SteamのAIスティグマ。売れる力があるほど重い

SteamのAIスティグマ。売れる力があるほど重い
Valve

ゲーム市場分析サービスGame Oracleが2025年12月に公開した調査が、半年を経て改めて注目を集めている。同社のプロダクト・データ部門責任者であるロス・バートン(Ross Burton)氏が約1万本のSteam有料タイトルを対象に行った統計分析の結論は、開発者にとって無視できないものだった。AI使用を開示したゲームは、同等の条件で比較した場合、レビュー数が約53%減少する。レビュー数はSteam上の売上推定に広く使われる代理指標であり、この数字はそのまま売上の半減を示唆する。


約1万本の統計が映したもの

バートン氏の分析対象は、2025年1月から10月にSteamでリリースされた有料タイトル9,879本。このうち17.9%がAI使用を開示していた。

表面的な数字だけでもAI開示ゲームの不利は見える。発売後1か月間のレビュー中央値は、非開示タイトルの7件に対してAI開示タイトルは4件。レビューがゼロのまま1か月を過ごしたタイトルの割合は、非開示が15.2%、AI開示が19.8%。100件以上のレビューを獲得したタイトルに限っても、好評率の中央値は非開示の88.3%に対し、AI開示は84.6%にとどまった。

だが、この数字だけで「AIが売上を下げている」と結論づけるのは早い。AI開示ゲームには経験の浅い開発者やリソース不足のインディーが多く含まれる可能性がある。バートン氏はこの点を正面から扱い、因果推論の手法を持ち込んだ。

因果グラフで「公平な比較」を設計する

バートン氏が採用したのは因果グラフ(DAG)と呼ばれる手法だ。「AI使用」と「レビュー数」の双方に影響する交絡因子を洗い出し、バイアスを除くために最低限統制すべき変数を特定する。選ばれたのは開発者の経験値、パブリッシャーの有無、ゲームのジャンル、リリース月の4つだった。

開発者の経験値を直接測定するデータはない。代わりに「Steamでの過去リリース本数」を代理指標とし、6か月に1本以上のペースで量産する開発者や100ドル超の初期価格を設定したタイトルをスパムとして除外した。統計モデルの設計段階でも「この代理指標はノイズが多い」という前提を組み込んでいる。

この設計のうえで組まれた統計モデルが出した結論が、52.6%(信頼区間47.69%〜57.63%)の減少だ。同じジャンルの、同じ月にリリースされた、同程度の経験とパブリッシャー体制を持つ開発者が2組いたとして、AIを使った側は使わなかった側の半分以下しかレビューを得られないと推定される。

AI開示の有無によるSteamゲームのパフォーマンス差
AI非開示AI開示あり
レビュー中央値7件4件
レビューゼロ率15.2%19.8%
好評率中央値88.3%84.6%
条件統制後の
推定影響
-52.6%

「見えないX要因」を仮定しても結論は揺らがない

レビュー数に影響しうる要因はほかにもある。マーケティング予算、開発者のスキル、単純な運。バートン氏はこの「測定できないX要因」の影響を仮定で検証する感度分析を行った。

結果はヒートマップで示されている。AI使用の影響をゼロに帰すためには、未測定のX要因が「AIを採用する確率を2.7倍以上高め」かつ「レビュー数を22%以上減少させる」ほど強力でなければならない。パブリッシャーの有無や開発経験とは独立に、それだけの効果を持つ単一要因が存在するという仮定は、かなり苦しい。

そしてここに、この調査で最も目を引く逆説がある。

成功するはずだった開発者ほど重い

感度分析が浮かび上がらせた2つのシナリオは、対照的だ。

経験も予算もない初心者開発者がAIに頼った場合、売上への追加ダメージはほぼゼロ。そもそもAIがなくても売れなかったゲームだから、AIの開示が追い打ちになることもない。

一方、実績のあるスタジオがワークフロー改善のためにAIを試すと、推定される減少幅は40%から60%に跳ね上がる。スキル、予算、マーケティング力といった「本来なら売上を押し上げる要因」が強いほど、AI開示による落差が大きくなるという構造だ。

バートン氏はこう結論づけている。低品質なゲームにとって、AIは何も変えない。だが高い潜在力を持つゲームにとって、「AIスティグマ」は現実であり、本来なら成功していた開発者を深刻に罰している。

半年後の現実が、データを裏書きしている

この調査は2025年12月の公開時にはそれほど大きな波紋を呼ばなかった。だが2026年6月のいま、業界で起きていることがバートン氏の分析をリアルタイムで追認している。

6月上旬のSummer Game Festで、『クレイジータクシー:ワールドツアー』はSteamページにAI開示を載せた途端、ゲームの中身よりAIの話が先行した。シリーズの生みの親、菅野顕二氏が「参考として使い、最終的にはアーティストが描いた」と説明しても収まらない。『トゥームレイダー』最新作でも同様の展開が起きている。

6月中旬のSteam Next Festでは約8,600本の参加タイトルのうち約1,700本がAI開示を行い、5本に1本がAI使用タイトルとなった。だが最も多くプレイされたデモ上位50本のうち、AI開示があったのはNexonの大型MMO『Embers of the Uncrowned』ただ1本だった。プレイヤーの行動は、データが予測した通りに動いている。

積み重なる事例

2025年末、『Clair Obscur: Expedition 33』はThe Game Awards 2025でGOTYを含む9冠を達成した。だが開発過程でプレースホルダーにAIを使っていたことが判明し、Indie Game AwardsのGOTYを剥奪される。2026年3月には『Crimson Desert』が発売直後にAI生成アセットの混入を指摘され、Pearl Abyssが謝罪と全面監査を表明した。どちらも「仮素材として使い、差し替える予定だった」という説明だったが、プレイヤーの反応は厳しかった。

6月にはポケットペアのジョン・バックリー氏が「ゲーマーはAIを望んでいない。望んでいないなら、それで終わりだ」と明言した。一方でソニーは年次戦略資料に「AIがスタジオの創造性を解放する」と記し、Epic Gamesのティム・スウィーニー(Tim Sweeney)氏はSteamのAI開示制度そのものに反対し続けている。業界の見解は割れたまま、プレイヤーの態度だけが一貫して厳しい。

この調査が示していないこと

分析の誠実さは、限界を明示しているところにも表れる。

バートン氏のモデルが扱えたのは「AIを使ったか否か」の二値であり、「AIをどう使ったか」は分析対象に含まれていない。AI開示の記述はばらつきが大きく、分類しようとすればバイアスを持ち込む危険があったためだ。『THE FINALS』や『Suck Up!』のようにAIをゲームプレイの核に据えて商業的に成功した例もあり、使い方の質が結果を左右する可能性は高い。

レビュー数が売上そのものではない点にも注意がいる。サードパーティ経由の購入者はSteamレビューを書けないため、販売チャネルの構成によって精度にばらつきが生じうる。

もう一つ、未開示のAI使用がどの程度存在するかは不明だ。Steamの開示義務に反してAIの使用を申告しない開発者がいれば、「非開示」グループにAI使用タイトルが混入し、差異が実際より小さく見えている可能性がある。

なぜレビューが半減するのか、誰も答えられていない

53%という数字の原因は、実は特定されていない。プレイヤーがAI開示を見て意識的に避けているのか。AIに頼ること自体がゲームの質を下げているのか。AIを使う判断が、コスト削減や納期短縮といった「手を抜く方向の意思決定」と相関しているだけなのか。

バートン氏自身は最後にこう書いている。AIはツールであり、避けるべきものではない。小屋を建てるのにハンマーを避ける人はいない。ただし、何でもかんでもハンマーで叩くな、と。

しかし市場は、まだ「AIを賢く使ったゲーム」と「AIで手を抜いたゲーム」を見分けられていない。開示制度がAIの使用範囲も使い方も曖昧なまま「使った/使わなかった」の二値しか伝えない以上、プレイヤーにできるのは「使った」を見て距離を取ることだけだ。Steam Next Festのプレイ数データが示すように、その距離はすでに測定可能なほど広がっている。

焦点はAIの善悪ではなく、開示の粒度だ。「AIを使った」という情報だけでは、プレイヤーはリスクを評価できない。評価できなければ、最も安全な選択肢を取る。つまり避ける。Valveが2026年1月に開示制度を改定し、コード補完などの開発効率ツールを対象外としたのは正しい方向だが、プレイヤーが本当に知りたいのは「何を、どこまで、どの工程で使ったのか」だ。その情報が整備されない限り、AIスティグマは品質とは無関係に、開示した開発者だけを罰し続ける。

参照元
Game Oracle - AI in Games: The Impact On Sales

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