英Capita、公務員年金の「6月末復旧」を守れず。退職者に届かぬ年金
英国公務員年金制度(CSPS)の運営を担うCapitaが、政府が課した6月30日の期限に間に合わない見通しだ。170万人の加入者を抱えるこの年金制度では、2025年12月の運営移管以来、支給遅延や個人情報漏洩が相次いでいる。公共商業サービス労組(PCS)は政府に対し、Capitaとの契約打ち切りと運営の内製化を要求した。
期限の意味が消えるとき
6月30日という日付には、重みがあるはずだった。
内閣府担当大臣のニック・トマス=サイモンズ(Nick Thomas-Symonds)氏が4月22日、下院で明言した。「6月末までに契約上のサービス水準を回復させる」。Capita側も、6月5日に会計委員会へ送った書簡で「6月末までの復旧計画に沿った軌道にある」と約束していた。
その期限まで2週間を切った6月16日、内閣府はPCSに対し、Capitaが期限を守れないと伝えた。PCSによれば、契約上のサービス水準を満たせないだけでなく、政府が送り込んだ約150人の復旧チームも6月以降の継続が必要になるという。
この期限自体、すでに妥協の産物だった。Capitaは当初、最も緊急性の高いケース(遺族年金・傷病退職)を2月末までに処理すると約束していた。4月の時点で、それらの優先ケースはまだ「積極的にエスカレーション対応中」だった。6月末の期限は、2月の失敗を受けて引き直した線にすぎない。その線すら越えられない。
40年勤めて、半年待たされる
元国防省職員のスティーブ・テシエ(Steve Tessier)氏の話が、この問題の本質を映している。
40年以上の公務員生活を終えて退職した同氏は、半年以上が経った今も年金を受け取れていない。「移管前の警告を知れば知るほど、誰かがリスクを承知で私の金と、何千人もの同僚の金で賭けに出たのではないかと思えてくる」と語っている。
テシエ氏の怒りには根拠がある。PCSの集計では、607人の下院議員が少なくとも1通の陳情メールを受け取り、合計3,134通を超えるメールが議員に届いた。
5月14日付の政府復旧報告書によれば、年金見積もり(退職者に支給額を提示する手続き)の未処理件数は依然として膨大だ。電話の平均待ち時間は46分に達する日もあった。3月30日には35分間にわたり138人分の年金データが他人に閲覧可能になるデータ漏洩も発生している。
退職して収入がゼロになった人が、自分の年金の「見積もり」すら受け取れない。これが半年続いている。
「AI導入」で何が変わったのか
Capitaの経営陣は、MicrosoftのAI「Copilot」をこの問題の切り札として打ち出してきた。2月の会計委員会で、Capita公共サービス部門のマネージングディレクターは「AIが問い合わせフォームを即座に読み取り、優先度の高いケースを自動で識別してワークキューに振り分ける」と説明した。「AIを中核に据えた英国最大級のサービスのひとつになる」とまで言い切った。
4か月経った結果がこれだ。契約上の水準は依然未達。期限は破られ、復旧チームの撤収すらできない。
AIの導入そのものが悪いという話ではない。だが、基本的なITインフラの準備が不十分なまま運営を引き受けた。その穴を後からAIで埋めようとしても、無理がある。会計委員会の報告は、Capitaがサイト立ち上げ時に DNSSEC(ドメイン認証によるなりすまし防止機能)すら実装していなかったと指摘した。土台が崩れた建物に最新のエレベーターを入れても、住めるようにはならない。
次のカードは政府の手にある
政府はすでにCapitaへの圧力を段階的に強めてきた。4月にはRoyal Mail法定年金スキームの契約を「複数のマイルストーン未達」を理由に打ち切った。5月末には、Capitaがほぼ受注を確定させていた5億6300万ポンド規模の省庁横断契約(Learning Frameworks 2.0)について、大臣が承認を拒否したと報じられている。政府はこの契約をキャンセルし、内製化に切り替えた。
公務員年金の契約については、トマス=サイモンズ氏は「すべての契約上の選択肢を維持している」と繰り返すにとどまる。内閣府の広報は「6月末時点で状況を評価する」とだけ述べた。
PCSのフラン・ヒースコート(Fran Heathcote)書記長は、Royal Mail契約の打ち切りを引き合いに出し、「請負業者が失敗すれば契約は打ち切れる。それは証明された。同じことをCSPSにも適用すべきだ」と主張している。
ただし、Royal Mail年金スキームの年間契約額は1000万ポンド未満だった。CSPSの7年契約は2億3900万ポンド。規模が違う。打ち切った場合、170万人の加入者の年金運営を誰がどう引き継ぐのかという問題が残る。2025年10月の会計委員会報告書は、移管時点でCapitaが達成していたマイルストーンは8つ中わずか1つだったと指摘した。内閣府はすでに960万ポンドの支払いを留保していた。それでも移管を止めなかった。
あの時点で止められなかった判断のツケが、いま退職者に回っている。
2025年10月 会計委員会が警告 マイルストーン達成は8つ中1つ。960万ポンド留保 2025年12月 Capita運営開始 ポータル不具合、ダミーテキスト残存で開始 2026年1月 HMRC復旧チーム投入 緊急復旧計画を発動。約150人を追加投入 2026年2月 最初の期限未達 緊急ケース2月末処理の約束を守れず。Copilot導入表明 2026年3月 データ漏洩 35分間にわたり138人分の年金データが他人に閲覧可能に 2026年4月 Royal Mail契約打切り 別の年金契約をマイルストーン未達で打切り。CSPS復旧を6月末に設定 2026年6月 6月末期限も未達の見通し 内閣府がPCSに「期限は守れない」と通告。復旧チームも継続 |
Capitaだけの問題ではない
この問題を「Capitaの失敗」だけで片付けるのは、半分しか見ていない。
前任のMyCSPのダンカン・ワトソン(Duncan Watson)CEOは会計委員会への書簡で、Capitaが12年間の運営経験を「十分に活用しなかった」こと、リハーサルが不十分だったことを指摘した。一方でCapita側は、引き継ぎ時に8万6000件の未処理案件と1万5000通の未読メール、2000万件のデータベースエラーが残されていたと主張している。MyCSP側はこの数字に異議を唱えている。
どちらの言い分が正しいにせよ、引き継ぎのリスクを評価し、準備不足なら止める。その権限を持っていたのは内閣府だ。2025年7月の時点でMyCSPがCapitaの準備不足を警告していたことは、複数の証言が裏付けている。10月の会計委員会報告は「Capitaが間に合わない現実的なリスクがある」と明記した。それでも12月1日のスケジュールは動かなかった。
なぜ止めなかったのか。止められなかったのか。その問いに、内閣府はまだ答えていない。
参照元
英国内閣府 - CSPS復旧計画更新(2026年5月14日)
他参照
PCS - Capita to miss 30 June deadline on Civil Service Pensions
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