Microsoft、Azure LinuxをFedoraベースに刷新へ

Microsoftのzure Linuxが、Fedoraをベースに据え直す方向で動いている。Build 2023で「Fedoraをforkしなかった理由」をわざわざ説明していたのは、ほんの3年前のことだ。

Microsoft、Azure LinuxをFedoraベースに刷新へ

Microsoftのzure Linuxが、Fedoraをベースに据え直す方向で動いている。Build 2023で「Fedoraをforkしなかった理由」をわざわざ説明していたのは、ほんの3年前のことだ。


「forkしなかった」と言っていた会社の方針転換

Azure Linux(旧称 CBL-Mariner)は、Microsoftが社内向けに開発しているRPMベースのLinuxディストリビューションだ。Azureの各種サービス、Azure Kubernetes Service(AKS)のコンテナホスト、そしてWSL 2のGUI機能などを支える基盤として広く使われている。

そのAzure Linuxが、Fedoraから派生する形へ作り直される可能性が出てきた。Phoronixがこの件を報じている。

きっかけはFedoraのEnterprise Linux Next(ELN)SIGミーティングだ。4月21日に開かれた会合の議事録に、Microsoftの本音がそのまま記録されていた。

Azure wants to rebase Azure Linux more or less on Fedora and they need x86_64-v3 for performance(AzureはAzure Linuxを多かれ少なかれFedoraベースに作り直したい。性能のためにx86_64-v3が必要だ)

会議では同時に、Microsoftがこの変更を支持しているなら計算リソースを提供できるだろう、という発言も残っている。Fedora側からすれば、Microsoftの関与は単なる外野の口出しではなく、インフラ負担を共有する具体的な貢献の話として語られている。

2023年と今、Microsoftの態度はこう変わった

ここで興味深いのが、2023年5月のMicrosoft Build時点での説明だ。当時Microsoftは、Azure Linux(=CBL-Mariner)について「very opinionated Azure focus」(Azureに極めて特化した思想)であり、「Kubernetesクラスタを動かすための必要最小限のもの」しか含めないと強調していた。なぜFedoraやCentOSをベースにせず一から作ったのか、という問いに対する説明として、これが繰り返されてきた。

それが、わずか3年で揺らぎつつある。

直接の引き金になっているのが、Fedora 45で計画されている x86_64-v3パッケージ の並行ビルド提案だ。これは既存のx86_64(v1)に加えて、HaswellやZen以降のCPUを前提とするx86_64-v3向けバイナリを併走させるもので、AVX2やFMAなどの命令セットを活用して性能を底上げする狙いがある。

提案の著者にはFyra LabsのLleyton Gray氏とOwen Zimmerman氏、それにKyle Gospodnetich氏の3名が名を連ねている。Gospodnetich氏は、Fedora Atomicベースのゲーミング向けディストリビューションBazziteの創設者として知られる人物で、現在の肩書きはMicrosoftの Linux Community Engineer だ。外部コミュニティから降ってきた話ではなく、Microsoft社員が自社の利害も背負って動かしている提案。そう捉えるのが自然だろう。

なぜFedoraなのか、なぜx86_64-v3なのか

x86_64-v3は2017年頃から本格的に普及したマイクロアーキテクチャレベルで、AVX2やBMI2、FMAなどを必須とする。RHEL 10はすでにx86_64-v3をベースラインに採用しているが、Fedora本体はいまだv1ベースのままだ。クラウド事業者にとって、データセンターに並ぶサーバーは比較的新しい世代のCPUに揃えやすい。古いハードウェアを切り捨てることが許される環境では、v3を前提にしたバイナリは無視できない性能を引き出せる。

The guaranteed availability of AVX2 extensions would benefit high-performance computing, particularly machine-learning.(AVX2拡張が保証されることは、特に機械学習を中心とした高性能コンピューティングにとって有益だ)

これはELN SIGの過去の議事録に残る発言で、AI/MLワークロードを抱えるクラウド事業者がv3を欲しがる理由を端的に示している。Azureのような巨大クラウドにとって、わずか数パーセントの性能改善でも電力コストやサーバー台数に直結する。MicrosoftがFedoraのv3提案を後押しする動機は、単なる開発者の好奇心ではなく ビジネス上の合理性 に根ざしている。

ELN SIG議事録には、提案を巡るFedora内部の議論経緯も記録されている。

there was some nebulous plans of forking the whole distribution for this, they were guided in this direction...so I'd rather it not fail for that reason(このために配布全体をforkするという漠然とした案もあったが、関係者はこちらの方向に導かれた…だからそれが理由で失敗してほしくない)

「forkするか、Fedoraを変えるか」という二者択一の議論の中で、Fedoraを変える方向に話が落ち着いた。そう読める発言だ。

ディストリビューションの境界が、また少し溶ける

Azure LinuxがFedoraベースになるとして、ユーザーから見て何が変わるのか。直接的な利用者はAzureのインフラ運用者やAKSの管理者が中心であり、デスクトップユーザーが今すぐ影響を受ける話ではない。とはいえ、波及はWSLにも及ぶ可能性がある。Windows 11上のWSL 2でGUIアプリを動かす際、その裏側で動いているのもAzure Linuxだ。

注目すべきは、Microsoftの開発資源が Fedoraの上流に流れ込む 点だ。x86_64-v3パッケージのビルドにはコンピュートリソースもストレージも追加で必要になり、これは長らくFedoraコミュニティの懸念事項だった。Microsoftが計算リソースを提供するなら、その負担はかなり軽減される。

一方で、皮肉な見方もできる。2023年に「我々は独自路線を行く」と明言したMicrosoftが、2026年には事実上「Fedoraに乗らせてもらう」と方針転換する。CBL-Marinerの当初の売り文句だった「最小限・Azure特化」という設計思想は、実運用と機能拡張の中で次第に膨らみ、独自に維持するコストが見合わなくなってきたのではないか。そう推測したくなる。

Yaakov Selkowitz氏(Red HatのEmerging RHEL担当プリンシパルソフトウェアエンジニア)が公開した議事録には、AlmaLinuxがすでに進めている同種の取り組みのアップストリーム経路としても、この提案が機能するという議論も残っている。Fedora、RHEL、Azure Linux、そしてAlmaLinux。Red Hatの上流/下流/派生の 境界線が溶け始めている 様子が見える。x86_64-v3という共通の関心事が、その触媒になっている。

Microsoftがオープンソースに「貢献する立場」として振る舞う姿は、もはや珍しい光景ではない。それでも、自社製ディストリビューションの基盤そのものをFedoraに預ける選択は、3年前の発言を踏まえれば小さくない方針転換だ。Build 2026でこの話がどう語られるのか、あるいは語られないのか、注目しておきたい。


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