トランプ「Anthropicと国防総省の合意は可能」

トランプが2月に「即時使用停止」を命じたAnthropicについて、4月21日のCNBC出演で「国防総省との取引は可能だ」と発言した。態度を反転させた引き金は、同社が4月に限定公開した高度サイバーセキュリティモデル「ミトス」である。

トランプ「Anthropicと国防総省の合意は可能」

トランプが2月に「即時使用停止」を命じたAnthropicについて、4月21日のCNBC出演で「国防総省との取引は可能だ」と発言した。態度を反転させた引き金は、同社が4月に限定公開した高度サイバーセキュリティモデル「ミトス」である。


「シェイプアップしてきた」という突然の軟化

アメリカ東部時間4月21日火曜朝、ドナルド・トランプ大統領がCNBCの看板番組「Squawk Box」に電話出演し、Anthropic(アンソロピック)と国防総省(DOD)の関係について踏み込んだ発言をしている。

「数日前にホワイトハウスに来てくれて、非常に良い話し合いができた。シェイプアップしてきていると思う」「彼らは非常に賢いし、大いに役立つはずだ」。わずか2ヶ月前に同じ人物がAnthropicを「Leftwing nut jobs(極左の狂人たち)」と呼び、全連邦機関に「即時使用停止」を命じたとは思えない柔らかさである。

番組のインタビュアーに対し、トランプは国防総省がAnthropicの人工知能モデルを採用する合意が「可能だ」と語った。断定ではないが、2月の全面禁止命令の事実上の撤回に近い。

トランプ政権の対Anthropic姿勢:2ヶ月間の反転
2月27日時点 4月21日時点
Anthropicの呼称 「極左の狂人たち」 「非常に賢い」
企業への評価 国家安全保障を危険にさらす存在 大いに役立つ
連邦機関の扱い 技術の即時使用停止を指示 —(撤回なし/訴訟係属中)
国防総省との取引 「二度と取引しない」 「合意は可能だ」
サプライチェーン指定 同日付でヘグセス国防長官が発動 存続(撤回されず)
対話チャネル 決裂・提訴へ ホワイトハウスで首脳会談
※ 2月27日はTruth Social投稿および国防長官ピート・ヘグセスによる発表。4月21日はCNBC「Squawk Box」出演時の発言に基づく

2月の決裂、そして訴訟

この発言の重みを理解するには、今年2月末に何が起きたかを振り返る必要がある。

Anthropicは、AIモデル「Claude」の軍事利用について国防総省と詰めの交渉を続けていた。論点は明快だった。国防総省はあらゆる合法的目的でのClaudeへの無制限アクセスを要求し、Anthropicは「完全自律兵器への使用」と「アメリカ国民への大規模監視」だけは除外してほしいと主張した。

2月27日金曜、交渉は決裂する。トランプはTruth Socialに投稿し、すべての連邦機関にAnthropic技術の 即時使用停止 を指示すると宣言した。「We don't need it, we don't want it(我々はそれを必要としないし、望まない)」と続け、Anthropicを「極左の狂人たち」と呼び、国家安全保障を危険にさらしていると罵った。

投稿から約1時間半後、国防長官のピート・ヘグセスはAnthropicを「サプライチェーン・リスク」に指定している。これはアメリカ企業に対しては前例のない措置で、歴史的には外国の敵対勢力にのみ適用されてきた枠組みだ。

この指定が発動すると、防衛関連の請負業者は「自社業務でClaudeを使用していない」ことを証明しなければ国防総省と契約できなくなる。Anthropicは3月、サンフランシスコとワシントンD.C.の連邦裁判所で政権を提訴した。

サンフランシスコの判事リタ・リンは指定を「明白に違法な修正第1条への報復」と断じて仮差止を認めたが、4月初旬にワシントンD.C.の控訴裁は停止申立を却下している。決定では、天秤の一方にあるのは単一の民間企業の限定された金銭的損害、もう一方にあるのはイラン戦時下の国防総省のAI調達の行方だと述べ、政府に軍配を上げた。AnthropicはDOD案件からは排除されたまま、他の政府機関との業務は継続する、という分裂した状態が続いている。

Anthropic対国防総省:2ヶ月の攻防
2月27日
交渉決裂・使用停止命令対立
トランプがTruth Socialで全連邦機関にAnthropic技術の即時使用停止を指示。国防長官ヘグセスが同日、Anthropicをサプライチェーン・リスクに指定(米企業では前例なし)
3月
Anthropicが2都市で提訴対立
サンフランシスコとワシントンD.C.の連邦裁判所で政権を提訴。修正第1条の報復だとして指定撤回を求める
3月26日
SF地裁で仮差止認容対立
リタ・リン判事が「明白に違法な修正第1条への報復」と断じ、仮差止を認める
4月7日
Claude Mythos Preview公開転機
プロジェクト・グラスウィング発表。脆弱性を人間の専門家を超える速度で発見する能力により、重要インフラ企業のみに限定提供
4月8日
DC控訴裁が停止申立を却下対立
「イラン戦時下のAI調達の行方」を理由に政府側を支持。AnthropicはDOD案件から排除されたまま
4月17日
ホワイトハウス首脳会談転機
アモデイCEOが首席補佐官ワイルズ、財務長官ベッセント、国家サイバー長官ケアンクロスと面会。「生産的かつ建設的」と評される
4月21日
トランプが軟化発言転機
CNBC「Squawk Box」で「シェイプアップしてきている」「大いに役立つ」「国防総省との取引は可能だ」と発言

「ミトス」が変えた力学

では、なぜ2ヶ月でここまで空気が変わったのか。答えは、Anthropicが4月7日に発表したAIモデル「Claude Mythos Preview」にある。

ミトスは、一般のソフトウェアに潜む脆弱性を人間の専門家を超える速度で発見し、それを組み合わせた攻撃経路まで提示できるとされる。Anthropicはこの能力を危険視し、通常の一般公開はせず、アマゾン、アップル、グーグル、マイクロソフト、JPモルガン・チェースといった少数の重要インフラ企業にのみ提供する「プロジェクト・グラスウィング」という枠組みを用意した。

サイバーセキュリティ業界の反応は過熱している。Zscalerのジェイ・チョードリーCEOは、ミトスはサイバーセキュリティの計算式を変えた、フロンティアモデルはエリート級のハッキングを民主化し侵害は「もしも」から「いつ」へと性質を変えた、という趣旨の投稿をした。欧州の当局はミトスへのアクセスを得ようと動いたが門前払いを食らい、イギリスは同モデルが露呈させた脆弱性への対応に追われている。

この技術が露見させたのは、攻撃と防御の非対称だ。手に入れた者は圧倒的に優位に立ち、手に入れられない者は取り残される。政府にとって、敵対国がミトスクラスの能力を先に入手する可能性は、単なるビジネス上の損失の比ではない。

Anthropicを「いらない」と切り捨てたはずの政権が、急に対話の席に戻った理由はここにある。行政管理予算局(OMB)はすでに各省庁にミトスへのアクセス提供準備を伝えており、ホワイトハウス自身もアクセス獲得に向けて動いているとアクシオス(Axios)が報じた。

4月17日の会談

転機は4月17日金曜のホワイトハウス会談だった。

Anthropicのダリオ・アモデイCEO(Dario Amodei)が、首席補佐官スージー・ワイルズ、財務長官スコット・ベッセント、国家サイバー長官のショーン・ケアンクロスらと面会した。ホワイトハウスは会談を「生産的かつ建設的」と評し、協業の機会およびこの技術のスケールに伴う課題への共通アプローチとプロトコルについて議論した、という声明を出している。

興味深いのは、トランプ自身がアリゾナ州の空港でこの会談について尋ねられた際、「誰?」「全く知らなかった」と答えたことだ。首席補佐官と財務長官がCEOと直接会った場を大統領が把握していなかったという説明は、そのまま受け取るか政治的な煙幕と見るかで評価が分かれるところだが、少なくとも公開の場では政権内の温度差が滲んだ。

注目しておきたいのは、ワイルズが以前勤めていたロビイング会社「バラード・パートナーズ(Ballard Partners)」を、Anthropicがサプライチェーン・リスク指定の直後に雇っていた事実である。連邦ロビイング開示書には「国防総省調達に関する擁護活動」という目的が明記されている。2月に「二度と取引しない」と叩かれた企業が、2ヶ月でホワイトハウス最上層と向き合える位置まで戻ってきた背景には、こうした制度的な回路もある。


トランプの発言の読み方

火曜の「Squawk Box」でのトランプの発言は、いくつかの層に分けて読む必要がある。

第一に、これは確定した合意ではない。「possible(可能性がある)」という語彙は、外交や商取引の場では「まだ決まっていない」の意味で使われる。第二に、国防総省が公式にサプライチェーン・リスク指定を撤回したわけではなく、訴訟も継続中だ。AnthropicはDOD案件から排除されたままである。

とはいえ、最高意思決定者の公開された肉声として、「シェイプアップしてきた」「大いに役立つ」と評価した影響は小さくない。2月のTruth Social投稿のトーンと並べると、同じ人物の発言とは思えないほどの変化がある。国防総省はイランとの戦争中、Claudeを使い続けてきた。現場の実務と政権のレトリックは最初から一致していなかった。火曜の発言はそのギャップを政治的に埋める作業の一環とも読める。

技術の威力が政治を上書きするとき

この一連の流れが示しているのは、AIをめぐる政治力学の新しい形だ。

AnthropicがClaudeの軍事利用について倫理的な線引きを主張した時、政権はそれを「アメリカ企業が国防総省を強引に従わせようとしている」と解釈し、国家安全保障の名の下に企業を排除した。しかしミトスというサイバー能力の登場で、政権が「Anthropicを排除したまま、この技術にアクセスできない」状態のコストが跳ね上がった。

交渉のテーブルでどちらが主導権を握るかは、倫理や政治ではなく、相手が持っている技術の希少性で決まる。AI時代の安全保障調達を貫く現実が、ここに浮かび上がる。

目を引くのは、Anthropicも元の要求(自律兵器と大規模監視の除外)をまだ取り下げていないことだ。2月の決裂時点から、同社は「倫理的な赤線は保持したまま、政府との協業は続けたい」という姿勢を一貫させてきた。もしDODとの合意が実際にまとまるなら、それは政権がAnthropicの赤線を事実上受け入れた形になる可能性がある。

トランプの「possible」という一語が、最終的にどの着地点に向かうのか。火曜の発言はゴールではなく、長い交渉の新しいフェーズの入口だ。


参照元

他参照

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