タイ国家AIの中核企業がNVIDIAチップ密輸の経由地、最終顧客にアリババも

3月にSupermicro共同創業者ら3人を起訴した米司法省の起訴状には、二つの空欄があった。25億ドル相当のNVIDIA AIサーバーを中国に流したとされる東南アジアのペーパー会社「Company-1」の正体と、最終的にチップを受け取った中国企業の名前である。

タイ国家AIの中核企業がNVIDIAチップ密輸の経由地、最終顧客にアリババも
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3月にSupermicro共同創業者ら3人を起訴した米司法省の起訴状には、二つの空欄があった。25億ドル相当のNVIDIA AIサーバーを中国に流したとされる東南アジアのペーパー会社「Company-1」の正体と、最終的にチップを受け取った中国企業の名前である。

5月8日、Bloombergがこの空欄を埋めた。Company-1はバンコク拠点のOBON Corp.であり、最終顧客の一つはアリババだったと、同事案に詳しい関係者の話として報じている。

OBONはタイの国家AI戦略の中核に位置する企業であり、ここに事案の地政学的な重みが加わった。

「Company-1」の正体はタイ・ソブリンAIの当事者

Bloombergの報道によれば、OBON Corp.はタイのソブリンクラウド「Siam AI」を立ち上げた企業だ。Siam AIはタイ初のNVIDIA Cloud Partner認定を獲得し、2024年12月にバンコクで開催されたソブリンAI関連イベントには、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOが登壇している。

OBONとSiam AIは法人としては別だが、人脈と起源で密接に絡み合う。少なくとも2024年5月までSiam AIのCEOであるラタナポン・ウォンナパチャント氏はOBONのCEOも兼任していた。同氏はタイの元首相タクシン・チナワット氏の甥にあたる。

ラタナポン氏は電話取材で「Siam AIを立ち上げる際にOBONを離れたため、OBONに対する米当局の疑いについてはコメントできない」と回答した。「Siam AIについてのみ答えるが、当社はこの件に関与していない」と続けている。Siam AIは記事公開後の土曜日に追加声明を出し、米国の輸出規制を完全に遵守していると述べた上で、OBONとオフィスを共有していないとも明言した。

タイ政府の報道官はコメントを控えている。

米国はこれまでに3度、半導体のタイ向け輸出規制を計画または検討した経緯がある。そのうち1件は密輸対策に焦点を絞った草案だったが、いずれも実施には至らなかった。

アリババは関与を全面否定

Bloombergによれば、OBONに販売された25億ドル分のサーバーの一部は中国のアリババに流れたという。

アリババはこれを真っ向から否定している。同社の広報担当者はコメントで「アリババはSupermicro、OBON、起訴状で言及された可能性のある第三者ブローカーのいずれとも取引関係がない」と述べた。「密輸とされる活動に関与しておらず、当社のデータセンターでは禁輸対象のNVIDIAチップを使用したことも、現在使用していることもない」と強調している。

NVIDIAの広報担当者はロイターに対して、エコシステムパートナーには全面的なコンプライアンスを期待していると述べ、米政府との連携を継続する方針を示した。

起訴状自体はOBONとアリババの社名を直接挙げていない。米当局は両社への公式な疑いを表明していない。

3月の起訴状が描いた手口

3月19日に米ニューヨーク南部地区連邦検察が起訴した3名は、Supermicro共同創業者のイー・シャン・「ウォリー」・リャオ氏(71)、台湾オフィスのジェネラルマネージャーであるルイ・ツァン・「スティーブン」・チャン氏、契約業者のティン・ウェイ・「ウィリー」・サン氏である。3人とも輸出管理改革法違反の共謀、米国からの物品密輸、米国を欺く共謀の各罪で起訴された。

リャオ氏とサン氏は3月19日に逮捕され、両名とも無罪を主張している。チャン氏は依然として逃亡中だ。リャオ氏は3月にSupermicro取締役を辞任し、現在は同社の役職をすべて退いている。

起訴内容によれば、被告らは2024年から2025年にかけて、米国で組み立てた特定のGPUを搭載した高性能AIサーバーを、台湾のSupermicro拠点経由でCompany-1(OBON)に納入。Company-1は無地の箱に詰め替えた上で、第三者ブローカーを介して中国に転送したとされる。

総額は25億ドル相当で、うち5億1,000万ドルは2025年4月下旬から5月中旬の短期間に集中している。トランプ政権が世界向けAIチップ輸出の枠組みを発表した直後で、その枠組みが施行される前に駆け込み輸送した形だ。なお、この枠組みは施行前に撤回された。

起訴状はまた、Supermicroの内部監査と米商務省産業安全保障局(BIS)の検査を欺くため、ダミーサーバーが用意されたことも記している。倉庫にダミー筐体を並べ、ヘアドライヤーでシリアル番号のステッカーを貼り替える作業が監視カメラに記録されていた。

Supermicroの「11番目の優良顧客」

3月の起訴状でCompany-1は、Supermicroの11番目に収益性の高い顧客と記述されていた。同社は2024年6月までの四半期にCompany-1から約1億ドルの売上を計上している。

販売の急増を異常と判断したSupermicroのコンプライアンス部門は、2024年10月に出荷を一時停止し監査を実施した。OBONのAIサーバー輸入量も同時期に急減しており、Big Trade Dataの輸入記録と動きが整合する。

その後、OBONの輸入は2025年に再び拡大し、4〜5月に急上昇した。Supermicroは2025年4月にも一時的に出荷を止めたが、すぐに再開している。8月の再監査では被告のサン氏がダミーサーバーを倉庫に並べて準備し、Company-1がSupermicroの監査担当者にオフサイトの接待を提供したと起訴状は指摘する。

監査の数日後、米商務省BISがCompany-1向けの全出荷停止を要請した。この要請は3月の起訴時点でも有効だった。

NVIDIAのデューデリジェンスへの問い

OBONの関与疑惑は、タイの新興AI戦略への打撃にとどまらず、ワシントンで東南アジア向けチップ販売規制を求める声を再燃させる可能性がある。

注視すべきは、OBONがタイのソブリンAI戦略の表玄関であるSiam AIと不可分の関係にあった点だ。NVIDIAは同じ2024年にSiam AIを公式Cloud Partnerに認定し、フアン氏自身がイベントに登壇した。その親会社にあたる存在が、同時期に大規模な迂回輸出の中継地点として機能していた疑いが持ち上がっている。

NVIDIAは正規のライセンスに基づいて販売しており、迂回行為は下流で起きた事象と位置づけている。ただ、国家AI戦略のパートナー企業を巻き込むスキームが摘発された以上、エコシステム全体の管理責任は一社単独で済む話ではなくなった。

ロイターが4月30日に報じたところによれば、NVIDIAの最新世代Blackwell GPUを8基搭載したB300サーバーは、中国の闇市場で約100万ドル(約7000万元)で取引されている。米国の正規価格約55万ドルに対しほぼ倍。米国の出荷価格との差額が、ブローカーやフォワーダーを動かす燃料になっている。

構造の問題は変わっていない

H200の対中販売は2025年12月にトランプ大統領が承認方針を表明し、2026年1月にBISが正式な輸出規則として施行した。NVIDIAなど米半導体企業の中国向け売上には25%の関税が課される。中国側もアリババを含む3社にH200輸入を承認したが、両政府の条件交渉が続き、本格出荷はまだ進んでいない。輸出管理の枠組みは緩和と厳格化の間で揺れ動いている。

そのなかで、25億ドル規模の迂回輸出の経由地が、NVIDIAが公式パートナーシップを結ぶ国の国家AI戦略の中核と重なっていた事実は重い。輸出規制の強度をいくら上げても、規制対象国との需給ギャップが大きいほど迂回のインセンティブも大きくなる。Supermicroの個別事案を超えて、東南アジアのAI拠点と中国の需要、そしてNVIDIAのパートナー認定プロセスがどう接続するのかという、もっと上位の設計が問われている。

3月の起訴状で空欄だった2つの名前が埋まったことで、輸出管理が抱える構造的な脆弱性が、より具体的な輪郭で見えてきた。


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