マスク氏「OpenAIを子供に譲るかも」アルトマン氏が証言

マスク氏「OpenAIを子供に譲るかも」アルトマン氏が証言

サム・アルトマンが法廷で語ったのは、技術論ではなく一つの会話だった。2017年、自分が死んだらOpenAIをどうするか問われたイーロン・マスクは「子供に譲るかも」と答えたという。AGIを一人に渡さないために作った会社での発言だ。


「鳥肌が立つほどの瞬間」

オークランドの連邦裁判所で5月12日、OpenAI最高経営責任者(CEO)のサム・アルトマンがついに証言台に立った。マスクが2024年に起こした訴訟の主張は単純だ。アルトマンとグレッグ・ブロックマンは「慈善団体を盗んだ」。非営利として始まったOpenAIを営利目的に作り変えた、と訴えている。

その主張への第一声で、アルトマンは数秒沈黙してから「その捉え方を頭で理解することすら難しい」と述べた。OpenAI財団の資産はいまや 2000億ドル (約31兆2000億円)規模に達している。慈善団体としては世界最大級だ、というのが反論の骨格となる。

ただ、マスク側の弁護団はその財団が今年に入るまで常勤の従業員を抱えていなかった点を執拗に突いた。同日証言した取締役会会長のブレット・テイラー(Bret Taylor)はこう説明している。OpenAIの株式を現金化する作業に時間がかかり、2025年の再編でようやく解決した、と。

「死んだら子供に」発言の重み

裁判の中心的な問いは、商業的な力が大きくなるにつれて安全性へのコミットメントが置き去りにされたかどうか、だ。アルトマンの答えは、その問いを逆方向に投げ返すものだった。2017年、AIモデルを動かす資金をどう確保するかで創業者たちが揉めていた頃、彼が懸念していたのはマスクの側だった、と。

「マスク氏の安全に関する具体的な計画こそが、私を不安にさせた」

そう述べたうえで、アルトマンはある場面を 特に鳥肌が立つ瞬間 として描いた。マスクが仮にOpenAIの営利子会社を支配している状態で死んだらどうなるか、と他の共同創業者たちが尋ねた場面だ。

「あまり考えていなかった。だが、もしかしたらOpenAIは私の子供に引き継ぐべきかもしれない」

アルトマンによる、当時のマスクの発言の再現がこれだ。OpenAIは高度なAIを一人の手に集中させないために設立された組織だ。理念の真逆を行く返答が、共同創業者の口から出てきた瞬間だった。Yコンビネーターで多くのスタートアップを見てきたアルトマンには、もう一つの確信もあった。支配権を握った創業者 は、それを手放さない。経験則として骨身に染みていた言葉だ。

マスクとOpenAIの10年間 ── 子供発言から訴訟証言まで
2015
12月
OpenAI創業
マスク、アルトマン、ブロックマンらが非営利研究機関として設立。マスクは初期に3800万ドルを寄付。
2017
「子供に譲るかも」発言
営利子会社の構想を議論中、「自分が死んだらどうするか」と問われたマスクは「OpenAIは私の子供に引き継ぐべきかも」と回答。アルトマンが「特に鳥肌が立つ瞬間」と語った場面。
2018
マスクが取締役会を離脱
支配権をめぐる対立が解けず取締役会から退任。同時期、マイクロソフトとの投資協議では携帯のミーム画像を見せる場面も。同年OpenAIは営利子会社を設立。
2023
マスクがxAI設立、アルトマン解任騒動
マスクは独自AI企業xAIを立ち上げOpenAIの直接競合に。同年11月、アルトマンが取締役会から一時解任され5日後に復帰。
2024
マスクがOpenAIを提訴
アルトマンとブロックマンが「慈善団体を盗んだ」と主張、組織再編の取り消し・両名の解任・1300億ドル以上の非営利アームへの返還を要求。
2025
OpenAIが再編実施
非営利財団を傘下のまま、運営の大半を公益法人(PBC)へ移行。OpenAI財団の株式現金化が完了。
2026
2月
xAIがSpaceXに合併
合算評価額1.25兆ドルで全株式交換による合併。6月のSpaceX上場では合算1.75兆ドルが目標とされる。
2026
5月12日
アルトマンが証言台に
オークランド連邦地裁で証言。マスクの2017年発言、研究者をスタックランクで切らせた手法、マイクロソフト会議の様子などを語った。同月14日に最終弁論。
※ 各時点の主要な出来事を整理。2017年の発言時期と2026年5月12日のアルトマン証言を強調表示。

研究者を「チェーンソーで切った」マネジメント

アルトマンはマネジメント面でも厳しい証言をした。マスクの手法はエンジニアリングや製造業では機能したかもしれないが、研究組織には合わなかった、と。

「マスク氏は良い研究ラボの運営方法を理解していなかった、と私は思う。重要な研究者の何人かのやる気を削いだ。ある時はグレッグとイリヤに研究者の業績リストを作らせ、ランク付けして、まとめてチェーンソーで切らせた。組織の文化に長期間にわたる大きなダメージを与えた」

下位を切り捨てるスタックランク方式。テスラやSpaceXで使われてきた手法を研究所に持ち込んだ結果がこれだ、とアルトマンは語った。グレッグはグレッグ・ブロックマン、イリヤはイリヤ・サツケバー(Ilya Sutskever)を指す。マスクとアルトマンが他の仕事で手一杯だった時期、実質的にOpenAIを動かしていたのはこの2人だった。アルトマンは自身を、彼らの「汗を流した分の貢献」を守る側として位置づけた。

マスクが2018年にOpenAI取締役会を去った後には組織内に 士気の向上 があったとも、アルトマンは語っている。

マイクロソフトの会議で「ミームを見せ続けた」

それでもアルトマンとマスクの関係は完全には切れなかった。アルトマンはOpenAIの仕事についてマスクに情報を伝え続け、資金や助言を求めることもあった。

「マスク氏との会議の多くと違って、これは雰囲気の良い会議だった。長い時間、マスク氏は携帯電話のミーム画像を私たちに見せていた」

2018年のマイクロソフトのOpenAI投資を議論した際の、アルトマンの記憶だ。後にこの一連の投資が「非営利を腐敗させた」とマスクは訴訟で主張しているが、当時のマスクは投資への参加を打診される側であり、最新情報も逐一受け取っていた。OpenAI側の弁護団はこの点を突いている。


1兆ドル規模のIPOと裁判の行方

この裁判で何が決まるかは、ChatGPTの未来そのものに関わる。マスクが求めているのは、アルトマンとブロックマンの取締役解任、2025年の組織再編の取り消し、そして1300億ドル(約20兆2800億円)以上の非営利アームへの返還だ。判決の内容次第では、評価額 1兆ドル (約156兆円)に迫るOpenAIのIPO計画そのものが揺らぐ。

一方で、マスクのxAIは2026年2月にSpaceXに合併されており、6月に予定されるSpaceXのIPOでは合算評価額 1.75兆ドル (約273兆円)が目標とされる。先週の証言では、xAIがOpenAIのモデルから蒸留してGrokを訓練していたとマスク本人が認めたことも明らかになっていた。

OpenAIを「慈善団体から盗んだ」と訴える側が、その慈善団体のモデルでチャットボットを育てている。皮肉なねじれを抱えたまま、裁判は終盤に入っていく。

マスク対OpenAI訴訟で動く金額
※ OpenAI財団資産2000億ドルとマスク要求1300億ドルは現在の規模、OpenAIのIPO目標1兆ドルとSpaceX(xAI合算)のIPO目標1.75兆ドルは2026年内の目標値。1ドル=156円で円換算。

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