ZLUDA v6公開。3度目の資金喪失と32bit PhysX対応

ZLUDA v6公開。3度目の資金喪失と32bit PhysX対応

ZLUDAがバージョン6をリリースした。NVIDIA以外のGPUでCUDAアプリケーションを無改変で動かす互換レイヤーが、32bit PhysXのプリアルファ対応、Blender動作、Windows対応の大幅改善を引っ提げて戻ってきた。同時に、プロジェクトを支えていた匿名スポンサーからの資金が途絶え、開発者アンジェイ・ヤニク(Andrzej Janik)氏の個人プロジェクトに回帰したことも発表された。ZLUDAが商業的な後ろ盾を失うのは、Intel、AMD、匿名スポンサーに続いて3度目になる。


核心の判断: 今回の新しい情報は、資金喪失と32bit PhysX対応の両方だが、記事の芯は「企業に繰り返し切られながら、切られるたびに技術的な成果を出して戻ってくるプロジェクトの構造」にある。

AMD GPUでPhysXが動く

ZLUDAバージョン6の目玉は、32bit PhysXへのプリアルファ対応だ。

PhysXは2008年にNVIDIAが買収した物理演算エンジンで、以降はNVIDIA GPU専用のアクセラレーション機能として提供されてきた。2000年代後半から2010年代前半にかけて多くのPCゲームに採用され、布や破片の物理シミュレーション、炎のエフェクトなど、NVIDIA GPUでなければ有効にできない演出だった。AMD GPUのユーザーは、同じゲームを買っても画面が寂しかった。

ZLUDAのPhysX対応で、その制約が崩れた。2010年発売のマフィアIIの内蔵ベンチマークで、全設定を最大にしてPhysXを有効にした結果がブログに掲載された。ZLUDA無効時の平均フレームレートは26.2fps(ランクD)。ZLUDA有効時は80.2fps(ランクA)。約3倍の差がつく。PhysXの処理がCPUフォールバックからGPU実行に切り替わった結果だ。

ただし制約はある。流体シミュレーションに不具合が残っていること、SteamゲームへのZLUDA注入方法が未整備であること、開発者本人の環境でしかテストされていないこと。ヤニク氏自身がプルリクエストのマージを待つよう案内しており、現時点ではソースコードを自分でビルドできるユーザー向けだ。PCGamingWikiにPhysX対応ゲームのリストがあるが、32bit PhysXと64bit GameWorksは別の技術であり、すべてのリスト掲載ゲームで動くわけではない。

テクスチャとBlender、そしてWindows

PhysXと同時に進んだのがテクスチャサポートの追加だ。カバーするユースケースは限定的だが、PhysXとBlenderが必要とする範囲は満たしている。この対応により、BlenderがZLUDA上で動作するようになった。AMD GPUでBlenderのCUDAバックエンドを使える。

Windows対応の改善も大きい。ZLUDAはこれまでLinuxのサポートが先行していた。理由は明快で、LinuxではROCmをインストールすればドライバ、パフォーマンスライブラリ、モニタリングツールが一括で揃う。WindowsではAMDのGPUドライバ(Adrenalin)に含まれるランタイムだけが入り、cuBLASやcuDNNに相当するパフォーマンスライブラリは別途導入が必要だった。公式サポートのROCm SDKは古く、ナイトリービルドは新しいが不安定。ユーザーは自力で探すしかなかった。

ZLUDAバージョン6では、不足しているライブラリを検出して導入方法を案内する機能が加わった。Windowsローダー zluda.exe も改良され、パフォーマンスライブラリの読み込みを自動で処理する。ROCmの混乱を解消はしないが、ユーザーが次に何をすべきかは分かるようになった。

PyTorchからの恩返し

もうひとつ、見落としやすいが重要な変更がある。PyTorchユーザーからのトレース提供に基づくML対応の改善だ。新しいCUDA命令の追加が7件、コンパイラのバグ修正が7件、パフォーマンスライブラリの改善が6件。合わせて20件のプルリクエストが、PyTorchをZLUDA上で走らせようとしたユーザーの報告から生まれた。

ZLUDAの開発モデルがここに見える。ユーザーがCUDAアプリケーションをZLUDA経由で実行し、うまく動かないときにトレースログを送る。ヤニク氏がそのトレースを分析し、未実装の命令やコンパイラの不具合を特定して修正する。全件は追いきれないが、できるだけ多く見ているとヤニク氏はブログに書いている。

3度目の資金喪失

2020年、ヤニク氏はIntel在籍中にZLUDAを開始した。CUDAをIntel GPU上で動かすという構想だった。Intelは公式採用を検討したが、CUDA互換に事業上の意味はないと判断し見送った。2022年にIntelを退社したヤニク氏はAMDと契約し、ZLUDAをAMD GPU向けに作り替える作業を2年間続けた。AMDも同じ結論に至り、2024年に資金を停止。ヤニク氏がAMDの了承を得て公開したコードは、半年後にAMDの法務部門から撤去を求められた。メールでの承認は法的拘束力がないという理由だった。

ヤニク氏はAMD以前のコードベースに立ち返り、ゼロから再構築を宣言した。EU在住であり、リバースエンジニアリングに対する法的保護はある。2024年後半、匿名のスポンサーが現れ、AI/MLワークロード対応を軸にした開発が再開された。

その匿名スポンサーからの資金も、約3ヶ月前に途絶えた。

ヤニク氏はブログで、ZLUDAは週末プロジェクトに戻ったと書いている。優先順位は「商業的に意味があること」から「自分が楽しいと思うこと」に変わった。PhysX対応、テクスチャサポート、Windows対応の改善はその産物だ。更新頻度は四半期ごとよりも遅くなる可能性がある。

ZLUDAの経緯
2020年
Intel GPU向けに開始
ヤニク氏がIntel在籍中に開発。Intelは公式採用を見送り
2022年
AMD契約・AMD GPU対応
Intel退社後にAMDと契約。HIP/ROCm上でCUDA互換を2年間開発
2024年前半
AMD資金停止・コード撤去
資金停止後にコードを公開するも、AMD法務が撤去を要求
2024年後半
匿名スポンサー獲得
AMD以前のコードから再構築。AI/MLワークロード対応に転換
2026年3月頃
3度目の資金喪失
匿名スポンサー撤退。週末プロジェクトに回帰
2026年6月
バージョン6リリース
32bit PhysX対応、Blender動作、Windows対応改善

企業が見限り、個人が残す

IntelとAMDは、いずれもCUDA互換に事業上の価値はないと判断した。匿名スポンサーが撤退した理由は明かされていない。3者とも、ZLUDAへの投資を続けなかった。

CUDAの互換レイヤーやポーティングツールはZLUDAだけではない。AMDのHIPIFYはソースコード変換、英国Spectral ComputeのSCALEはクリーンルーム実装によるネイティブコンパイル、中国ムーアスレッドのMusifyはMUSAプラットフォーム向けの移植ツールキット。それぞれが異なるアプローチでCUDA依存からの脱却を図っている。

CUDA互換ツールの比較
ツール入力方式
ZLUDACUDAバイナリAMD GPU上で直接実行
HIPIFYCUDAソースコードHIP/ROCm向けに変換
SCALECUDAソースコードAMD GPU向けにコンパイル
MusifyCUDAソースコードMUSA向けに変換
ZLUDAのみバイナリ入力。ソースコードの変換・再コンパイルが不要

ZLUDAの特異性は、バイナリ互換を追求する点にある。ソースコードの変換もコンパイルも不要で、CUDAアプリケーションをそのまま動かす。エンドユーザーにとっては最も敷居が低い。開発者向けのツールではなく、ユーザーの手に渡る道具だ。

3度資金を失って、3度復活した。復活するたびにスコープは変わるが、技術は残る。PhysX対応は以前のロードマップに存在しなかった機能であり、商業資金下では実現しなかった。週末プロジェクトに戻ったからこそ、開発者が「やりたいこと」を優先できた結果でもある。

ZLUDAが今後も続くかどうかは、ヤニク氏がこの作業を楽しいと思い続けるかどうかにかかっている。企業の判断ではなく、個人の動機だけがプロジェクトを支えている。

参照元 ZLUDA update Q1&Q2 2026 - back to the roots

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