パルワールド開発元「ゲーマーはAIを望んでいない」。説得力はあるか
ポケットペアのパブリッシング・コミュニケーション責任者ジョン・バックリー(John Buckley)氏が、生成AIに対して改めて明確な拒否姿勢を示した。「ゲーマーはそれを望んでいない。望んでいないなら、それで終わりだ」。7月10日に正式リリースを控えた『パルワールド』の開発元から出たこの言葉を、素直に受け取れる人と、そうでない人がいる。
「うちにはアーティストがいる」
インタビューに応じたバックリー氏の論旨は明快だった。ポケットペアは生成AIを使っていない。社内に多くのアーティストを抱えており、彼らは自分の手で作ることを好んでいる。AIに置き換える理由がない、と。
コーディング支援としてのAIには可能性を認めつつも、ゲーム制作における生成AIの将来には懐疑的だ。「バブルとは呼びたくないが、どれだけ続くかは分からない。Steamだってある程度は押し返している」。
折しも今週開催中のSteam Next Festでは、参加タイトル約8,700本のうち約1,700本がAI使用を開示した。5本に1本。バックリー氏自身も、Next Festの出展タイトルでAI生成アセットを見かけるたびに違和感を覚えるという。「業界にいる自分ですら、自然と『なぜ?』と思った。残りの部分はちゃんと作れているのに、それが必要だったのか」。
さらに踏み込み、今後は「authenticity market」(本物であることが売りになる市場)が生まれると予測した。開発者が「このゲームは100%人の手で作られています」と自ら宣言する時代になるという。ただし本人はそれを歓迎していない。「ゲームは人が作っているとみんなが当然思える世界であるべきだ。Steamの免責事項に『このゲームは人間が作りました』と書かなければならないとしたら、それはちょっと悲しい」。
しかし、この会社の過去を知る人は引っかかる
バックリー氏の主張そのものは、多くのゲーマーの感覚と一致する。だが「誰が言っているか」が気になる人は、とりわけ日本では少なくない。
ポケットペアCEOの溝部拓郎氏は2021年、AIが生成したポケモン風モンスターの画像を自身のXアカウントに投稿し、「AIが進化し過ぎてて、どっちがポケモンかもう分からない」とコメントしていた。翌2022年には「AIというフィルターを通したら、著作権問題は解決するのかも?」と投稿している。
同年11月、ポケットペアは『AI Art Impostor』をリリースした。プレイヤーがAIに指示を出して絵を生成するパーティゲームだ。ゲームの核そのものがAI画像生成だった。
2024年1月に『パルワールド』がEarly Accessで爆発的なヒットを記録すると、パル(ゲーム内クリーチャー)のデザインがポケモンに酷似しているという批判が殺到した。デザインにAIが使われたのではないかという疑惑も広がった。ポケットペア側はAI使用を一貫して否定し、「アーティストが最も傷ついた」と訴えた。ForbesやVICEなど複数のメディアが検証したが、生成AIが使われた証拠は見つかっていない。
その後、ポケットペアは「生成AIやNFTを活用したタイトルは今後一切出さない」と表明。パブリッシング事業でも、AI利用タイトルの支援を拒否する方針を打ち出した。
2021年12月 CEOがAI生成ポケモンを投稿 「どっちがポケモンかもう分からない」 2022年11月 AI Art Impostorリリース AI画像生成がゲームの核のパーティゲーム 2024年1月 パルワールド発売、AI疑惑 デザインへのAI使用疑惑が浮上 2024年9月 任天堂・ポケモンが提訴 特許権侵害訴訟。チームの士気に影響 2025年 AI・NFT全面拒否を表明 パブリッシング事業でもAI作品を拒否 2026年6月 「ゲーマーはAIを望んでいない」 バックリー氏がインタビューで明言 2026年7月 パルワールド1.0リリース 正式版として公開予定 |
事実を並べると、こうなる。AIに興味を示し、AI活用ゲームを出し、ポケモンに似たデザインでAI疑惑を浴び、それを否定し、今度はAI反対派の旗手になった。
この経緯を知る層にとって、バックリー氏の発言は「お前が言うな」と言われやすい。海外のコメント欄でも、「ポケットペアが創作の誠実さを語るのは、いろんな意味で面白い」という皮肉が投稿されている。
任天堂との訴訟が残す影
もう一つ、この話題から切り離せない要素がある。任天堂・株式会社ポケモンによる特許権侵害訴訟だ。
2024年9月に提訴されたこの訴訟は、東京地裁で10月1日に証拠弁論、11月9日に判断が示される予定まで進んでいる。だが、任天堂側が請求の範囲をパルワールドの旧バージョンに限定したことで、事実上の骨抜きとなった。知財訴訟を長年追ってきたフロリアン・ミューラー(Florian Mueller)氏は、現行バージョンに対して任天堂が勝訴する可能性はゼロだと分析。旧バージョンで認められたとしても損害賠償額は最大約500万円にとどまるとみている。「両者にとって端数にすぎない金額だ」。
バックリー氏自身も、訴訟がチームの士気に影響を与えたと認めている。訴訟に対応するためにゲーム内の仕様を変更せざるを得なかったことも公にしている。
ここに皮肉がある。ポケットペアは「人の手で作る」ことの価値を主張している。だがその「人の手で作った」デザインが、別の会社のIPに似すぎていると訴えられている。AIを使わなかったとしても、オリジナリティの問題は残る。
正論は出自を選ばない。が、信頼は選ぶ
バックリー氏が語った内容は、ゲーム業界の現在地を正確に映している。
Summer Game Festでは、セガの『クレイジータクシー:ワールドツアー』や『トゥームレイダー』最新作が、SteamページのAI使用開示をめぐってファンから追及を受けた。セガは背景アセットの開発にAIを使ったと説明し、シリーズ生みの親のカンノ・ケンジ(Kenji Kanno)氏が「参考として使い、アーティストが実際に描いた」と弁明している。ゲーム業界における生成AIの温度は、確実に上がっている。
バックリー氏が指摘した地域間の温度差も見落とせない。韓国のSHIFT UPはCEOのキム・ヒョンテ(Hyung-Tae Kim)氏が生成AIの活用に前向きな姿勢を示しており、中国・韓国市場では欧米ほどの拒否反応がないとされる。「2、3年後にはもっと大きな衝突が起きるだろう」とバックリー氏は予測する。
この発言を「正しい」と評価することと、「この会社が言う資格があるか」と疑うことは、矛盾しない。ポケットペアの過去を知っていれば、なおさらだ。
ただ、一つだけ確かなことがある。ポケットペアは実際にAI不使用の方針を貫いており、パブリッシング事業でもそれを条件にしている。行動が伴っているかどうかで見れば、言葉だけの企業よりはずっと一貫している。その一貫性が、過去の印象を上書きするかどうかは、一人ひとりのゲーマーが決めることだ。
7月10日、『パルワールド』は1.0を迎える。人の手で作られたゲームとして。
参照元
GamesRadar+ - Palworld lead says Pocketpair doesn't touch AI
他参照
Games Fray - Nintendo has zero chance of prevailing over current Palworld versions
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