TSMC、Apple向けチップ10億ドル分がDRAM待ちで滞留
TSMCの2nm製造は順調に動いている。止まっているのはその先、DRAMをチップに組み込むパッケージング工程だ。
TSMCの2nm製造は順調に動いている。止まっているのはその先、DRAMをチップに組み込むパッケージング工程だ。
チップはできた。メモリが来ない
TSMCの工場で、Apple向けのA20 Proチップが出荷できないまま積み上がっている。
台北在住の半導体ジャーナリスト、ティム・カルパン(Tim Culpan)氏が自身の配信メディアCulpiumで報じた。TSMCはApple向けプロセッサを約10億ドル分保有しているが、DRAM供給が届かないためパッケージング工程に進められないという。
A20 ProはAppleとして初めてTSMCの2nmプロセス(N2)で製造されるチップだ。N2の量産は2025年末に始まっており、製造自体は歩留まりも含めて順調に進んでいる。
制約はN2ではない。その次の工程にある。
InFOからWMCMへ
A20 Proには、約10年間使われてきたInFO(Integrated Fan-Out)に代わる新しいパッケージング技術、WMCM(ウェハーレベル・マルチチップ・モジュール)が採用される。
InFOはSoCの上にDRAMを積層する方式だった。WMCMはSoCとDRAMをウェハーの段階で横に並べて統合する。TSMCがAI向けGPUに使うCoWoS(Chip on Wafer on Substrate)のモバイル版と言える。
信号経路が短くなり、放熱性能も上がる。だがWMCMには構造上の前提がある。DRAMダイがなければ、チップをパッケージに仕上げることができない。
InFO時代のように、SoCだけ先に切り出して別工程でDRAMを載せるという段取りが通用しない。
N2の製造拠点は新竹のFab 20と高雄のFab 22で、Fab 22がApple向けの主力だ。WMCMのパッケージングは龍潭のAP3で試験生産ラインが動いており、本格量産は嘉義のAP7が担う。
ウェーハは出来上がっている。しかしDRAMが届くまで、次の工程には入れない。
決算に現れた兆候
TSMCの2026年第2四半期決算に、この滞留の痕跡が出ている。
CFOのウェンデル・ホアン(Wendell Huang)氏は決算説明会で、在庫日数が前四半期の80日から87日に増えたと報告した。理由は「N2技術の立ち上げが主因」だと説明している。前年同期と比べると11日多い。
表面上は新プロセスの立ち上げに伴う一時的な在庫増に見える。しかしカルパン氏の報道を重ねると、別の読み方ができる。DRAMの供給遅延でパッケージング工程に進めないまま滞留しているウェーハが、この増加に含まれている可能性がある。
N2はこの四半期のウェーハ売上の3%を占めた。TSMCにとって初めてN2の売上貢献が数字として現れた四半期であり、下半期にかけて急速な立ち上がりが計画されている。
なぜDRAMが足りないのか
サムスン、SKハイニックス、マイクロンの3社は、DRAM製造能力の大部分をHBM(高帯域幅メモリ)に振り向けている。HBMはNVIDIAなどのAIアクセラレーターに不可欠な部品で、通常のDRAMに比べて1ビットあたり約3倍のウェーハ面積を消費する。利益率もモバイル向けLPDDR5Xとは比較にならない。
IDCの2月時点の予測では、2026年のDRAM供給成長率は前年比16%にとどまる。過去の平均を下回る数字だ。スマートフォン向けのLPDDR5Xは、メーカーにとって優先度が低い製品になっている。
AppleのDRAM調達先はマイクロンが中心で、SKハイニックスとサムスンも供給元に含まれる。しかし3社ともHBM向けの生産シフトで、モバイル向けの供給余力が縮小している。
Appleは調達先の分散を図り、中国のCXMTとの交渉に動いた。量を背景に値引きを求めたが、CXMTはサムスン・SKハイニックスと同等以上の価格を提示して拒否した。ファーウェイやシャオミが先に生産枠を押さえていたことが、CXMTに交渉力を与えていた。
この件は米上院議員の注意も引いており、7月29日にAppleに対して中国メモリメーカーからの調達計画に関する書簡が送られている。
発表まで6週間
iPhone 18シリーズの発表は9月に予定されている。残り6週間を切った。
2025年末 N2量産開始 Appleとして初のN2プロセス製造チップ 2026年Q2 在庫日数87日に増加 前四半期比+7日。N2立ち上げが主因 7月29日 米上院議員がAppleに書簡 中国メモリメーカーからの調達計画に回答を要請 8月上旬 約10億ドル分の在庫滞留が報道 CXMT交渉拒否。DRAMが届かずパッケージング停滞 9月 iPhone 18発表予定 iPhone Ultra・iPhone 18・iPhone 18 Pro |
組立工程は中国でBYDとフォックスコンが担う。しかしWMCMパッケージが揃わなければ、組立業者がロジックボードを仕上げる作業に入れない。立ち上げの時間が短くなるほど、発売初期の供給リスクが高まる。
Appleはこの世代(iPhone Ultra、iPhone 18、iPhone 18 Pro)の生涯生産台数を約2億台と組立業者に伝えているという。そのうちiPhone Ultraは10%未満で、価格は2,000ドルを超えるとされる。残りはProと通常モデルがほぼ半々だ。
関係者の間では、初動の需要には対応できる見通しだが、品不足が長引けばオンラインの配送待ちが伸び、店頭在庫が早期に枯渇する恐れがあるとされている。
N2の製造は動いている。WMCMの生産基盤も整いつつある。欠けているのはDRAMだけだ。だがその「だけ」が、世界で最も精密な供給網の全体を止めている。