CPU不足はメモリより深刻、Intel 18Aが命運を握る
CPUがメモリより手に入らない。そんな倒錯した事態が、いま世界のPCサプライチェーンで起きている。DigiTimesの業界筋を引用したリーカーJukan05の投稿が、この数週間の空気を一変させた。
CPUがメモリより手に入らない。そんな倒錯した事態が、いま世界のPCサプライチェーンで起きている。DigiTimesの業界筋を引用したリーカーJukan05の投稿が、この数週間の空気を一変させた。
「メモリは買える、CPUが買えない」という倒錯
ここ数カ月、サプライチェーンを揺さぶってきた主役はメモリだった。DDR5もNANDも供給が細り、PCメーカーは原材料コストの高騰に悲鳴を上げていた。ところが、今朝の業界向けレポートは順序を入れ替えた。
CPUのほうが深刻だ、と。
Jukan05が4月17日に投稿した内容(DigiTimesの記事を引いたもの)によれば、「メモリは値段を積めば買える。だがCPUはプレミアムを払っても棚に無い」という状況が、Intelを中心に広がっている。しかもこれは家庭向けPCだけの話ではなく、産業用PC(IPC)までもが巻き込まれている。
メモリショックに慣れた耳には、奇妙に響く話だ。DRAMやNANDは、カネを積めば買えるだけまだ「市場」として機能している。CPUは市場が止まっている。
15%の値上げは原因ではなく結果
AMDとIntelは、直近で自社プロセッサの価格を10〜15%引き上げた。一見すると「コスト転嫁」「市況値上げ」の常套句で片づきそうだが、Jukan05の投稿は冷静に釘を刺している。ノートPCサプライチェーン関係者の見立てでは、いま恐れられているのは追加の値上げではない。
価格ではなく、製品の入手可能性そのものが制約になっている。
この一文の重みは大きい。値段の問題なら、マーケティングでどうにかなる。在庫が物理的に存在しない問題は、どうにもならない。
AMDのRyzen 9 9950X3D2 Dual EditionはMSRPが899ドル(約14万3,000円)と発表されたが、Amazon USでは早くも999ドル(約15万9,000円)で予約が始まった。MSRPを100ドル上回る。日本では過去のRyzen 9 9950X3Dが1ドル約190円換算で販売された経緯から、18万円前後になる見込みだ。Intelも、Arrow Lakeの後継として位置づけたCore Ultra 200S PlusシリーズがMSRPを超える価格で棚に並んでいる。
希望小売価格が意味を失った市場。そこで起きるのは、品薄を見越した「取れる時に取る」という防衛的な価格設定だ。
最も深く刺さっているのは、意外にもRaptor Lake
今回の報告で耳を疑うのが、影響が最も深刻な製品ラインだ。2022年に発売されたRaptor Lake、つまり第13世代・第14世代Coreである。
このファミリーは、もはや主役ではない。しかし産業用・業務用のPCベンダーはいまだにこのファミリーを設計の土台にしており、入れ替えが容易ではない。リードタイムが機能していない、とサプライチェーン筋は述べている。
リードタイムはもう意味がない。待っても納品が保証されないからだ。
これは、半導体業界で「不足」を語るときに使う表現の中でも、かなり重い部類だ。通常、不足と言っても「8週間待ち」「16週間待ち」と時間で語られる。時間軸が壊れたときに何が起きるかは、2020〜2021年の自動車業界が実地で証明した。
特に産業用PC(IPC)市場ではIntelが約9割のシェアを握っているとされ、代替が事実上存在しない。ここで供給が止まると、工場の自動化ラインやPOS端末、医療機器といった「動いていて当然」のインフラに波及する。
18Aの歩留まり、という唯一の出口
DigiTimesの業界筋が「希望の光」として指し示しているのは、Intelの最先端プロセス、18Aの歩留まり改善だけだ。
18Aは、Intelが威信をかけて立ち上げたゲートオールアラウンド(RibbonFET)と裏面給電(PowerVia)を初めて量産に載せるプロセスである。CES 2026で発表されたCore Ultra Series 3(Panther Lake)の製造基盤であり、年末に控えるNova Lakeデスクトップ向けでも使われる予定になっている。
ただし、2025年10〜12月期決算説明会でCFOのデイビッド・ジンズナー(David Zinsner)が認めたとおり、歩留まりは「供給を満たすには足りているが、適正なマージンを出すには足りていない」水準にとどまる。業界標準レベルに達するのは2027年、とされている。CEOのリップ=ブー・タン(Lip-Bu Tan)自身も「自分が望む水準にはまだ達していない」と明言した。
つまり、Intelは現時点で「歩留まりが低いまま増産する」という劇薬を避けている。赤字を垂れ流してでも市場を満たすやり方は、旧経営陣が取った選択であり、タン体制はそれを拒んだ形だ。
経営判断としては筋が通る。しかし、PCを作りたいOEMからすれば、いま棚が空いている理由がまさにそこにある。
Intelのサプライ制約は、18A歩留まりが改善するにつれ徐々に和らぐと見込まれる。
裏を返せば、歩留まりが目標に届かない限り、棚は埋まらない。出口は一本道で、かつ狭い。
AMDも逃げ切れない、TSMCへの集中
「ならばAMDに流れればいい」という単純な解決は、今回は通じない。
AMDのCPUは全量がTSMCで作られている。一方のIntelも、Panther Lakeは18A本体に加えて複数のモジュールをTSMCで製造している。Wildcat LakeもIntel 18AとTSMCのミックスだ。
つまり、先端ロジックの需給は最終的にTSMCの生産能力という一点に収斂する。そのTSMCは、AIアクセラレータ、GPU、サーバーCPU、スマートフォンSoCの需要を同時に抱え込んで青息吐息だ。PC向けCPUはその中で優先順位が必ずしも高くない。
Jukan05の投稿は、この構造を端的に言い当てている。CPUの枯渇は、GPU・基板・パッシブ部品・メモリと並ぶ、AI需要が全工程を圧迫した結果だ、と。一社の戦略の失敗ではなく、産業全体の構造的な転換点として見るべき案件である。
読者にとって、これは何を意味するか
実用的な話をしよう。
自作PCを組もうとしている人にとって、当面のあいだCPUの希望小売価格は「参考値」でしかない。Amazon USでのRyzen 9 9950X3D2のように、MSRPから10%前後の上乗せは常態化する可能性が高い。日本市場も為替の逆風(1ドル159円台)と重なって、実売価格の体感はさらに厳しい。
業務用PCの更新を控えている企業は、見積もり時点の価格と納期を鵜呑みにしないほうがいい。Raptor Lakeベースの既存機種は特に要注意で、代替プラットフォームへの移行計画をいまのうちに検討しておく価値がある。
そして、Intel株やAMD株を追いかけている投資家にとって、この局面は単純な「需要旺盛=業績好調」の話ではない。売上は立つが、歩留まりが低ければ利益は伸びない。18Aのマージン改善が2026年末まで待たされるというジンズナーの発言は、この半年の四半期決算を見るときの重要な補助線になる。
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2022年のRaptor Lakeが、2026年の半導体産業で最も貴重な部品のひとつになる。4年前、誰がこんな未来を予想しただろうか。技術の進歩も供給の制約も、直線的には進まない。
歩留まりというたった一つの数字が、世界中のPCの棚を左右する。
参照元
- Jukan05 / X - DigiTimes CPU shortage report
- DigiTimes - CPU shortage more acute than memory; industry awaits Intel 18A yield improvement
- Intel Q4 2025 Earnings Release (SEC Form 8-K)
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