Ghosttyが18年のGitHubを離れる、ハシモト氏決断

ターミナルエミュレータ「Ghostty」の作者でHashiCorp共同創業者のミッチェル・ハシモト氏が、18年間使い続けたGitHubから離れることを表明した。理由は政治でも待遇でもない。「コードが書けない」のだという。

Ghosttyが18年のGitHubを離れる、ハシモト氏決断

ターミナルエミュレータ「Ghostty」の作者でHashiCorp共同創業者のミッチェル・ハシモト氏が、18年間使い続けたGitHubから離れることを表明した。理由は政治でも待遇でもない。「コードが書けない」のだという。


18年使い続けた人が、ついに音を上げた

「これを書いていると不合理なほど悲しくなる。けれど、GhosttyはGitHubを離れる」。4月28日、ハシモト氏が自身のブログにそう書き出した投稿は、技術者コミュニティに静かな波紋を広げている。

ハシモト氏はGitHubのユーザー番号1299番。2008年2月の登録以来、18年以上にわたって毎日GitHubを開き続けてきた人物だ。Vagrant、Terraform、Vault、Consulといった現代インフラの土台を作ったHashiCorp(2023年退社)の共同創業者であり、現在はZig言語で書かれた高速ターミナルエミュレータGhosttyの開発に時間のほとんどを注いでいる。

GitHubは私を最も幸せにしてくれた場所だった。つらい別れの後も、大学時代の朝4時も、新婚旅行で妻が眠っている朝も、私はGitHubにいた。

そう書く人物が、なぜ離れるのか。きっかけは積み重なった障害だ。ハシモト氏は過去1か月、GitHubの障害が業務を妨げた日に「X」印をつける日記を続けてきた。ほぼ毎日にXがついていたという。投稿を書いていたその日も、GitHub Actionsの障害でPRレビューが約2時間できなかった、と本人は記している。

「Gitの問題ではない」という念押し

ハシモト氏は注釈で釘を刺している。「Gitは分散型だ」と言いたがる人々への返答として、問題はGit本体ではなく、その周辺インフラ、つまりイシュー、プルリクエスト、GitHub Actions、コラボレーション機能だと明確に書いている。

つまり、コードのバージョン管理はローカルでも完結する。けれど、現代のオープンソース開発はGitだけでは回らない。プルリクエストのレビュー、CI/CDの実行、イシューでの議論、これらが止まれば、メンテナの一日は止まる。Ghosttyはコントリビューターとコミュニティを抱える共同開発プロジェクトであり、その協働基盤が壊れていれば「個人で頑張る」では解決しない。

ハシモト氏自身、最近のGitHub批判が「人を傷つけた」と認めて謝罪している。それでも止められない不満があった、ということだ。

GitHubも同日に「ごめんなさい」を出した

奇妙な符合だが、ハシモト氏のブログと同日、GitHubのCTOヴラド・フェドロフ氏が公式ブログで異例の謝罪文を出している。「私たちは申し訳なく思っている」というストレートな言葉が並ぶ。

GitHubが認めた最近の障害は2件。1つ目は4月23日のマージキュー障害。スカッシュマージで複数PRが含まれるマージグループにおいて、過去のコミットが意図せず差し戻されるバグが発生。658リポジトリ、2,092PRに影響が出た。Git本体にデータ損失はなかったが、デフォルトブランチの状態が壊れ、自動修復もできなかったケースがあるという。

2つ目は4月27日のElasticsearch障害。検索を支えるクラスタがボットネット攻撃と思われる過負荷で停止し、PR・イシュー・プロジェクトの検索依存UIが軒並み機能しなくなった。

外部の集計データはさらに厳しい。The Registerが指摘する非公式に再構成されたステータスページのデータでは、GitHubの稼働率は2025年に90%を割り込み、2026年4月時点では85%を下回る水準まで落ち込んでいるという。

数字が示す事実は深刻だ。85%の稼働率というのは、1日のうち3時間半以上どこかが落ちている計算になる。「インフラ」を名乗る企業向けサービスとしては、明らかに合格点ではない。

なぜここまで悪化したのか、AI需要の直撃

GitHub自身が原因として挙げているのが、AIエージェント開発ワークフローの急増だ。「ソフトウェアの作り方の急速な変化」が主因であり、2025年12月後半からエージェント型開発が一気に加速したと公式ブログは説明する。

AIエージェント開発とは、Claude CodeやGitHub Copilot、Codex CLIといったAIアシスタントが、開発者の代わりにコードを書き、テストを実行し、PRを作成するワークフローを指す。手作業を省略するため、リクエスト頻度は人の数十倍に達することもある。

具体的な数字も出ている。GitHubは2025年10月に「容量を10倍に拡張する計画」を始動したが、2026年2月には「30倍が必要」と判明したという。当初想定の3倍の規模で需要が膨らんだ計算だ。

リポジトリ作成、プルリクエスト、API使用量、自動化ジョブ、大規模モノレポのワークロード ── すべてが指数関数的に伸びている。GitHubのグラフによれば、月間プルリクエストマージは9000万件、コミットは14億件、新規リポジトリは2000万件のピークを記録している。

ここに皮肉がある。コードを書くのを助けるはずのAIが、コードを置く場所を壊しかけている。AIエージェントは人より休まず、人より速く、人よりキャッシュミスを増やす。リトライがリトライを呼び、1つの遅い依存先が複数の体験を巻き込む。GitHubの説明はそのまま分散システムの教科書だ。

Ghosttyはどこへ行くのか

肝心の移行先は、まだ決まっていない。ハシモト氏は「商用とFOSSの両方の複数プロバイダと議論中」とだけ書き、具体名は出していない。引っ越しは段階的に進め、移行が終わるまではGitHub上のリポジトリも読み取り専用ミラーとして残すという。

個人プロジェクトや他の作業は当面GitHubに残す。Ghosttyは、私とメンテナとオープンソースコミュニティが最も影響を受けている場所だから、そこを今回の変更の焦点にする。

「全部一気に出ていく」のではなく、最も痛いところを先に動かす ── 経営者出身らしい現実的な判断だ。

候補として現実的なのは、CodebergGitLab、あるいはSourcehutといった開発者プラットフォームだ。Zigコミュニティの一部は2025年にCodebergへ移行しており、参考にできる前例がある。商用が含まれているという発言から、新興のホスティングサービスやセルフホスト型の選択肢も視野に入っているのだろう。

「ホーム」が壊れる時代の話

この件をGitHubの一企業の話で終わらせるのは惜しい。ここで語られているのは、開発者にとって「家」だった場所が、家として機能しなくなる現象だ。

ハシモト氏のブログには、ある種の喪失感が滲む。夢の職場だったGitHub、別れの夜も新婚旅行の朝も開いていたGitHub。Vagrantを作った理由の半分は「うまくいけばGitHubが雇ってくれるかも」という期待だった、とまで書いている。それでも、彼は出ていく。

開発者がプラットフォームに抱く感情は、SNSユーザーがプラットフォームに抱く感情と似ている。便利さを超えて、習慣になり、自分のアイデンティティの一部になる。だからこそ、サービス品質が下がったときの痛みは「不便」では済まない。

GitHubは謝罪し、改善計画を出した。Azureへの移行で計算リソースを増強でき、マルチクラウド化も視野に入れているという。それでもハシモト氏が書いた一文は刺さる。「言葉と約束ではなく、実際の結果と改善があれば、いつか戻りたい」。

開発インフラの寡占構造は、便利さと脆弱さを同時にもたらす。GitHubが落ちれば世界中のCI/CDが止まる現実を突きつけた1か月だった。代替候補を持っておくこと、Gitそのものは分散型であるという原則を思い出すこと。「家」を信じすぎないことが、これからの開発者の自衛策になるのかもしれない。

ハシモト氏はコードを書くためにGitHubを去る。18年を経て、彼が選んだのは沈黙ではなく引っ越しだった。


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