PS6の「RT性能10倍」は誤読、実ゲームのFPS向上は3倍前後

PS6がベースPS5比で最大10倍のレイトレーシング性能、という数字が拡散している。だが著名リーカーのKeplerL2は、AMD資料の読み違いだと釘を刺す。実ゲームのFPS向上は3倍前後、というのが彼の読みだ。

PS6の「RT性能10倍」は誤読、実ゲームのFPS向上は3倍前後

PS6がベースPS5比で最大10倍のレイトレーシング性能、という数字が拡散している。だが著名リーカーのKeplerL2は、AMD資料の読み違いだと釘を刺す。実ゲームFPS向上は3倍前後、というのが彼の読みだ。


10倍は「RT処理の速度」であって「ゲームの速度」ではない

PS6の性能リークで最も派手な数字として流通しているのが、この「RT性能10倍」だ。Moore's Law is Dead(MLID)が動画やポッドキャストで繰り返し触れ、多くのメディアが見出しに使っている。RTX 5090級のRT性能を持つ家庭用機、というストーリーまで紐づいている。

ところが、RDNA関連の事前リークで一定の実績を持つKeplerL2の見解は違う。wccftechの報道によれば、KeplerL2はNeoGAFのスレッドで、MLIDAMDの資料を正しく解釈できていないと指摘している。

スライドに「Orion 10x RT perf vs Oberon」とあるのを、MLIDは「PS5で30FPSのゲームがPS6で300FPSになる」と読んでしまっている。そこに5090の200FPSを並べて「PS6 > 5090」と結論づけているが、そもそも前提が違う。(KeplerL2の要旨)

つまり、10倍という数字はRT処理そのもののスループットの話であって、ゲーム全体のフレームレートがそのまま10倍になるわけではない、というのが論点だ。

Assassin's Creed Shadowsの公開データで計算してみる

KeplerL2の反論の強みは、根拠が推測ではなく実ゲームの公開データに置かれている点にある。UbisoftGDC 2025でAssassin's Creed Shadowsのレンダリング解説を公開しており、PS5上でのRT処理の内訳がそこに出ている。

Screen Space Tracing: 0.54ms
World Space Tracing: 1.38ms
Lighting: 1.17ms
Denoising: 1.91ms
Total RT Tasks: 5.00ms(PS6想定は1.35ms)

PS5のRTモードは30FPS、つまり1フレーム33.3msで作られている。そのうちRT関連が5.00msを占めている。仮にRT部分が10分の1(0.5ms)になっても、残りの28.3msは動かない。実フレームタイムは約28.8msで104FPS、フレーム数の伸びは約3.1倍に収まる。KeplerL2の「3倍」はこの算数から来ている。

同じ条件で5090の200FPSと比べる、というのが数字の世界を横断する粗い掛け算だった。RT部分だけを10倍してゲーム全体の性能とみなす、という手順そのものがフレームタイムの構造を無視している。

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パストレ想定でも10倍には届かない

ではRTやパストレーシング(PT)の比重が大きいタイトルならどうか。ここでもKeplerL2は慎重だ。

パストレ主体のタイトルでは差はもっと広がるが、それでもラスタライズと演算がフレームタイムの半分以上を占める。「10倍のRT」がそのまま10倍のFPSになることはない。(KeplerL2の要旨)

RTとPTの違いは、簡単にいうと「一部の光線だけ追跡する」のか「シーン全体の光を追跡する」のかの差だ。PTはRTハードウェアへの依存度が上がるので、RTコアの改良は性能に反映されやすい。それでも、ジオメトリ処理、頂点処理、コンピュートシェーダーといった非RT部分が消えるわけではない。フレームタイムの半分以上が非RTで占められている以上、天井はおのずと決まってくる。

この構造は、PS5 Proの事例でも一度確認されている。PS5 Proは仕様上PS5の2〜4倍のRT性能を掲げたが、Assassin's Creed Shadowsでの実測は「2倍に届くかどうか」という水準だった。仕様上の倍率と体感FPSの倍率はもともと一致しない、という話が繰り返されているだけとも言える。

リークの「読み方」を誰が握るか

今回の騒ぎで興味深いのは、リーク情報の源流と解釈が別人の手に分かれていることだ。AMD関連ドキュメントへのアクセスという点でMLIDは実績を積んでおり、Zen 6RDNA 5のラインナップ、Magnus、CanisOrionといったコードネームの最初の露出は大半がMLID経由だった。KeplerL2自身、それは認めている。

問題はそこから先の解釈の部分だ。MLIDは「10倍」を派手な見出しに整え、数字を掛け合わせてRTX 5090と並ぶコンソールという絵を作る。KeplerL2はその絵の演算手順に待ったをかける。データを持ってくる人と読む人が噛み合っていないまま、見出しだけが先行する、という不健全な状態になっている。

RDNA 5世代でRTコアが大きく手を入れられるのは事実とみて良さそうだ。AMDSonyが共同で進めるProject AmethystではRadiance Cores(RT専用ハードウェアブロック)やNeural Arrays(CUのAI向け再編)が具体的に語られている。これらはRT性能を底上げする仕掛けとして実在する。

ただし、ハードの理論倍率が3倍あっても6倍あっても、ゲームのフレームタイムに現れる割合はその一部でしかない。10倍という数字の派手さに引っ張られすぎると、発売後に「思ったほど伸びていない」と感じる人が大量発生する、というのが今のPS5 Proで起きている現象そのものだ。

期待値の再調整が必要

KeplerL2の主張をまとめると、PS6の実ゲームFPSPS5比で平均3倍、RT/PT負荷の高いタイトルでそれを上回るが10倍には届かない、というレンジに収まる。これは決して悲観的な数字ではなく、むしろ「7年ぶりの世代交代」として妥当なところに着地している。

派手な倍率に期待値を引き上げられた状態でPS6を迎えると、本来十分に立派な性能ジャンプが「物足りない」と解釈されかねない。リーカー同士の見解の食い違いは、どちらが正しいかよりも、期待値をどの水準に置いておくかという読者向けの準備運動として機能している気がする。

2027年と噂される発売まで、まだ数字の上下はあるだろう。ただ、「10倍」と「3倍」のどちらを信じるかで、買った瞬間の満足度は大きく変わる。今のうちに冷静な方の数字を頭の片隅に置いておいた方が、発売日の朝が気持ちよく迎えられる、とは言えそうだ。


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