DualSenseのPC体験を取り戻す20ドルの自作ドングル
Sonyが純正PCドングルを出さないなか、Raspberry Pi Pico 2 Wを核にしたMITライセンスの自作ブリッジが、ハプティックとアダプティブトリガーをワイヤレスで甦らせている。
Sonyが純正PCドングルを出さないなか、Raspberry Pi Pico 2 Wを核にしたMITライセンスの自作ブリッジが、ハプティックとアダプティブトリガーをワイヤレスで甦らせている。
純正ドングルがないという長年の不満
DualSense(デュアルセンス)ワイヤレスコントローラーをWindows PCで使うとき、ゲーマーは長らく不思議な選択を迫られてきた。有線ならハプティックフィードバックもアダプティブトリガーも内蔵スピーカーも全て動く。だがBluetoothで繋いだ瞬間、その大半が消える。
DualSenseのウリは、ゲームの音を細かい振動として手に伝えるHDハプティックと、引き金に抵抗を返すアダプティブトリガーだ。PCGamingWikiは、ハプティックフィードバックや3.5ミリオーディオパススルー、内蔵スピーカーがBluetoothではサポートされず、アダプティブトリガーの対応もゲーム次第だと整理している。問題の根源は通信仕様にある。Reddit上でDS5Dongleを試したSlaveKnightSoman氏は「Windows BluetoothがDualSenseの要求する4チャンネルのオーディオ帯域に対応していないため、ハプティックとアダプティブトリガーが剥がれ落ちる」と説明している。Sonyが独自に拡張した通信プロファイルを、Windows標準のBluetoothスタックが扱いきれないわけだ。
PSA: Since Sony won't make a PC dongle for the DualSense, you can build your own for less than $20 using a Raspberry Pi Pico 2W. Wireless Adaptive Triggers and Haptic Feedback finally work natively.
by u/SlaveKnightSoman in pcmasterrace
そしてSonyは、その断絶を埋める純正PCドングルを発売していない。PS4のDualShock 4時代には公式アダプターが存在したが、DualSenseには用意されないまま5年が経った。3メートルのケーブルに繋がれてソファから動けないか、ワイヤレスにして魂を半分失うか。PCゲーマーの選択肢は、長らくこの二択だった。
20ドルで穴を埋めた個人開発者
その隙間を埋めたのが、GitHubで活動する開発者awalol氏が公開したDS5Dongleだ。プロジェクトはMITライセンスで公開されており、Raspberry Pi Pico 2 WをDualSenseのワイヤレスアダプターに変える構成になっている。
仕組みは大胆かつ素朴だ。Pico 2 WがDualSenseとBluetoothで直接ペアリングし、ハプティックや振動の全データを受け取る。そしてWindowsには、自分が「有線接続のDualSense」であるかのように振る舞って繋がる。Windows Bluetoothを迂回した、いわば握手の偽装である。
Pico 2 Wが間に立つことで、Windowsは有線DualSenseが繋がっていると認識する。一方DualSenseはPico 2 Wを正規のホストだと信じてフルデータを送る。両者を欺くのではなく、両者が望む形を別々に提供する翻訳所として機能する。
Tom's Hardwareはこの方式を「ある種の握手のなりすまし」と表現し、エミュレーションや変換層ではないためレイテンシが低く保たれるはずだと指摘している。エミュレーションなら遅延が積もるが、ブリッジは中継するだけだ。
総額はどれくらいかかるのか。Raspberry Pi Pico 2 Wの希望小売価格は7ドル(約1080円)で、日本ではスイッチサイエンスが税込1474円で取り扱う。USBケーブルとケースを足しても20ドル(約3200円)に収まる。MITライセンスなのでファームウェアは無料、商用改変も自由だ。
実際の使い心地は「有線と区別がつかない」
理屈は美しいが、肝心なのは触り心地だ。Reddit上でこのドングルを試したr/pcmasterraceのSlaveKnightSoman氏は、自身の組み立てた個体について次のように書いている。
有線との違いを感じなかった。ただし私はシングルプレイヤーのゲームしか遊ばない。
この留保は重要だ。コンマ数ミリ秒を競う対戦格闘ゲームやFPSプレイヤーには、別の判断軸が要るかもしれない。スレッドのコメントでは、Bluetooth経由である以上わずかな揺らぎは避けられないという指摘や、ポーリングレートを実測したら4ミリ秒・250Hzだったという報告も上がっている。これらはあくまで主観と限定的な計測の範囲内の話だが、少なくとも「ワイヤレスにすると別物になる」というこれまでの諦めとは桁が違う。
技術的な代償もある。HDハプティックのエンコード処理に余裕を持たせるため、Pico 2 Wを電圧1.2V・320MHzにオーバークロックする必要があり、ファームウェアではマイク音量を振動ゲインの倍率に流用している。つまりDualSenseのマイクは振動の強さの調整ダイヤルとして転用されている。
既知の問題として「音声にわずかなもたつきが残る」「オーバークロック設定で起動しない個体は電圧を上げるかクロックを下げる必要がある」とリポジトリに明記されている。完成品の体裁を取り繕わず、未完成さを隠さない姿勢にむしろ信頼を感じる人もいるはずだ。
なぜホビイストが先回りしたのか
ここで立ち止まって考えたい。なぜ世界最大級のゲーム機メーカーが対応していない領域を、個人開発者が20ドルで埋められるのか。
理由のひとつは、SonyにとってPCはあくまで二次的な市場だからだ。PS5本体とゲームソフトを売ることが本業であり、DualSenseのフル機能をPCで完璧に動かすドングルを開発・認証・販売するインセンティブは、Microsoft Xboxと比較しても明らかに薄い。Xboxには公式ワイヤレスアダプターが存在するが、Sonyは長らくPCゲーマーを優先順位の下位に置いてきた。
もうひとつは、Pico 2 Wというハードウェア自体の進化だ。2024年に登場したRP2350搭載のRaspberry Pi Pico 2 Wは、Wi-FiとBluetooth 5.2に対応し、より強力なArmコアとオプションのRISC-Vコアを持つ。要するに、Bluetoothを介して非標準的なプロファイルを実装し、なおかつUSBでDualSenseに化ける処理能力が、ようやく7ドルのボードに収まった。技術の階段が上がった瞬間、Sonyの怠慢を市民が乗り越えられるようになったわけだ。
オープンと囲い込みの境界線
Reddit上の議論では、別のドングルプロジェクトが話題に上がった。同様の機能を目指していたDSX(Paliverse氏による別プロジェクト)は、かつてGitHubでオープンに公開されていたが、その後Steamの有料アプリとして閉ざされた。DSXは現在もBluetoothでのハプティックには未対応で、開発者は「3.2バージョンで対応予定」と告知している。
DS5Dongleはその逆を行く。完成度はまだ「動くが粗が残る」段階だが、ライセンスは緩く、設計図は全て公開されている。プロジェクトはrafaelvalotoのPico_W-Dualsense、egormangaのSAxense、PaliverseのDualSenseXを参照元として明示しており、先人の解析を引き継いでいる。誰かが拾えばまた次に進む、オープンソースの古い作法がここに息づいている。
公式が出さない、有料版は機能不足、ならば自分たちで作る。この素朴な動機から始まったプロジェクトが、わずか20ドルの基板でメーカーの怠慢を乗り越えてみせた。
ソファに戻れる日
DS5DongleはまだVer.0.5.3、Star数は100超とニッチだ。組み立てにはBOOTSELボタン操作とファームウェア書き込みの心得が要り、誰にでも勧められる完成品ではない。それでも、Sonyが5年間動かさなかった扉を、個人が3000円で開けたという事実は、PCゲーマーにとって象徴的な意味を持つ。
ハードウェアの自由とは、メーカーの計画にぴったり乗ることではなく、自分の手で隙間を埋められる選択肢があることなのかもしれない。3メートルのケーブルから解放されたソファで、振動の繊細さを確かめてみたいと思う読者は、GitHubに足を運んでみる価値がある。
参照元
他参照