Coinbase 14%削減、暗号通貨の冬とAI時代が同時に到来した日
Coinbaseが全従業員の約14%にあたる700人を削減する。理由は二つ。暗号通貨市場の低迷と、AIが仕事の進め方を根本から変えていること。後者を主因に挙げる人員削減は、同社にとって初めてだ。
Coinbaseが全従業員の約14%にあたる700人を削減する。理由は二つ。暗号通貨市場の低迷と、AIが仕事の進め方を根本から変えていること。後者を主因に挙げる人員削減は、同社にとって初めてだ。
「14%削減」の中身
Coinbaseの最高経営責任者であるブライアン・アームストロング(Brian Armstrong)が現地時間5月5日、自身のX投稿で全従業員に向けたメールを公開した。冒頭の一文は重い。
チーム、本日、Coinbaseの規模を約14%縮小するという難しい決断を下した。
2025年12月末時点の正社員数は4,951人。14%削減は約693人の雇用が消えることを意味する。米国従業員には最低16週間分の基本給に加え、勤続年数に応じて2週間分が上乗せされる。次回の株式報酬の権利確定と、6カ月分のCOBRAヘルスケア継続も含まれる。
会社は再構築費用として5,000万〜6,000万ドル(約79億〜94億円)を計上する見込みで、その大半は退職金などの人件費だ。実行は2026年第2四半期中におおむね完了する予定だと、米証券取引委員会への提出書類に記載されている。
二つの力が同時に押し寄せている
アームストロングはメールの中で「二つの力が同時に収束している」と書いた。一つは暗号通貨市場の循環的なボラティリティ、もう一つはAIによる生産性の急変だ。
過去1年で、エンジニアたちがAIを使って、以前ならチーム全員で数週間かかっていた仕事を数日で出荷するのを見てきた。
非技術系チームも本番コードを出荷するようになり、ワークフローの多くが自動化されつつある。
これがアームストロングの認識だ。彼はCoinbaseが目指す姿を「インテリジェンス」と呼び、人間はその縁で整合性を取る役回りに変わると説明した。
Coinbaseは過去にも大規模な人員削減を行っている。2022年6月に18%(約1,100人)、2023年1月に20%(約950人)。いずれも理由は単純で、暗号通貨市況の急速な悪化だった。今回も市況の話は出てくる。だが今回新しいのは、AIが理由として並立していることだ。
「ピュアマネージャー」を置かない組織
メールの後半でアームストロングが描いた組織像は、人員削減のニュース以上に踏み込んだ内容だった。
CEOとCOOの下に管理階層を5層以内に圧縮する。一部のリーダーは15人以上の直属部下を抱えることになる。そして、人を管理することだけを仕事にする「ピュアマネージャー(pure managers)」は段階的に廃止される。すべてのリーダーは個別作業者としても手を動かす「プレイングコーチ(player-coach)」モデルが標準になる。
さらに踏み込んだのが、エンジニアリング・デザイン・プロダクトマネジメントの役割を一人に統合する「AIネイティブポッド」の試験運用だ。極端な例として、Coinbaseは「ワンマンチーム」を試すと明言した。一人がAIエージェントの群れを操って、かつて部署単位で動かしていた仕事を回す。
私たちは単に人員を減らしてコストを削っているのではない。Coinbaseの運営方法を根本から作り直している。
メールにはそう書かれている。アームストロングはこれを「スタートアップ創業期のスピードと集中に立ち戻る」と言い換えた。
「AIが理由」は、本当にAIが理由なのか
Coinbaseは2026年5月7日に第1四半期決算を発表する。アナリストの予想は売上高約15億〜17億ドル、前年同期比26%減。1株あたり利益は前年同期から81〜86%の下落見込みだ。前四半期(2025年Q4)にも6億6,700万ドルの純損失を計上している。投資ポートフォリオの未実現損が主因だが、コアの取引手数料収入も6%減と弱含みだった。
つまり、決算発表の48時間前に発表された今回の削減は、市況悪化への防衛策という側面を持っている。「AIが理由」というフレーミングは、株主に対しては前向きに響く言葉だ。実際、発表後のCOIN株は時間外取引で4〜6%上昇した。コスト削減を構造改革として説明できる経営者は、単に「市況が悪い」と言う経営者より評価される。
ただし、アームストロングが2025年に行ってきた一連の動きを見ると、AI転換を防衛策の言い訳として使っているとも言い切れない。彼は2025年2月に全エンジニアにAIコーディングツール(GitHub CopilotやCursor)の採用を命じ、従わない技術者を数人解雇した。同年中盤には「コードの33%がAI生成、目標は50%」と公言した。今回の削減は、この路線の延長線上にある。
業界全体の動向も傍証になる。CoindeskによればAlgorandは3月に25%、Geminiは2月に25%(後に30%)、Crypto.comは12%の削減を発表している。なかでも「AI転換」を前面に押し出したのはCoinbaseがもっとも明確だ。同じ時期にBlock、Pinterest、CrowdStrike、Cheggなど暗号通貨業界の外でも、AIを理由とした人員削減が相次いでいる。
残った人と、去った人
メールの最後でアームストロングは、影響を受ける従業員にすぐシステムへのアクセスを停止すると伝えた。理由は、機微な顧客情報へのアクセス権を持つ従業員が多いため、誰か一人でも軽率な行動を取るリスクを排除する必要があったからだ、と。これは2022年の削減時とまったく同じ説明文だ。
突然で厳しいと感じるはずだ。私が望んだ体験ではない。
それでも、この方法しかなかった、と彼は書く。
CoinbaseのイーサリアムL2「Base」を率いるジェシー・ポラック(Jesse Pollak)は、自身のチームから削減対象が出たことをXで明らかにし「Baseの構築に貢献してくれた才能ある人々に別れを告げた。深く感謝している」と投稿した。
暗号通貨の冬は「AIの春」を待つのか
Coinbaseは2025年5月に暗号通貨企業として初めてS&P 500に組み入れられ、8月にはオプション取引所Deribitを29億ドルで買収した。2025年通年の売上高は68億8,000万ドルに達し、ステーブルコイン関連だけで13億5,000万ドル(全体の約20%)を稼いでいる。財務的には盤石な部類に入る。
だからこそ、今回の削減は「生き残るため」ではなく「次のサイクルに勝つため」のフレーミングを取れる。アームストロングは安定通貨、予測市場、トークン化を「次の採用波」と呼び、その波を捕まえるためにスリムな組織が必要だと主張した。
ただし、この賭けには検証可能なポイントがある。AIで生産性が上がる小さなチームというモデルは、AIの恩恵が乏しい部署や、対人サポート・コンプライアンス・地域オペレーションのような領域でも本当に成立するのか。Coinbaseは過去のレイオフでカスタマーサポートの品質低下を批判された経緯がある。今回「ワンマンチーム」を試すと宣言したことで、その批判は再燃する可能性が高い。
「AI時代の運営最適化」という言葉は便利すぎる。市況が悪いから人を切るのではなく、AIで効率化できるから人を切る、という説明は株価には優しいが、解雇された693人にとってはどちらでも結果は変わらない。残された側にとっても、5階層フラット組織と15人以上の直属部下を抱えるリーダー像は、これまで以上に過酷な働き方を意味する可能性がある。
決算発表は5月7日、現地時間午後5時から。アームストロングがどんな言葉で投資家にこの構造改革を語るかで、AIフレーミングが本物か、それとも市況悪化への上手な化粧かが見えてくる。
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