
問題は、この走りがどこまで続くか、そして市場が値付けしているのが「続くこと」なのか「続いてほしいこと」なのかだ。Forge Globalの画面に並ぶ1兆ドルという数字は、Anthropicそのものの姿ではなく、投資家たちの欲望を映した鏡にすぎない。
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