GTK2-NG誕生、Devuan開発者がEOLツールキットを蘇らせる

2020年に「死んだ」と宣告されたGTK2が、2026年に蘇ろうとしている。蘇生の主はメジャーディストリではなく、systemdを拒むDevuanの一人の開発者だ。なぜ今、誰も振り返らないツールキットに手を入れる人物が現れたのか。

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2020年に「死んだ」と宣告されたGTK2が、2026年に蘇ろうとしている。蘇生の主はメジャーディストリではなく、systemdを拒むDevuanの一人の開発者だ。なぜ今、誰も振り返らないツールキットに手を入れる人物が現れたのか。


6年前にEOL宣告されたツールキットに、今さらの手当て

GTK2を蘇らせる動きが始まっている。Devuan(デヴアン)の開発者「Daemonratte(デーモンラッテ)」氏が、2020年12月にEOL(End of Life)扱いとなった古いGUIツールキットGTK2のフォーク「gtk2-ng」を立ち上げ、モダンなコンパイラ環境で再び動かせるよう手を入れている。

GTK2は2002年に登場し、長らくLinuxデスクトップの土台を支えた。だがGNOMEプロジェクトは2020年12月16日のGTK 4リリースと同時にGTK2のEOLを宣告し、最終リリースである2.24.33は同月21日に公開されたまま、上流での開発は止まっている。

それから約6年。Daemonratte氏のフォークは、AURメンテナーが当てている2つのパッチを取り込み、内部のソート処理を新しいg_sort_arrayに置き換える近代化を加え、モダンなツールチェーンで出る警告を片づけたうえで、GCC 14とClang 21でビルドが通る状態を作っている。Phoronix(フォロニクス)の記事によれば、コードはdevuan.org傘下のgit.devuan.orgインスタンスで公開されている。

目標は、互換性、安定性、パフォーマンス、そしてABIをできる限り維持しながら、GTK2をモダンなシステムで使い続けられる状態に保つことだ。

Devuanのフォーラム投稿で、Daemonratte氏自身がgtk2-ngのねらいをこう書いている。派手な機能追加ではない。ABI互換性の維持を最優先に置き、モダンな環境で再びビルドできる状態を取り戻すこと。ねらいはここに絞られている。


なぜDebianではなくDevuanから声が上がったのか

ここで一つ問いが浮かぶ。GTK2のメンテナンスは、本来ならGNOME本体やDebianArch Linuxといった大規模プロジェクトが担うべき仕事のはずだ。なぜ、相対的に小さなDevuanコミュニティの一個人が動いているのか。

答えは、各ディストリビューションがGTK2を「捨てる側」に回ったからだ。2026年1月7日、DebianのGNOMEチームに所属するMatthias Geiger氏は、2027年リリース予定のDebian 14「Forky」からGTK2を削除する目標を表明した。理由として挙げられたのは、上流が完全にメンテナンスを止めていること、そしてWaylandへのネイティブ対応とHiDPIディスプレイ向け機能を欠いていることだ。

Arch Linuxは2025年10月にgtk2パッケージと依存パッケージを公式リポジトリからAUR(Arch User Repository)へ追い出し、Red Hat Enterprise Linux 10は2025年5月のリリース時点でGTK2サポートを落とした。

それでもDebianには150ほどのパッケージがGTK2を必要としている、というのが現状だ。ここに「上が捨て、下が困る」ねじれが生じている。

Debianのアーカイブからこれを削除すれば、活発なユーザーがいる依存プログラムまで道連れになる。アーカイブの外で動かすことすら難しくなり、歴史的に重要なソフトウェアにも手が届きにくくなる。

LWN.netの議論で、Jonathan Dowland氏はGTK2削除に対してこう反論している。GNOMEチームが維持したくないなら、まずパッケージをorphan(放出)して、引き取りたい人がいないか確かめるのが筋ではないか、と。

Daemonratte氏のgtk2-ngは、まさに「拾う人が出てきた」という形で動いている。Devuanがこの動きの発信源になったのは偶然ではない。上流に黙って従わない文化が、systemdを拒否するという立ち位置の中で育ってきたからだ。


YTKがすでにあるのに、別フォークを立ち上げる意味

ここで反論が出る。GTK2の維持なら、すでにArdour(アーダー)プロジェクトのYTKがあるのではないか。

その通りだ。Ardourはデジタルオーディオワークステーションとして、GTK2のEOL後にYTKと呼ばれる独自フォークを作り、約1年前に新しいツールキットへ切り替え、その半年後にはGTK2サポートを削除している。Ardourの最新リリースとともに実戦投入されており、十分な実績がある。

ではなぜ、似たフォークをもう一つ作る必要があるのか。Devuanのフォーラムでの議論を読むと、両者の方向性の違いが見えてくる。

YTKはArdourが自分たちで使うために、必要な部分だけを切り出して維持しているフォークだ。一方のgtk2-ngは、Xfce 4.12やLXDE、MATEといったプレGTK3世代の基盤として動こうとしている。実際にDaemonratte氏は「YTKから取り入れられる改善は多い。ABI互換を壊さない形で取り込みたい」と述べている。

この違いは大きい。Ardourの目的は「自分のアプリを動かし続ける」こと。gtk2-ngの目的は「GTK2上で動いていたエコシステム全体を残す」こと。同じツールキットの維持に見えても、設計判断のすべてがこの違いに引きずられる。

プロジェクトはモダン化よりも互換性を優先する。GTK2-NGは元のGTK2 APIとABIを保ち、既存のソフトウェアが大きな移植作業なしにビルド・実行できるようにする。

Linuxiac(リナクシアック)の解説記事もこの点を強調している。「動かす」と「現代化する」は別物なのだ。


それでも残る厳しい現実

期待だけを並べるのは公平ではない。Daemonratte氏のフォークが直面している現実は厳しい。

第一に、個人プロジェクトとしての継続性だ。フォーラムでDaemonratte氏自身が「Seamless Devuan Project(シームレス・デヴアン・プロジェクト)を一旦止めて、これに取り組む」と書いている。本人の関心が他に移れば、メンテナンスは止まる。Phoronixのフォーラムでは「長期的なコミットメントは見えない」という冷ややかな指摘も出ている。

第二に、Wayland対応とHiDPI対応という根本問題だ。これらはGTK2のアーキテクチャに深く関わる話で、パッチを当てて済む種類の課題ではない。Debianが削除を決めた理由そのものが、gtk2-ngの努力では埋められない可能性が高い。

第三に、上流アプリ側の事情だ。Phoronix(フォロニクス)のコメント欄でも「新規開発者が今からGTK2を選ぶ理由はあるのか」という疑問が出ている。仮にGTK2が使える状態に保たれても、誰も新しくGTK2でアプリを書かないなら、フォークの価値は過去資産の保存に限定されてしまう。

それでも、150ほどの既存パッケージとそのユーザーが今この瞬間に存在することは事実だ。Lazarus(ラザルス)IDE、GKrellM(ジー・クレル・エム)システムモニタ、それに古いXfce 4.12、LXDE、MATEで動かしている人々。彼らにとって、gtk2-ngは「上流に捨てられたあとに残された、ほぼ唯一の道」になりうる。


「終わったソフト」を誰が看取るのか

GTK2-NGの登場が示しているのは、技術的な復活劇ではない。「上流が決めたEOL」と「ユーザーの実際の利用」の間に、誰がどう折り合いをつけるのかという、Linux世界の根本的な問いだ。

GNOMEは「使うのをやめろ」と言った。Arch、Red Hat、そしておそらくDebianも、これに従う。ところが下では、依然としてGTK2の上で人が仕事をしている。捨てる側と、捨てられる側は、同じ人間ではない。

Daemonratte氏のフォークが成功するか失敗するかは、たぶん本質的な問題ではない。重要なのは「捨てる」と決めた側に対して「ならば自分で拾う」と動く人間が今もいるという事実、そしてgit.devuan.orgという小さなホスティングがその受け皿になりうるという事実だ。

オープンソースの強みは、まさにこの非対称な拒否権にあるのかもしれない。


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