アルトマン、Mythosを「恐怖マーケティング」と批判
OpenAI CEOのサム・アルトマンが、AnthropicのサイバーモデルMythosを「恐怖に基づくマーケティング」と公然と批判した。同じ口で「AIは人類存続への最大の脅威」と書いてきたのが彼自身である事実は、どこへ行ったのか。
OpenAI CEOのサム・アルトマンが、AnthropicのサイバーモデルMythosを「恐怖に基づくマーケティング」と公然と批判した。同じ口で「AIは人類存続への最大の脅威」と書いてきたのが彼自身である事実は、どこへ行ったのか。
「爆弾を作った、1億ドルで防空壕を売る」
アルトマン(Sam Altman)が、ポッドキャスト「Core Memory」の収録で、競合Anthropicの新しいサイバーセキュリティモデル「Mythos」を名指しで攻撃している。言い回しはかなり直接的だ。
「爆弾を作りました、これからあなたの頭上に落とします。1億ドルで防空壕を売ります──これは素晴らしいマーケティングだ」
Anthropicは4月7日、Mythosを少数のエンタープライズ顧客限定で公開した。理由として同社が挙げたのは「強力すぎて一般公開すればサイバー犯罪者に悪用される」というものだ。実際、Mythosは主要OSとWebブラウザに存在する数千件のゼロデイ脆弱性を数週間で発見している。Firefox 147のJavaScriptエンジンに対する攻撃エクスプロイト成功率は、前世代Claude Opus 4.6が数百回の試行で2回のみ(ほぼ0%)だったのに対し、Mythos Previewは72.4%まで跳ね上がった。性能は本物と見てよい数字である。
アルトマンは「AIを少数のエリートの手に留めようとする人々がいる、それを正当化する方法はいくつもある」とも発言した。要するに、Anthropicの「危険だから囲い込む」という論法そのものが販売戦術だと断じているわけだ。
1週間後に、OpenAIも同じ商品を出した
ここで問題が出てくる。OpenAIはMythos発表のちょうど1週間後にあたる4月14日、自社の「GPT-5.4-Cyber」を投入している。サイバーセキュリティ用途に特化したバリアントで、公式には「サイバー許可型(cyber-permissive)」と説明された。通常のGPT-5.4では拒否されるデュアルユース(二重用途)の質問に答えられるよう調整した、という売り文句である。
提供方式はこうだ。本人確認済みの「防御者」に対してのみ開放する「Trusted Access for Cyber(TAC)」プログラム経由でしか触れない。OpenAIはこれを個人ディフェンダー数千人、チーム数百に絞っている。Axios(アクシオス)はこの構図をAnthropicより制限が緩いと報じたが、逆から見れば「本人確認とTAC加入が必要な囲い込み」であることに変わりはない。商品の設計思想はほとんど同じだ。
しかも80,000 Hoursの分析によれば、アルトマンは別の場面で「OpenAIのコーディングモデルでAnthropicと同様の結果が出ている」と発言している。つまり「相手の商品は誇張だ」と言いながら、自社にも同等品があると認めているわけだ。ならば批判の矛先は「恐怖マーケティングという手法」ではなく、市場の主導権を先に取ったAnthropicへの苛立ちに向いていると読むのが素直だろう。
過去のアルトマンが、今のアルトマンに反論する
面白いのは、この「恐怖マーケティング」の総本山がかつてアルトマン本人だったという事実だ。
2015年のブログ記事で、アルトマンは次のように書いている。
超人的機械知能の開発は、おそらく人類存続への最大の脅威だ。
続けて「進化は止まらない。人類がもはや最も適合した種でなくなれば、私たちは消えていくかもしれない」と述べた。2023年には、非営利団体Center for AI Safetyが出した「AI絶滅リスク声明」に署名している。パンデミックや核戦争と同格の社会規模リスクとしてAIを扱うべきだ、という内容だ。この声明には、ダリオ・アモデイ(Dario Amodei、AnthropicのCEO)もGoogle DeepMindのデミス・ハサビスと共に名を連ねた。
Bloomberg(ブルームバーグ)の記者マット・レヴィン(Matt Levine)は、この手法を「ビジネス・ネギング」と呼んだ。ネギングは「相手を軽く下げて関心を引く」対人心理術を指す俗語だが、彼の整理はシンプルだ。「私たちに製品を作らせるな。人類を破壊するから」と言うだけでOpenAIは巨額の評価額を引き出した、という話である。
批判している当人が、同じマーケティング手法のパイオニアだった。この記憶は、2年や3年で消えるものではない。
OpenAI社内は「恐怖の上に築かれた物語」と呼ぶ
アルトマンの発言は、単独のぼやきではない。同じ論点はOpenAI社内でも共有されている。
最高収益責任者(CRO)のデニス・ドレッサー(Denise Dresser)が社員に宛てた4ページの内部メモがリークした。そこで彼女はAnthropicの物語を「恐怖、制限、そしてAIを少数のエリートが支配すべきだという発想の上に築かれている」と表現した。加えて、Anthropicが年換算売上高300億ドル(約4兆7,700億円)と報じられている数字について、「80億ドル(約1兆2,700億円)ほど水増しされている」とも主張している。クラウド提携先のAWSやGoogleに支払う分を差し引かない総額計上だから実態より大きく見える、という指摘だ。
グローバル政策責任者のクリス・レヘイン(Chris Lehane)も、San Francisco Standardの取材に応じて次のように語っている。
出回っている議論のなかには必ずしも責任あるとは言えないものがある。そういう考えを世に出すと、結果を伴う。
彼はアルトマン自宅に火炎瓶が投げ込まれた事件を念頭に、doomer(破滅論者)側のレトリックを問題視した格好だ。
つまりOpenAI社内では、CEOの発言・CROのメモ・政策責任者のインタビューが同じ方向に揃っている。偶発的な本音ではなく、協調的な対抗キャンペーンと見るのが妥当である。
どちらが恐怖商売をしているか、ではなく
両社の応酬が示しているのは、「どちらが恐怖を売っているか」ではなく、AI業界全体が危機感を燃料に膨らんできた構造そのものだ。Fortune(フォーチュン)が皮肉を込めて書いている通り、自社製品が文明を破壊しかねないと繰り返し警告してきた消費者向け製品を、ほかに思いつくだろうか、という話である。
皮肉な補助線を引くなら、アルトマン本人の自宅には4月中旬、火炎瓶が投げ込まれた。20歳のテキサス州の男が逮捕されている。AI反対派の行動が過激化している背景には、AI企業自身が長年発信し続けた「AIは世界を破壊する」というメッセージがある。恐怖を売った者が、その恐怖に怯えた者から攻撃される構図は、誰が仕掛けたかという問いに重い材料を追加する。
読者はどう読むべきか
Mythosが本当に「強力すぎて公開できない」ほど危険なのか、それともAnthropicがナラティブを先に押さえるために制限公開を選んだのか。外部からは検証しきれない。ただ、英国政府傘下のAI Security Institute(AISI)が独立評価でMythos Previewの高い攻撃能力を確認している以上、「誇張だけ」と切り捨てるのも雑な話ではある。
一方で、アルトマンの指摘も完全に的外れではない。「危険だから囲い込む」という枠組みは規制当局や大口顧客との関係構築に都合がよく、規制捕捉(regulatory capture)の道具として機能しうる。シリコンバレーのベンチャーキャピタリストで現ホワイトハウス「AI皇帝」のデービッド・サックス(David Sacks)は、Anthropicを「恐怖煽動に基づく洗練された規制捕捉戦略を展開している」と批判した。この視点は無視できない。
読者が押さえておくべきは3点だ。Mythosの能力は第三者評価で裏付けられている。しかし能力の高さは、それをどう売るかの正当化とは別物である。そして批判する側も同じ商品を、同じ囲い込み方式で売っている。この3つを頭に置いた上で、どちらのナラティブを信じるかを決める──もしくは、どちらも信じないと決める──のが、いまの読者にできる最善の態度だと思う。
爆弾を売る商売と、防空壕を売る商売。両方やっているのが誰なのかは、少なくとも1社に限った話ではない。
参照元
他参照
- OpenAI - Trusted access for the next era of cyber defense
- San Francisco Standard - OpenAI policy czar thinks doomers are playing with fire
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