RTX 5060 Ti 8GB、在庫過多で供給停止へ
GeForce RTX 5060 Ti 8GBの価格が下がり続けている。NVIDIAはこのモデルのGPU供給を4月下旬から一時停止する方針だ。かつて「主力」として優先出荷されたはずのこのカードに、いま何が起きているのか。
GeForce RTX 5060 Ti 8GBの価格が下がり続けている。NVIDIAはこのモデルのGPU供給を4月下旬から一時停止する方針だ。かつて「主力」として優先出荷されたはずのこのカードに、いま何が起きているのか。
4月下旬から2週間、GPUダイの供給を全面停止
NVIDIAがGeForce RTX 5060 Ti 8GB向けのGPUダイについて、AIB(グラフィックスカードを製造・販売するパートナー企業)への供給を4月最後の2週間にわたり全面停止する見通しだ。中国のサプライチェーン情報サイト博板堂(Board Channels)のリーカー、低手一号氏が明らかにした。
供給再開は 5月初旬 が見込まれている。NVIDIAがGPUダイの供給を直接止めることで、AIBの生産も物理的に止まり、市場への新規流入がストップする。狙いは明確で、供給過多による価格下落に歯止めをかけることだ。
NVIDIAが供給量を意図的にコントロールして価格を維持する手法は、RTX 5000シリーズでは珍しくない。2025年9月にはRTX 5060シリーズ全体で減産が実施され、RTX 5060 Ti 16GBとRTX 5060は最大30%の生産削減を受けた。同年10月にはRTX 5060 Ti 8GBの低価格販売そのものが禁止された経緯もある。
NVIDIAは供給量だけでなく、AIBへの販売価格の下限まで指示している。「市場原理」と呼ぶには、かなり管理された市場だ。
「主力」から「お荷物」へ──わずか数か月の転落
RTX 5060 Ti 8GBの価格推移を見ると、その凋落ぶりがよくわかる。2026年2月初旬の最安値は約7万4,000円。それが3月下旬には約6万6,800円まで下がり、4月15日時点では約6万3,800円にまで落ちている。2か月足らずで1万円以上の値下がりだ。
この下落には構造的な理由がある。メモリ価格の高騰で16GBモデルの供給が滞った時期、NVIDIAはメモリ消費量の少ない8GBモデルを 優先的に大量出荷 した。RTX 5060 Ti 8GBとRTX 5060が「主力製品」として位置づけられたのは、2026年1月頃のことだ。博板堂経由の情報では、NVIDIAがAIBパートナーと調整のうえ、この2モデルに出荷の重心を移す方針を固めたとされていた。
ところが結果は裏目に出た。市場には8GBモデルの在庫が積み上がる一方、消費者の目は厳しかった。2026年のゲーミング環境で 8GBのVRAM は心もとなく、少し上乗せすれば16GBモデルが手に入る。下にはRTX 5060(最安約5万6,000円)が控えている。RTX 5060 Ti 8GBは、上にも下にも逃げ場のない中途半端なポジションに追い込まれた。
メモリ高騰が生んだ「逆転現象」
皮肉なのは、RTX 5060 Ti 8GBが優先供給された理由そのものが、このモデルの存在意義を否定していることだ。GDDR7の価格が高騰しているからこそ8GBモデルが作りやすい。だが消費者にとって「8GBしかないから安い」は、もはや購入理由にならない。
8GBモデルは128-bitバス幅でGDDR7を4枚しか使わない。製造コストは低いが、最新ゲームのVRAM要求を考えると、2026年に8GBのGPUを6万円台で買う判断は慎重にならざるを得ない。
グラフィックスカード市場全体を見ても、メモリ価格高騰の影響でBTOパソコンを含む売れ行きが落ち込んでいる。その中でRTX 5060 Ti 8GBだけが在庫を抱えているのは、価格以前に「このスペックでは選ばれない」という市場の明確なメッセージだろう。
NVIDIAの供給管理は誰のためか
RTX 5060 Ti 16GBの最安値は約9万円。RTX 5060は約5万6,000円。その間に挟まれた8GBモデルは約6万3,800円。数字だけ見れば「ちょうど中間」に見えるが、性能と容量の比率で考えると、消費者にとってのコストパフォーマンスは決して良くない。
NVIDIAがこの供給停止で狙っているのは、在庫の消化と価格の反転だ。供給を絞れば流通量が減り、底値に近い現在の価格から反転する可能性はある。5月以降は今より安く買えなくなるかもしれない。
だが、もっと大きな構図もある。RTX 5000シリーズ全体でNVIDIAは一貫して「少ないメモリのモデルを多く出荷し、多いメモリのモデルは絞る」という方針を取ってきた。AI向けデータセンター需要がGDDR7を吸い上げ、ゲーミング向けは後回しにされる。
RTX 5060 Ti 8GBの供給停止は、そのしわ寄せが末端のミドルレンジにまで及んだ結果とも読める。
供給を絞って価格を維持する。需要がなければさらに絞る。この繰り返しの先に、ゲーマーが選べる「手頃なGPU」はどれだけ残るのだろうか。
購入を検討している人へ
現在の約6万3,800円という価格水準は、RTX 5060 Ti 8GBの過去最安値に近い可能性がある。供給停止後に価格が反転するかどうかは不透明だが、少なくとも5月以降は値下がりしにくくなると考えるのが自然だ。
ただし、8GBのVRAMで十分かどうかは別問題だ。フルHD環境がメインならまだ戦えるが、WQHD以上を視野に入れるなら 16GBモデル か、競合のRadeon RX 9070 XT(16GB)も選択肢に入る。供給停止というニュースに焦って飛びつく前に、自分の用途と相談したほうがいい。
NVIDIAの供給戦略に振り回されるのは、いつだって消費者だ。
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