カリフォルニア州、ストリーミング広告の音量規制を7月1日施行。イリノイ州も追随
深夜、子どもを寝かしつけた直後にNetflixの広告が大音量で鳴る。カリフォルニア州のトーマス・アンバーグ(Thomas Umberg)州上院議員がこの法案を提出したきっかけは、スタッフの赤ん坊がストリーミング広告の音で起こされたことだった。2026年7月1日、その怒りが法律になる。
テレビでは16年前に解決した問題
カリフォルニア州法SB 576は、ストリーミングサービスに対し、広告の音量を視聴中のコンテンツと同じ平均ラウドネスに揃えることを義務づける。ギャビン・ニューサム(Gavin Newsom)知事が2025年10月6日に署名し、2026年7月1日に施行される。

テレビ放送では2010年にCALM Act(Commercial Advertisement Loudness Mitigation Act)が成立し、2012年から地上波・ケーブル・衛星放送のCMの音量が番組と同じ平均水準に揃えられている。ところがストリーミングサービスはこの連邦法の適用外だった。NetflixもAmazon Prime Videoも、法律上は広告を好きなだけ大きな音で流せる状態が続いていた。
SB 576はこの抜け穴を州法で塞いだ。規制の基準はCALM Actと同じで、FCCが放送事業者に課しているルールに準拠する。広告の音量はピーク値ではなく平均ラウドネスで評価される。
ただし、この法律には民事訴訟権が設けられていない(private right of action)。視聴者個人がストリーミング事業者を訴えることはできない。執行権限は州司法長官または地区検察官にあるとみられるが、違反時の具体的な罰則や手順はまだ明確にされていない。
業界は反対したが、技術的には準備ができている
Netflix、ディズニー、Amazon Prime Video、パラマウントが加盟するMPAと、Streaming Innovation Allianceは、法案審議の段階でこの規制に反対した。2025年9月のカリフォルニア州議会分析によれば、業界団体は「多くのストリーミングサービスは既にサーバーサイド広告挿入の音量管理に取り組んでいる」と主張していた。
反対の論拠は主に技術的な困難だ。ストリーミング広告は複数のエンコーディングパイプラインを経由して配信されるため、広告ごとに音量がばらつく。再生デバイスもテレビ、タブレット、スマートフォンと幅広く、出力環境の統一が難しい。
とはいえ、この問題に対する技術的な解決策は既に存在する。放送業界は10年以上にわたってATSC A/85に基づくラウドネス正規化を運用してきた。ストリーミング事業者は、サーバーサイドの広告挿入ワークフローにファイルベースまたはリアルタイムのラウドネス制御処理を組み込めばよい。やり方がわからないのではなく、義務がなかったからやらなかっただけだ。
連邦議会が動かないから、州が動いた
SB 576が生まれた背景には、連邦レベルの規制の不在がある。
CALM Actはストリーミングサービスを対象としていない。FCCは2025年2月、CALM Actの規則見直しに関するNPRM(規則制定提案通知)を発表し、ストリーミングへの規制拡大についても意見を募集した。だが、そもそもFCCにストリーミングサービスを規制する法的権限があるのかという根本的な問題が浮上している。放送事業者団体やNCTA(インターネット・テレビ業界団体)は、CALM Actの対象拡大にはFCCの権限が及ばないと主張している。
連邦議会では2023年にCALM Modernization Actが提出されたが、委員会審議の段階で止まった。連邦が動かない以上、州が先に動く。プライバシー規制でも排ガス規制でも、カリフォルニア州はこの手順を繰り返してきた。
イリノイ州もこの流れに続いた。2026年6月にSB 3222が成立し(Public Act 104-0463)、2027年7月1日からストリーミング広告の音量規制が施行される。イリノイ州法はカリフォルニア州法より踏み込んだ点がある。サードパーティの広告管理事業者も規制対象に含め、ストリーミング事業者が書面による契約でラウドネス基準の遵守を委託している場合は免責される仕組みを設けた。執行はイリノイ州司法長官が担い、違反通知から45日間の是正期間が与えられる。
| CALM Act(連邦) | CA州 SB 576 | IL州 SB 3222 | |
|---|---|---|---|
| 対象 | 地上波・ケーブル 衛星 | ストリーミング | ストリーミング |
| 成立 | 2010年 | 2025年10月 | 2026年6月 |
| 施行 | 2012年12月 | 2026年7月 | 2027年7月 |
| 基準 | ATSC A/85 | CALM Act準拠 | CALM Act準拠 |
| 民事訴訟権 | なし | なし | なし |
| 執行機関 | FCC | 州司法長官 | 州司法長官 |
| 是正期間 | 規定なし | 未定 | 45日 |
| 第三者免責 | — | — | あり |
テレビの規制は効果があったのか
テレビのCALM Actはどの程度機能してきたのか。
FCCのデータによると、大音量CMに関する苦情は2022年に約750件、2023年に約825件、2024年には少なくとも1700件に急増した。規則の施行から10年以上が経過してなお、視聴者は不満を抱えている。FCCは苦情の「パターンまたは傾向」を根拠に執行を行う仕組みだが、個別の苦情だけでは調査に至らない。結果として、広告主が冒頭を大音量にして後半を絞る手法で平均ラウドネスの基準をすり抜けている、との指摘もある。
同じ問題を繰り返さないためには、法律の施行だけでは足りない。執行の実効性と、技術的な抜け道への監視が必要になる。SB 576が民事訴訟権を認めなかった点は、その面で懸念が残る。
日本にも届くか
カリフォルニア州は世界第4位の経済規模を持つ。Netflix、Amazon、ディズニーにとって、カリフォルニア州向けだけ別のオーディオ処理を行うよりも、全米あるいは全世界の配信で統一する方が合理的だ。イリノイ州が追随し、他の州にも波及すれば、州ごとに対応するコストはさらに増える。
日本では、テレビCMの音量はARIB TR-B32(電波産業会のラウドネス運用規定)と民放連の技術規準T032で管理されているが、これらは業界の自主基準であり法的強制力はない。ストリーミング広告に至っては、自主基準すら存在しない。Netflix、Amazon Prime Video、Disney+の広告付きプランが国内でも広がるなか、広告の音量が番組より大きいという不満はすでに存在する。カリフォルニア州法がグローバルなサービス設計に反映されれば、日本の視聴者も間接的にその恩恵を受ける可能性がある。
7月1日以降、広告で叩き起こされる赤ん坊が1人でも減るなら、アンバーグ議員のスタッフの怒りは報われたことになる。
参照元:No more loud commercials: Governor Newsom signs SB 576