学校のWi-Fi不調、犯人は工事現場のクレーン
K-12(米国の初等・中等教育)の一貫校で、導入したばかりのWi-Fiが特定エリアだけ繋がらなくなる。Windowsノートだけが繋がらない不思議な症状、真犯人は校舎の外にいた。2.4GHz帯をめぐる実話だ。
K-12(米国の初等・中等教育)の一貫校で、導入したばかりのWi-Fiが特定エリアだけ繋がらなくなる。Windowsノートだけが繋がらない不思議な症状、真犯人は校舎の外にいた。2.4GHz帯をめぐる実話だ。
新しいWi-Fiが、なぜか一部だけ機能しない
英メディアThe Registerの読者投稿コラム「On Call」に、ある学校のIT支援マネージャーの体験談が寄せられた。仮名は「ハロルド(Harold)」。勤務先はK-12の学校で、5年生から12年生までの生徒全員にノートPCを配る、いわゆる1人1台環境を整えたばかりだった。元記事の注釈によればこの5年生は日本の小学4年生相当にあたる。
その学校では、新学期に合わせてWi-Fi設備を刷新したばかりだった。はじめの数週間は順調に動いていたらしい。ところが、ある時期から校舎の一角でノートPCが繋がらなくなる、あるいは極端に遅くなる、という報告が上がり始めた。
興味深いのは症状がWindows機だけに出ていたことだ。Macは問題なく動いている。ここでハロルドは仮説を立てた。MacはWi-Fiで5GHz帯を優先的に使う。Windows機は2.4GHz帯に寄りやすい。つまり障害は2.4GHz帯のどこかで起きている、と。
切り分けは正しかった。が、そこから先が動かない。
スペクトラムアナライザが映し出したもの
社内の手札が尽きたので、Wi-Fiベンダーの技術者を呼んだ。持ち込まれたのは電波の利用状況を可視化する測定器、スペクトラムアナライザだ。
しかし前回のOn Call記事のテーマでもあった「テクニシャンのオーラ(technician aura、技術者が来ると不思議と症状が出なくなる現象)」は今回発動しなかった。教師たちが「また繋がらない」と報告してくる。画面を見たハロルドと技術者は息を呑んだ。
2.4GHz帯の全チャネルが、非常に強い信号で一面に塗り潰されていた。
チャネルのどれか1つを潰すのではない。2.4GHz帯の全域をまるごと覆い尽くす、とんでもなく幅の広い強信号。これが何なのか、二人とも見当がつかなかった。
ちなみに2.4GHz帯は、Wi-FiだけでなくBluetooth、電子レンジ、工業用リモコン、アマチュア無線まで同居するISM(Industrial, Scientific, Medical)バンドと呼ばれる帯域だ。日本では「汚れた周波数帯」とも呼ばれるほど混み合う領域で、しかも互いに干渉しないチャネルは実質3つしか取れない。
休み時間のバルコニーで、原因が目に入った
謎解きは場所を変えて進んだ。昼休みの子どもたちの喧騒を避けて、ハロルドと技術者は静かなバルコニーに移動した。そこからの眺めが全てを解決する。
校舎の一角で新しい建物の工事が進んでいた。問題が発生するのは、ちょうどその工事現場の隣のエリアだ。そして、建材を吊り上げる1台のクレーンと、胸に大きな無線コントローラーを抱えたオペレーターがいた。
なぜ、ここまで強い電波なのか
クレーンの無線リモコンは、2.4GHz帯を最大許容出力で全帯域にわたって使っていた。理由は至極単純で、安全のためだ。
オペレーターが「止まれ」「動け」の信号をクレーンに送ったとき、他の無線機器に邪魔されて届かなかった、では済まされない。
人命と財産が関わる操作信号は、何があっても届かなければならない。だから周囲の電波を力ずくで押しのけることが仕様として組み込まれている。通信プロトコルの世界観では行儀が悪いが、安全工学の世界観では正しい判断だ。
実際、建材の搬入でクレーンが稼働するたびにWi-Fiは崩壊し、作業が終わると回復した。辻褄は合った。
安全のためにデザインされた強力な信号が、別のシステムの全機能を一時停止させる。2.4GHz帯という共有地で起こりうる、もっともありふれた衝突の一例だ。
解決策は「逃げる」こと
ハロルドが取った対応は、工事期間中はWindowsノートPCを強制的に5GHz帯に寄せる、というものだった。戦うのではなく別の帯域に退避する。クレーンの運用を学校が変えさせるわけにもいかないのだから、これが最適解だ。
この話が面白いのは、2.4GHz帯の誰でも使える設計思想がもたらす帰結をそのまま映していることだ。家庭のルーター、ワイヤレスマウス、電子レンジ、そして人命を預かる工業機器までが、同じ帯域で肩を寄せ合っている。普段はそれで問題が起きないのは、ほとんどの機器が控えめに電波を出しているから、にすぎない。
安全第一の設計が、善意の加害者になる
クレーンのリモコンを責めることはできない。あの設計は正しい。むしろ「5GHz帯に逃げる選択肢」をWi-Fiに用意してくれている現代の規格に感謝すべき場面かもしれない。ちなみにWi-Fi 6E以降は6GHz帯も使えるので、この手のトラブルから距離を置きやすくなっている。
ただ、2.4GHzオンリーの古い機器(IoTセンサー、スマートホーム機器、格安Bluetoothガジェット類)を業務で使っている現場では、同じ話がいつ起きてもおかしくない。障害の原因はネットワーク機器の外側にある場合がある。ときに、それは窓の外でブンブン動いているクレーンのレバーだったりする。
Wi-Fiが突然不調になったら、建物の周囲を歩いてみる価値はありそうだ。原因はルーターの設定画面ではなく、意外な場所の空を漂っているのかもしれない。
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