Amazon、20億ドルのデータセンターを職員1人の署名で建設開始
ニンニクの産地として知られるカリフォルニア州の小さな町で、住民が気づいたときには建設が始まっていた。合法だった。1981年に書かれたゾーニング規定が、それを許した。
ニンニクの産地として知られるカリフォルニア州の小さな町で、住民が気づいたときには建設が始まっていた。合法だった。1981年に書かれたゾーニング規定が、それを許した。
1981年のルールが通した20億ドルの施設
カリフォルニア州ギルロイ。サンノゼの南西約50km、人口約6万人。毎年夏のガーリック・フェスティバルで知られる小さな町だ。
2026年5月、その町の東端に重機が現れた。Amazonのデータセンターだった。
敷地は56エーカー(約22.7ヘクタール)の農地。ウォルマートのスーパーセンターとギルロイ・プレミアム・アウトレットに挟まれた区画で、AWSが2020年に3130万ドルで取得していた。
第1期の建屋だけで約2万平方メートル、最大電力需要は49メガワット。一般家庭に換算すると約2万戸分に相当する。25台の2.5メガワット級ディーゼル非常用発電機を備え、総投資額は約20億ドル。第2期を含めた完成時には2棟合計で約4万平方メートルを超える。
この規模の施設が、市議会の投票も計画委員会の審査も経ずに承認された。
根拠になったのは、ギルロイ市のM2(一般工業)ゾーニング条例だ。1981年に制定されたこの規定は、データセンターを「データ処理施設」として許可用途に分類している。許可用途であれば、コミュニティ開発局長が職員レベルで建築・敷地審査許可を出すだけで足りる。公聴会は不要。住民への通知義務もない。
2025年7月3日、コミュニティ開発局長のシャロン・ゴーイ(Sharon Goei)氏がその許可に署名した。選挙で選ばれた市議は誰も票を投じていない。
インターネットが存在しなかった時代のルール
1981年。IBMが初の個人向けコンピュータを発売した年だ。インターネットの商用利用はまだ10年以上先にある。「データ処理施設」という文言は、当時の倉庫型の計算機室を想定した表現だった。
45年後、同じ文言が49メガワットの電力を消費する巨大データセンターを通す根拠になっている。
AWSの経済開発担当副社長ロジャー・ウェーナー(Roger Wehner)氏はウォール・ストリート・ジャーナルの取材に、長い承認プロセスを経ていたと説明した。公告期間やパブリックコメントの受付期間も設けられていたという。事実、AWSと市の間では許認可をめぐる意見の相違もあり、承認は少なくとも1年遅れたとされる。
だが住民のロサ・ロドリゲス(Rosa Rodriguez)氏が干ばつ地域への影響について意見を述べようとしたとき、パブリックコメントの期間は2024年にすでに終了していた。全米でデータセンターが大きな社会問題になる前のことだ。
市長の論理と住民の感覚
ギルロイ市長のグレッグ・ボッツォ(Greg Bozzo)氏は、過去にも同規模の工業施設が反対なく承認されてきたと指摘した。
「食品配送センターがギルロイに来たときは誰も気にしなかった。なのにデータセンターが来ると、関与の機会がなかったことが問題になる」
ボッツォ市長自身も、住民の認識が変わったことは認めている。「我々にはギルロイでのやり方を変える機会がある。時代に適応しなければならない」と述べた。
Amazonは税収の増加、建設期間中の雇用、消防車購入のための100万ドルの寄付を提示し、地元の非営利団体への助成金やガーリック・フェスティバルのスポンサーも行っている。
ただ、環境影響報告書に記された常用雇用は62人だ。建設が終われば、20億ドルの施設を動かすのに必要な人員はそれだけになる。
水と電力、そして帯水層
住民の懸念の中心は水だ。
施設はラガス帯水層の直上に位置する。この帯水層は、ギルロイとサンマーティン、モーガンヒルの3つのコミュニティにとって唯一の飲料水源だ。
カリフォルニア州の環境負荷評価ツールCalEnviroScreen 5.0では、周辺地域は環境負荷の80パーセンタイルに位置する不利益コミュニティに指定されている。住民の90%以上がラテン系だが、スペイン語での通知は行われなかった。
Amazonは第1期の上水使用量を1日約5480ガロン(約2万リットル)と説明し、ギルロイ全体の水消費量の0.1%未満だとしている。第2期完成時には1日約1万960ガロンに増える見通しだ。Amazonは廃水回収システムの建設を進めており、2030年までに上水への依存をほぼゼロにする計画を示している。
一方、地元の市民監視団体Americans for Transparencyは、AWSが地元メディアに寄稿した内容と環境影響報告書の数字が食い違っていると指摘した。AWSは年間使用量を「約400万ガロン、一般家庭36世帯分」としたが、認証済みの環境影響報告書には異なる数字が載っているという。
全米に広がるテンプレート
ギルロイが注目されるのは、それが例外ではなくテンプレートだからだ。
全米の多くの自治体が、1970〜80年代に制定された工業ゾーニング条例を持っている。倉庫や食品加工工場を想定して書かれた条文の多くが、データセンターを「工業施設」として自動的に許可する構造になっている。
計画委員会の審査も住民投票も経由しない。巨大テック企業にとっては、土地を買い、申請を出し、職員レベルの許可を待つだけで建設に入れる。
2026年に入ってからの3ヶ月間だけで、住民の反対により75件、総額1300億ドル相当のデータセンター計画が遅延または中止に追い込まれた。300を超える自治体がデータセンターの禁止またはモラトリアムを採択し、ニューヨーク州は7月に州単位でのモラトリアムに踏み切った。
7月18日には42州142か所で全米一斉の抗議行動が行われている。
各地の自治体が古いゾーニング条例の見直しに動くほど、巨大テック企業にとっては今が土地取得の最後の窓になる。AWSだけではない。Google、Microsoft、Metaも同じ仕組みを使える自治体を探している。
2020年 AWSが56エーカーの農地を取得 3130万ドルで土地を購入 2022年11月 環境影響評価を開始 CEQA手続き開始 2024年 パブリックコメント期間が終了 データセンターが社会問題化する前 2025年7月 職員1人の署名で承認 市議会投票なし。公聴会なし 2026年5月 建設開始 住民の大半は重機が来るまで知らなかった 2026年6月 住民100人超が市議会に詰めかける 条例改正を要求。採決は8月に先送り 2026年8月 条例改正の採決(予定) 第2期の建設許可はまだ出ていない |
ギルロイのこれから
ギルロイでは6月15日の市議会に100人以上の住民が詰めかけ、ゾーニング条例の改正を求めた。だが採決は8月に先送りされた。反対派団体の活動家は「これは主な要求ですらない。それでも市は足を引きずっている」と語った。
第2期の建設許可はまだ出ていない。住民が声を上げられる窓は、かろうじて開いている。
だが第1期はすでに建設中だ。ルールに従って、署名1つで通った。ルールは正しく機能した。そしてそのルールが正しく機能したことこそが、いま全米で書き換えを迫られている理由でもある。