1か月で130万ドル、3人と100体のAIが書いたコード

メニューバーに並ぶ数字が、月130万ドルに達した。3人の開発チームが回す100体のAIエージェントが、1か月でこれだけのトークンを使い切った。請求書を持つのは、本人ではない。

1か月で130万ドル、3人と100体のAIが書いたコード

メニューバーに並ぶ数字が、月130万ドルに達した。3人の開発チームが回す100体のAIエージェントが、1か月でこれだけのトークンを使い切った。請求書を持つのは、本人ではない。


メニューバーに「トークン」という新しい数字が現れた

プログラマーのメニューバーには、これまでCPU使用率やメモリ、バッテリー残量が並んできた。そこに新しい項目が加わっている。トークンの消費額だ。

OpenClawの開発者ピーター・シュタインベルガー(Peter Steinberger)が公開した1枚のスクリーンショットが、その光景を象徴している。彼の使うメニューバー常駐ツール「CodexBar」のダッシュボードには、30日間のOpenAI API利用額として 130万5088ドル (約2億700万円)が表示されていた。内訳は6030億トークン、760万リクエスト。スクリーンショットを投稿した5月15日当日だけで、1万9985ドル、20万6000リクエストを記録している。

数字の桁を一度受け止めてほしい。月130万ドルは、サンフランシスコのシニアエンジニア数人分の年収に相当する。それが給与でもインフラでも株式でもなく、トークンに消えた。

ダッシュボードの最上位モデルは「gpt-5.5-2026-04-23」。請求書を負担するのは、シュタインベルガーを2月に雇用したOpenAI本人だ。彼は自らを「Codexの最大の無償宣伝者」と呼んでいる。

CodexBarは、OpenAI・Claude・Cursorなど複数のAIコーディングツールにまたがって利用量・コスト・リセット時刻を追えるmacOS用のメニューバーアプリ。シュタインベルガー自身が開発したツールで、今回のスクリーンショットもこのアプリの画面だ。

100体のエージェントが、人間の代わりに開発を回す

なぜ3人のチームでこれだけのトークンを消費できるのか。人間が直接コードを書いていないからだ。

シュタインベルガーのチームは、クラウド上に約100体のCodexインスタンスを常時走らせている。エージェントたちはプルリクエストを自動でレビューし、コミットにセキュリティ上の欠陥がないか走査し、重複したGitHubのイシューを整理し、修正コードを書く。一部のエージェントはプロジェクトの方針に沿って自分から新しいプルリクエストを立て、別のエージェントは性能ベンチマークを監視して、性能低下を見つけるとチームのDiscordに報告する。

報告によれば、会議に「同席」して、その場で出た機能の話をもとにプルリクエストを生成するエージェントまであるという。人間が会話している横で、AIがその会話を実装に変えていく。眠らず、文句も言わず働く 100人の同僚 が、人間の3人を取り囲んでいる。

ここで一度立ち止まりたい。これは「AIにコードを書かせる」段階の話ではない。開発という営みのどこに人間が残り、どこをエージェントに明け渡すか、その線引きを実地で試している段階の話だ。

「Fast Mode」を切ると、コストは30万ドルまで下がる

130万ドルという数字には、続きがある。シュタインベルガーは投稿のあと、この金額がCodexの「Fast Mode」(高速モード)による価格だと補足した。Fast Modeは通常より大幅に速いペースでクレジットを消費する。

これを切るだけで、生のAPIコストは 約30万ドル まで下がるという。彼自身の言葉では、高速モードを無効にした支出は「エンジニア1人のコストより安くなる」。

月200ドルのCodex Pro契約は、API換算でおよそ5000〜6000ドル分の価値を含む。30万ドルをこの単価で割り戻すと、シュタインベルガーの非高速モード利用は、Pro契約およそ60人分に相当する。

OpenAIの見積もりでは、Codexの平均コストは開発者1人あたり月100〜200ドル。シュタインベルガーの使い方は、その振れ幅の極端な端にある。普通ではない使い方だが、開発者が払う額と、その裏で実際に動く計算資源のコストとの差を、ひとつの数字ではっきり見せてもいる。

同じCodex、3通りの月額コスト
OpenClawチーム
(Fast Mode)
OpenClawチーム
(通常モード)
一般的な
開発者1人
月額コスト 130万ドル約2億700万円 約30万ドル約4700万円 100〜200ドル約1.6〜3.2万円
年換算 約1560万ドル 約360万ドル 約1200〜2400ドル
使い方 100体のエージェントを高速モードで常時稼働 高速モードを切った同じ運用 日常的なコーディング支援
費用の
負担者
OpenAI 開発者本人
または所属企業
※ 月額コストは本人公開のダッシュボード値および本人の補足発言による。年換算は月額を12倍した単純計算。円換算は1ドル158.7円。一般的な開発者の月額はOpenAIの公式見積もり。
Codexは2026年4月、課金方式をメッセージ単位からトークン単位へ切り替えた。この変更で、ツール側がどれだけインフラコストを肩代わりしているかが以前より見えやすくなった。同時に、ヘビーユーザーにとっては請求額が読みにくくなった面もある。

シュタインベルガーは過去にPSPDFKitという文書処理SDKを13年かけて育て、1億ドル超で売却している。生活のために働く必要はない。だからこそ、この130万ドルを「制約のない実験室」と呼べる。彼が作るものはすべてオープンソースで公開され続けている。

X上で起きた「バブル」をめぐる議論

スクリーンショットが広まると、X上の反応は称賛一色にはならなかった。むしろ、数字の異常さそのものが議論の主題になった。投稿への返信を追うと、称賛より問いのほうが多い。

ある利用者は、こう書き込んだ。「130万ドル分のエンジニアにできないことを見せてくれ。さもなければ、これはフロンティアAI企業のバブルが弾け始める広告かもしれない」。別の利用者は「ソフトウェアは安くなるはずじゃなかったのか」と皮肉を投げた。「3人で月130万ドルなら、年1560万ドル。70人のシニアエンジニアを雇える」という試算も出た。

反論の核心は、はっきりしている。CodexBarもOpenClawも、月130万ドルの収益を生む製品ではない。出力が支出に見合っていないなら、この消費は壮大な実験か、まだ成果が追いついていない過剰投資のどちらかだ、と。

シュタインベルガーの返答は、その問いを正面から受けていない。彼はこの支出を、トークンのコストが制約にならないとしたらソフトウェア開発はどう変わるか、という研究だと説明している。その姿勢を保ちやすいのは、費用が自分の財布から出ていないからでもあるだろう。

安いのか、高いのか、立つ場所で変わる

この話を「AIは高すぎる」と片付けるのは、たぶん早い。

CodexもClaude CodeもCursorも、開発者を獲得するために、推論コストをAPI料金よりかなり低い水準に抑えて提供している。今のAIコーディングツールの価格は、どれも将来の規模を見込んだ賭けの上に成り立っている。各社が目先の損失を飲み込んで、利用習慣と販路を先に押さえにいっている。

シュタインベルガーの130万ドルは、その賭けの仕組みを、極端な形で1枚の画面に映し出した。彼の使い方は普通ではない。けれど、見えにくかったコスト構造を一度表に出した点では、議論の出発点として悪くない。

メニューバーに並ぶ数字は、いつもその時代の「資源」を映してきた。CPU、メモリ、ディスク。次に並んだのがトークンだという。何が今いちばん貴重で、何が足りていないかを、その1枚の画面が教えてくれる。


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