GPUなしで世界最速。中国スパコンがTOP500首位を奪取

GPUなしで世界最速。中国スパコンがTOP500首位を奪取

深圳に据えられた灵晟(LineShine、リンシェン)が、TOP500の首位に立った。GPUを一切使わず、CPUだけでHPLベンチマーク2.198エクサフロップスを記録。2024年11月から首位を守ってきた米国のEl Capitanを20%以上引き離し、中国のスパコンとしては2017年以来の世界最速となった。

ただし、「GPUなしの世界最速」が意味するのは、純粋な技術的快挙だけではない。


約1400万コアのCPU専用機

ISC 2026(ドイツ・ハンブルク)で現地時間6月23日に発表された第67回TOP500リスト。LineShineは初登場1位を飾った。深圳雲計算中心(Shenzhen Cloud Computing Center)が構築し、国家超級計算深圳中心(NSCS)に設置されたシステムだ。

設計上の最大の特徴は、GPUの完全な排除にある。現在の最先端スパコンの大半は、NVIDIAやAMDのGPUで演算能力を稼ぐ。El CapitanもAMD Instinct MI300Aを搭載したGPU主導の設計で、HPL 1.809エクサフロップスを達成していた。

LineShineはこれと正反対のアプローチを取った。Armv9ベースの独自プロセッサ「LX2」を搭載し、1プロセッサに304コア。各コアにArm SVE(Scalable Vector Extension)とSME(Scalable Matrix Extension)を組み込むことで、ベクトル演算と行列演算をCPU内部で完結させている。GPUが担ってきた並列計算の役割を、専用回路を埋め込んだCPU群に引き受けさせた設計だ。総コア数は約1379万、キャビネット90本、消費電力42.2MW。

TOP500の運営に創設期から関わり、2021年チューリング賞を受賞したジャック・ドンガラ(Jack Dongarra)氏は、実際に深圳を訪れてLineShineを視察している。「GPUに依存しないシステムを作り上げて、われわれを上回った」。

HPCGベンチマーク(科学計算の実態に近い指標)でもLineShineは22ペタフロップスで1位。ただしAI向け混合精度を測るHPL-MxPでは7.92エクサフロップスで4位にとどまり、首位のEl Capitan(16.7エクサフロップス)を大きく下回る。科学計算の王者であっても、AIワークロードでは別の序列がある。

LineShine vs El Capitan — システム比較
LineShineEl Capitan
基本設計
設置場所中国・深圳
NSCS
米国・LLNL
設計思想CPU専用GPU主導(APU)
プロセッサLX2
Armv9 / 304コア
AMD EPYC
+ MI300A
総コア数約1379万約1134万
ベンチマーク
HPL2.198 EFlops1.809 EFlops
HPCG22.00 PFlops17.41 PFlops
HPL-MxP7.92 EFlops16.7 EFlops
電力
消費電力42.2 MW約29.7 MW
電力効率52.07 GFlops/W60.94 GFlops/W
※ TOP500 第67回リスト(2026年6月)公表値。El Capitanの消費電力はHPLスコアと電力効率から逆算した推定値
El Capitanを100%とした時のLineShineの相対スコア
※ 各ベンチマークのEl Capitanスコアを100%として、LineShineの相対値を算出。HPL・HPCGは倍精度科学計算、HPL-MxPはAI向け混合精度

「政府資金なし」という公開条件

2017年の神威・太湖之光以来、中国のスパコンはTOP500の首位から遠ざかっていた。2019年の米国制裁以降は新規提出も途絶え、直近3年間は中国からのエントリーがなかった。天河三号や神威の新世代機がエクサスケール級に達しているとの観測は複数あったが、ベンチマーク結果は一切出てこなかった。

ドンガラ氏が中国訪問中に聞かされた説明は、この空白の理由を裏側から照らす。LineShineは政府資金なしで開発されたため、TOP500へのベンチマーク提出が許されたという。

裏を返せば、政府資金が入ったシステムの性能は今も外に出せないことになる。提出できたのは「民間だから」だ。性能を見せたくて公開したのではない。公開が許される条件を満たしていたから出した、という順序になる。

Intersect360 Researchのアディソン・スネル(Addison Snell)氏はこの点に注目する。首位を取れる実力があること自体には驚かないが、「驚いたのは、提出して評価を求めたことだ」。

Armの命令セット、「完全国産」の注釈

LineShineは「国産チップのみで構成」とされるが、その心臓部であるLX2プロセッサの命令セットアーキテクチャはArmv9だ。Armは英国企業で、日本のソフトバンクが筆頭株主。スマートフォンのCPU設計で圧倒的なシェアを持ち、近年はNVIDIA、Amazon、Qualcommなどがデータセンター向けにもArm技術を採用している。中国国内ではArm China(安謀中国)が事業を展開し、Arm本体とは独立して運営されている。

LX2の開発元は公式には明かされていないが、調査会社Jon Peddie Researchは「Huawei LX2」と呼んでいる。

Arm側は「適用される輸出管理法令に準拠してグローバルに事業を行っている」とコメントした。Armの命令セットはスマートフォンから自動車、データセンターまであらゆる機器に浸透する汎用技術であり、現行の規制枠組みでは禁輸対象にならない。

ここが、この話の分岐点になる。

米国の輸出規制はGPUに照準を合わせてきた。NVIDIAのA100、H100、そしてその後継チップへの中国のアクセスを制限することで、AIの大規模学習を困難にする狙いだった。LineShineはそのGPU規制の「外側」をCPUで突破した。

カリフォルニア大学グローバル紛争・協力研究所のジミー・グッドリッチ(Jimmy Goodrich)氏は「米国政府は中国市場向けCPUの輸出と製造に、より強い規制を設けるべきだ。現行規制の抜け穴だ」と語る。一方でArm CEOのレネ・ハース(Rene Haas)氏は別の場で「CPUは石油のようなものだ。用途があまりにも広い」と述べ、CPU規制の実効性に疑問を呈している。

穴を塞げば迂回路が生まれ、迂回路を塞ごうとすれば影響範囲が広がりすぎる。GPUからCPUへ、という展開がまさにその構造を体現している。

ゴードン・ベル賞にも参戦

LineShineの意義がベンチマークの数字だけにとどまらないことは、応用実績からも見える。

ドンガラ氏のレポートによれば、LineShineは大気・海洋・陸地・氷を統合した地球の大規模シミュレーションや、脳の複雑なシミュレーションに使われている。稼働以来、大気海洋科学、工学シミュレーション、材料科学、創薬、脳科学、科学AI、大規模モデル推論と、幅広いワークロードを処理しているという。

科学計算の最高峰を競うゴードン・ベル賞にも14件のプロジェクトを提出し、3件が本賞のファイナリスト、気候科学部門でも3件が最終選考に残っているとドンガラ氏は報告している。

ただしこの話を額面通りに受け取ることにも留保はある。TOP500はあくまで任意参加のベンチマークであり、Microsoft、Amazon、Googleなどのハイパースケーラーは自社のAIクラスターを提出していない。AI政策の研究者らの分析では、xAIのColossusなど民間のAI特化クラスターはEl Capitanをすでに上回っている可能性がある。グッドリッチ氏も「ハイパースケーラーがシステムを提出すれば、この『世界最速』はトップ5にも入らないだろう」と述べている。

それでも、TOP500の首位が意味を失ったとは言えない。科学計算に必要な64ビット倍精度での2エクサフロップス超は、CPUだけで達成された史上初の数字だ。「政府資金なし」「Arm依存」「CPU規制議論」。この三つの伏線が示すのは、スパコン競争がもはや純粋な演算速度の比べ合いではなくなった、という事実そのものだろう。

参照元:TOP500 – LineShine Debuts at No. 1 as the TOP500 Enters a New Global Exascale Era

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