台湾検察が半導体密輸で初摘発、業者3人を勾留

台湾検察が半導体密輸で初摘発、業者3人を勾留

台湾の基隆地方検察署が、NVIDIA高性能チップ搭載のSupermicro製AIサーバーを中国・香港・マカオへ密輸した疑いで業者3人を勾留した。台湾としては初の本格的な半導体密輸取り締まりで、通過点としての黙認が終わろうとしている。


12箇所を一斉捜索、勾留決定まで48時間

台湾の基隆地方検察署は5月20日、海巡署偵防分署基隆査緝隊を指揮し、被疑者の自宅や関連企業など12箇所を同時に家宅捜索した。対象は游・王・陳の3姓の情報業者代表で、いずれもSupermicroが製造する高性能AIサーバーを台湾国内で調達し、書類を偽造して中国・香港・マカオへ輸出していた疑いがある。

3人は同日中に身柄を拘束された。検察官は徹夜で取り調べを行い、5月21日未明に偽造公文書行使罪・業務上虚偽記載文書罪の容疑で勾留請求を出した。基隆地方裁判所は同日午後、3人の接見禁止付き勾留を決定している。

押収された証拠は大量で、捜査は経済部国際貿易署にも飛び火した。検察は3人が懲治走私条例(密輸取り締まり法)に抵触しているかも調査するよう要請している。

台湾検察は今回の摘発について「米国の捜査とは無関係に立件した」と表明しているが、両事件の関連は今後の調査で明らかにするとしている。

50台超、約28億円の規模

押収サーバーは50台あまり、市場価値は新台湾ドルで5億6,000万元(約28億円)を超える。1台あたりの単価は1,000万元(約5,000万円)を超える計算で、最新世代のAIサーバーがいかに高額化しているかが浮かぶ。

検察によれば、3人は「調包・改標」(中身のすり替えと型番ラベルの書き換え)で偽造書類を作り、税関に虚偽申告して輸出していた。米国が中国・香港・マカオへの全面禁輸品に指定している戦略物資であることを知りながら、利益を狙って実行した疑いだ。

すでに一部のサーバーは中国・香港・マカオに渡っていることが初期調査で判明している。50台のうち何台が実際に運ばれたか、最終顧客は誰かは、現時点で公表されていない。

3月の米司法省起訴とは別事件

今回の3人と、米国の事件は別だ。今年3月、米司法省はSupermicro共同創業者のウォリー・リャウ(Wally Liaw)、台湾オフィスの営業マネージャーであるスティーブン・チャン(Steven Chang)、契約業者のウィリー・サン(Willy Sun)の3人を、25億ドル(約3,970億円)規模の対中AIサーバー密輸で起訴した。

今回の台湾の3人は、これとは別の人物だ。基隆地検は「米国の捜査とは無関係に立件した」と明言している。Supermicro製のAIサーバーが台湾を経由して中国に流れている──共通点はこの構図だけで、被疑者は重ならない。

米国が一方的に域外執行で台湾の業者を逮捕する事態を避けるため、台湾自身が先に動いた、という見方も成り立つ。

ただし両案が完全に独立しているとも言い切れない。米国はSupermicro幹部の起訴の中で、台湾を経由してタイ・香港経由で中国に流れる輸送ルートを明らかにしていた。台湾の検察が摘発に動いた背景には、米国が指摘した同じ抜け道を、別の業者がより小規模で運用していたという見方が成立する。

米司法省3月起訴と台湾基隆地検5月摘発の比較
項目 米司法省
(3月)
台湾基隆地検
(5月)
発生時期 2026年3月 2026年5月
捜査主体 米司法省 台湾基隆
地方検察署
対象人物 Supermicro
共同創業者ら3人
台湾の情報
業者3人
対象規模 約25億ドル サーバー50台超
約28億円
適用罪名 輸出管理改革法
違反共謀ほか
偽造公文書
行使罪ほか
身柄処分 2人逮捕
1人逃亡
3人とも
勾留決定
※基隆地検は「米国の捜査とは無関係に立件」と明言。両事件の関連は今後の調査で判明する見込み

「沈黙する通過点」から「執行国」へ

今回の摘発で動いた法律は、米国の輸出規制ではなく台湾自身の地元の刑法だ。偽造公文書行使罪と業務上虚偽記載文書罪は、台湾の国内法。台湾は自国の法律で、自国の業者を起訴している。

これまで密輸ネットワークが台湾を中継点として選んできたのは、地元の取り締まりが緩く、書類さえ通れば商品は港を抜けられると踏んでいたからだ。Supermicro幹部の起訴では、米国で組み立てたサーバーを台湾で陸揚げし、東南アジアを経由して中国に送るスキームが明らかになっていた。台湾は意図的にではないにせよ、結果として通過点になっていた。

海巡署偵防分署基隆査緝隊と検察が共同で動いたという布陣は、今後も同種の捜査が継続することを示唆している。

今回、その通過点が初めて自国の法律で動いた。台湾の検察によれば、台湾としては初の本格的な半導体密輸取り締まりだ。頼清徳総統の政権は米国から、AIサプライチェーンの輸出管理を強化するよう圧力を受けている。今回の摘発は、その圧力に対する台湾の最初の具体的な応答とも読める。

NVIDIAは別の場所で戦っている

タイミングが重なった。同じ週、NVIDIAは2027年度第1四半期決算を公表し、過去最高の売上を記録している。総売上は816億ドル(約12兆9,700億円)で、前年同期比85%増。データセンター部門は752億ドル(約11兆9,500億円)で同92%増だ。

決算資料の脚注には、注目すべき一文が含まれていた。中国向けデータセンターHopper製品の出荷は第1四半期にゼロ。前年同期の46億ドルから完全に消失した。NVIDIAは第2四半期のガイダンスでも、中国データセンターコンピュート売上はゼロを前提に910億ドルの売上を予想している。

NVIDIA決算:中国向けHopperはゼロになり、全体は約2倍に
Q1 FY2026(前年同期)
Q1 FY2027(当四半期)
※単位は十億ドル。NVIDIA Q1 FY2027 CFOコメンタリーより

NVIDIAは中国市場を計画から外した。それでも売上が85%伸びている。中国がなくても会社は機能する、と数字が示している。

その一方で、闇市場では別の動きが進んでいる。中国国内では、輸出規制対象のNVIDIA GPUを修理する地下工場が稼働しており、月500個以上のペースで使用済みカードから半導体を剥がして再利用する業者もあるとの報道が出ている。規制で塞いだ穴の周りに、別ルートが組み上がっていく。

残るのは「執行国」が増えるかどうか

台湾、シンガポール、タイ。AIサーバーの中継点として名前が挙がってきた国は、それぞれ別の動きを始めている。米国の司法管轄が及ばない場所で、各国の地元法が密輸ネットワークの末端を絡め取り始めた。今回の台湾の摘発は、その流れの一部だ。

ただし50台という規模は、米国の起訴が示した25億ドルのスキームと比べれば小さい。今回の3人を摘発しても、より大きな密輸網の中枢には届かない可能性が高い。検察が今後、より上位の関与者にたどり着けるかは、押収された証拠と関係証人の証言にかかっている。

通過点としての沈黙が終わった。検察が次に何をやるかで、今回の摘発の重さが決まる。


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