データセンターが電気料金を76%押し上げた、米最大電力網の警告

データセンターが電気料金を76%押し上げた、米最大電力網の警告

米最大の電力網で、卸電力の価格が1年で約76%上がった。原因はAIデータセンターだと、市場の番人が名指しした。しかも「もう元には戻らない」と書いている。


1年で価格が倍近くに跳ね上がった

いま米国の東部で、電気料金が静かではない上がり方をしている。13の州とワシントンD.C.をまたぐ巨大な電力網「PJM Interconnection」で、卸電力の価格が1年前の倍近くまで膨らんだ。

この電力網を監視する独立機関「Monitoring Analytics」が、四半期ごとの市場報告書でその数字を公表した。2025年1〜3月に1メガワット時あたり77.78ドルだった卸電力が、2026年の同じ時期には136.53ドルになった。上昇率は75.5%。報告書は、この急騰の主な原因をAI向けデータセンターの電力需要だと結論づけている。

PJMの卸電力価格、1年で約76%上昇(1〜3月期の比較)
2025年 1〜3月期 77.78ドル
2026年 1〜3月期 136.53ドル
※ 1メガワット時あたりの卸電力コスト。Monitoring Analytics「2026 Quarterly State of the Market Report for PJM(第1四半期)」より。上昇率は75.5%。

数字だけ見れば「電気が高くなった」で終わる話に見える。だが報告書がわざわざ「irreversible(元に戻らない)」という言葉を使ったところに、この問題の重さがある。一度上がった価格は、来年の市況が落ち着いても戻らない。すでに支払いが確定しているからだ。

報告書を出したMonitoring Analyticsは、PJMの市場を監視するために連邦規則で設置された独立機関だ。電力会社でも規制当局でもなく、市場が公正に機能しているかを見張る役割を担う。

なぜ「戻らない」のか

ここで働いているのが「容量市場」という仕組みだ。これは耳慣れない言葉なので、ひとつだけ説明しておきたい。

容量市場とは、将来の電力供給をあらかじめ確保するための入札の場を指す。実際に電気を使う3年ほど前に、「このぶんの発電能力を用意しておいてください」と発電事業者にお金を払って約束を取り付ける。停電を防ぐための備えだ。

問題は、この入札にデータセンターの需要予測が組み込まれている点にある。まだ建っていない、稼働もしていないデータセンターのぶんまで「これだけ電気が要る」と見込んで入札してしまう。需要の見積もりが膨らめば、価格は跳ね上がる。

報告書は、直近2回の入札にデータセンター需要が入ったことで、消費者の負担が約137億ドル増えたと試算している。日本円にしておよそ2兆1700億円。これは予測に基づいて先に確定した金額だから、あとから「やっぱり要らなかった」となっても返ってこない。価格が戻らない、というのはそういう意味だ。

稼働前のデータセンター需要が、全消費者の請求書に届くまで
1
建設前の需要を予測に算入
まだ建っていないデータセンターのぶんまで「これだけ電気が要る」と見込み、容量市場の入札に組み込む。
2
需要見込みが膨らみ価格が上昇
供給はほぼ横ばいのまま需要の見積もりだけが上がり、3年先の発電能力を確保する価格が跳ね上がる。
3
送電事業者・地域の電力会社を経由
高くなったコストは発電事業者から下流へ流れ、送電事業者と地域の電力会社が負担を引き継ぐ。
4
一般家庭・中小企業の電気代に到達
最後は個人や小規模事業者の請求書に乗る。先に確定した金額のため、あとから取り消しても返ってこない。
※ Monitoring Analyticsの第1四半期報告書に基づく容量市場の価格転嫁の流れ。直近2回の入札では消費者負担が約137億ドル増えたと試算されている。

番人が怒っているのは誰に対してか

Monitoring Analyticsの矛先は、データセンターそのものよりも、電力網の運営者であるPJMに向いている。

報告書が批判するのは、PJMが容量市場のルールを書き換え、データセンターの需要を予測の中に正式に組み込もうとしている動きだ。この提案が通れば、データセンターのために膨らんだコストが、一般家庭や中小企業を含むすべての電力利用者の請求書に乗ってしまう。

PJM側にも事情はある。データセンターの需要を全体の予測に溶かし込んでおけば、入札では供給がほぼ横ばいのまま需要だけが上がり、価格は高くなる。その高いコストは送電事業者や地域の電力会社を経由して、最後は個人の電気代に届く。運営者にとって都合の悪い話ではない。

Monitoring Analyticsの提案ははっきりしている。データセンターのような大口の利用者は、容量市場に需要を混ぜ込まず、発電事業者と直接交渉して電力を確保すべきだ、というものだ。

つまり、自分が使うぶんの電気と、そのために必要なインフラの費用は、自分で持て。報告書が求めているのはこの一点に尽きる。

「自分の電気は自分で」という約束はあった

この構図に、連邦政府はすでに気づいていた。

2026年3月、トランプ(Donald Trump)大統領は米国の主要なAI企業をホワイトハウスに集め、AIインフラのコストについて「自分たちのぶんは自分たちで払う」と約束させている。Monitoring Analyticsが求めているのも、原理としては同じだ。テック企業に、消費する電力と、そのためのインフラの両方を負担させる。

ただ、この「ratepayer protection pledge(電気料金利用者保護の誓約)」は、あくまで約束に過ぎない。PJMのような組織に対して「コストを一般消費者に転嫁するな」と強制する力は持たない。

それを強制できるのは連邦法だけだ。議会が法律を作り、米連邦エネルギー規制委員会(FERC)にコスト転嫁を防ぐ義務を負わせる。そこまで進まないかぎり、誓約は紙の上の善意で止まる。

この数字は対岸の火事ではない

PJMの管轄には、世界で最もデータセンターが密集する米バージニア州北部が含まれる。AIブームの最前線が、そのまま電気代の最前線になっている。

日本に住む読者にとって、米国東部の卸電力価格は遠い話に見えるかもしれない。だが、ここで起きているのは「AIインフラの建設コストを誰が払うのか」という、どの国も避けて通れない問いだ。データセンターは増え続け、電力網はその速さに追いつけない。そのギャップを誰の財布が埋めるのか。

米国では、住民の7割がデータセンターの近隣建設に反対しているという調査もある。電気代、騒音、景観、環境への不安。AIの便利さを支える土台が、その土地に住む人たちの負担の上に乗っていることに、人々は気づき始めている。

報告書が突きつけたのは、76%という上昇率そのものではない。AIの計算能力を誰かが使うとき、その電気代の請求書がどこに届くのか。その宛先が、まだはっきり決まっていないという事実だ。


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