Xboxハードが33%減、Azureが40%増という分裂
Microsoftが現地時間4月29日に公表した2026会計年度第3四半期決算で、Xboxハードウェア売上高が前年同期比33%減となった。総売上は18%増の829億ドル。クラウドが牽引する全社の好調と、ゲーム部門の落ち込みが鮮明な形で並んだ。
Xboxハードは2四半期連続で30%超の下落
公式リリースに記載された「More Personal Computing」部門の売上高は132億ドルで、前年同期比1%減(定常為替で3%減)。このセグメントの内訳のうち、Xboxコンテンツ・サービスは5%減、Xboxハード売上高は33%減と、SECに提出された四半期報告書(Form 10-Q)で明らかにされている。
Microsoftはハード単体の売上額を公式に開示していない。ただ、ゲーム部門全体の売上高は53億4100万ドルで、前年同期の57億2100万ドルから約3億8000万ドル(7%減)落ち込んだ。
Xboxハードが30%超の下落を見せたのは、これで2四半期連続だ。直前の第2四半期(2025年10〜12月、ホリデー商戦期)も30%以上のマイナスを記録しており、年末商戦で稼げなかったツケが、年明け以降も止まらずに続いている。
Xboxハード売上 直近4四半期推移 ・FY26 Q1(2025年7〜9月): 29%減 ・FY26 Q2(2025年10〜12月): 30%超の減 ・FY26 Q3(2026年1〜3月): 33%減 「2四半期連続で30%超の下落」という事態は、新CEO体制でも止まっていない。
ハードがこれほど落ちている主因は、おそらく単純な数字の問題ではない。後で触れるが、ゲーム部門のリーダーシップそのものが2月に大きく入れ替わった直後の決算であり、シャルマ新CEOの戦略転換はまだ数字に反映されていない段階だ。
一方、クラウドは40%増で全社を押し上げた
ゲームの不振とは対照的に、Microsoftの収益構造を支える柱は揺るぎないどころか、加速度を増している。
Azureおよびその他クラウドサービスの売上高は前年同期比40%増。Microsoft Cloud全体では545億ドルで29%の増収となった。サティア・ナデラ(Satya Nadella)CEOは決算リリースで、AI事業の年換算売上高(ARR)が370億ドルに達し、前年比123%増であることに触れている。
総売上 829億ドル(18%増)、営業利益 384億ドル(20%増)、純利益 318億ドル(23%増)。希薄化後EPSは4.27ドルと、市場の事前予想を上回った。
「私たちは、エージェント時代のすべての企業がアウトプットを最大化できるよう、クラウドとAIインフラ・ソリューションの提供に集中している」(ナデラCEO、決算リリースより)
ここに、現在のMicrosoftが抱える矛盾が凝縮されている。会社全体としてはAIブームの最大の恩恵を受けて過去最高水準の業績を更新しているのに、ゲーム部門だけは別の重力に引っ張られているのだ。
シャルマ新体制の改革は、まだ数字を動かしていない
Xbox部門のCEOが交代したのは2026年2月20日。Microsoftに38年間在籍したフィル・スペンサー(Phil Spencer)が引退し、後任にアシャ・シャルマ(Asha Sharma)が就いた。スペンサーの右腕としてXbox社長を務めていたサラ・ボンド(Sarah Bond)も、引き継ぎ期間を経て退社する。
シャルマはMicrosoftのCoreAI部門プレジデント出身で、その前はInstacartのCOO、Metaのバイスプレジデントを歴任している。一方でゲーム業界での経験はゼロ。Wikipediaの本人記事には「ゲーム業界のプロフェッショナル経験がないことが選任への懸念材料となった」と記される。ナデラがあえて業界の外から人を連れてきた背景には、消費者獲得のスケール経験を重視した、という説明がついている。
シャルマは就任から60日のあいだに、いくつかの目に見える手を打った。
ひとつは、4月21日に発表されたXbox Game Pass Ultimateの月額値下げだ。29.99ドルから22.99ドルへ、7ドル(約23%)の引き下げ。ただし、これは無条件の値下げではなく、今後発売されるCall of Dutyの新作はGame Passの初日提供から外す、という条件付きの「取り引き」だった。
もうひとつは、4月23日に公表された組織名変更。「Microsoft Gaming」という呼称を捨て、「Xbox」というブランド名にゲーム部門全体を統合する判断を下した。シャルマ本人の言葉を借りるなら、こういうことになる。
「『Microsoft Gaming』は私たちの組織構造を表しているが、私たちの野心は表していない。だから私たちは原点に戻り、チームの名前を変える。私たちはXboxだ」(シャルマCEO、Xbox Wireへの公開メッセージより)
この組織名変更は、スペンサー時代後期の「Everything is an Xbox(すべてはXboxだ)」「This is an Xbox」というマーケティングキャンペーンを正式に葬る意味も持っている。スマホでも家電でもクラウド経由でゲームが動けば「Xboxだ」と訴える戦略は、結果として専用ハードの存在価値を希薄化させ、内部からも反発を招いていた。シャルマは、その路線を最初の100日以内に明確に否定したことになる。
ただし、これらの動きはすべて4月のものであり、決算対象期間(2026年1〜3月)には含まれない。今期の数字には、シャルマのリセット策の効果も副作用も、まだ何ひとつ反映されていない。次の四半期(2026年4〜6月)決算が、新CEO体制への最初の評価となる。
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2026年2月20日
CEO交代
フィル・スペンサーが38年勤務のMicrosoftを引退。後任にアシャ・シャルマ(元CoreAI部門プレジデント)。サラ・ボンド社長も離任
2026年4月21日
Game Pass値下げ
Xbox Game Pass Ultimateを月額29.99ドルから22.99ドルへ。代わりに今後発売されるCall of DutyはGame Pass初日提供から外す条件付き
2026年4月23日
組織名「Xbox」回帰
「Microsoft Gaming」ブランドを廃止し、ゲーム部門名を「Xbox」へ変更。「Everything is an Xbox」キャンペーンも公式に終了
2026年4月29日
FY26 Q3決算発表
対象期間は2026年1月-3月。4月以降のシャルマ施策はこの数字には反映されていない。次のFY26 Q4(4-6月期)決算が新CEO体制への最初の評価になる
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ハードが落ちる理由は、価格と物語の両方にある
Xboxハードがここまで下落している背景は、複合的だ。
価格の問題は深刻で、メモリやストレージなどの部品高騰、関税、AI需要によるサプライチェーン圧迫を理由に、MicrosoftはXbox Series X/Sの価格を2025年5月と10月の2回にわたって引き上げた。米国では2TB版Xbox Series Xが800ドル前後にまで上昇しており、PS5との価格差は完全に逆転した。Forbes JAPANは2月の論評で「2世代連続の不振」「フィル・スペンサー自身が『コンソール戦争に敗北した』と明言した」と書いている。
そしてもう一つ、ブランドの物語の問題がある。「Xboxは専用ハードを買わなくてもプレイできる」と訴え続けたマーケティング戦略は、ハードを買う動機そのものを薄めた。ゲーマーから見れば「専用機を買う理由」が説明されないまま値段だけが上がっていく状況で、買い控えが進むのは自然な帰結だ。
シャルマがGame Pass値下げと「Xbox回帰」の両方を最初に打ち出したのは、この「価格」と「物語」の両方を同時に立て直さない限り、数字は止まらないという判断があるのだろう。
クラウドの好調と、ゲームの停滞は、同じ会社で起きている
Microsoftという会社全体の構図は単純だ。AzureとAIで稼ぎ、ハードウェア(WindowsとXbox)はじりじり減らしている。Windows OEM・Devicesは2%減、Xboxコンテンツ・サービスは5%減、Xboxハードは33%減。More Personal Computingセグメントは全体で1%減と、なんとか1桁の落ち込みに収まっているが、その内側では特定の領域だけが大きく出血している。
ゲーム事業は、過去10年間でスペンサーが約3倍に育てた。Mojang、ZeniMax(Bethesda)、そして697億ドルを投じたActivision Blizzard。買収を重ねた巨大な事業ポートフォリオが、いま新しい経営者の手元で再構築されようとしている。AI事業のARRが前年比123%で伸びているのと同じ会社で、ゲームのハードは3割減を続けている。
シャルマが取り組むべき課題は、おそらく「Xboxを再びコンソール戦争の勝者にする」ではない。それは10年前から失われた目標だ。むしろ「Xboxという固有のブランドが、なぜ存在しているのか」を、価格とコンテンツの両面で再定義することなのだろう。値下げと組織名変更は、その第一歩にすぎない。
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