英CMA、Microsoftを正式調査 業務ソフト独占を精査

英CMA、Microsoftを正式調査 業務ソフト独占を精査

英国の競争・市場庁(CMA)がMicrosoftの業務ソフトウェアに照準を定めた。9か月の調査を経て、2027年2月までに「戦略的市場地位(SMS)」の指定可否が決まる。Microsoftにとって、英国は次の戦場になる。


4番目の標的はMicrosoft

英国CMAは5月14日、Microsoftの業務ソフトウェアエコシステムに対するSMS調査を正式に開始した。2025年1月にデジタル市場競争法(DMCC法)が施行されてから、SMS調査の対象となるのはこれで4社目になる。

これまでに指定されてきたのは、Google検索、Appleモバイルプラットフォーム、Googleモバイルの3件で、いずれも2025年10月にSMS指定が確定した。米国テック大手のうち、Google、Appleと続き、今度はMicrosoftの番が回ってきた。

CMAが特に問題視しているのは、Microsoftの業務ソフト製品群を組み合わせる際に競合製品との連携が制限され、UK顧客の選択肢が狭まっているのではないか、という点だ。バンドル販売・相互運用性・既定設定。これらが原因で他社製品への乗り換えが阻害されているなら、Microsoftが市場で持つ影響力を抑えるための介入が必要になる。

サラ・カーデル(Sarah Cardell)CMA最高責任者は声明で「英国経済の屋台骨を支えるのが業務ソフトウェアだ」と切り出した。

ビジネスソフトウェアは、英国経済が機能するうえでの基盤だ。中小企業から重要な公共サービスやインフラに至るまで、英国の数十万の顧客がMicrosoftのシステムに依存している。だからこそ、こうしたサービスが良い成果を生み出していることを確認することが重要になる。

数十万社の顧客、1,500万人の商用ユーザー。これだけの規模を抱えるエコシステムだからこそ、健全な競争環境が成立しているかを問う意義はある。

英国CMAが指定対象とした主要テック企業(DMCC法施行後)
Google Apple Microsoft
対象 検索
モバイルOS
モバイルOS 業務ソフト
エコシステム
開始 2025年1月 2025年1月 2026年5月
期限 2025年10月 2025年10月 2027年2月
状況 指定済 指定済 調査中
※ Googleは検索とモバイルOSの2件で個別に指定。CMAのSMS調査は全4件のうち、Microsoftが最新の対象

クラウド調査の「やり残し」を回収する

今回のSMS調査には、もう一つの顔がある。CMAが2025年7月に最終結論を出した「クラウドサービス市場調査」の積み残しを処理する意味合いだ。

そのクラウド調査では、MicrosoftとAmazon Web Services(AWS)がインフラ市場でそれぞれ30〜40%のシェアを握り、独自に強い市場支配力を持つと結論付けられた。調査チームは両社のSMS指定を勧告したが、CMA理事会は3月にこれを見送る判断を下した。両社が自主的にegress料金(クラウド移行時の課金)の引き下げや相互運用性改善に動いたことが評価された形だ。

ただし、Microsoftのソフトウェアライセンス慣行については別問題として残った。Windows ServerやSQL ServerをAzure以外のクラウド(Google CloudやAWS)で動かそうとすると、ライセンス費用が大幅に高くなるという指摘である。Googleは過去、レガシーワークロードを他社クラウドに移行する際にAzureの最大5倍のコストがかかると主張していた。

SMSに指定されれば、Microsoftのクラウド領域におけるライセンス慣行に関する残された懸念に対処できるようになり、AIが業務ソフトに組み込まれていく中で公平な競争条件を確保することもできるようになる。

カーデル氏は3月時点でこう述べていた。クラウドの正面からは押し切れなかった論点を、業務ソフトの調査として再度持ち出した形になる。


AI統合という新しい争点

調査範囲には、もう一つ大きなテーマが組み込まれている。Copilotを軸にしたAI統合だ。

CMAはOfficeやTeamsの内部設定が他社のAIツールを排除する方向に働いていないかを精査する。CopilotがOffice製品群の初期既定として組み込まれることで、競合AI企業がMicrosoftの業務ソフトに統合する機会を失っているのではないか。AIサービスが業務ソフトに急速に取り込まれている今、初期設定の偏りやAPI制限が競合の参入障壁になる可能性は無視できない。

このタイミングで調査を開始した理由について、カーデル氏は別の場で「今こそ行動するときだ」と語っている。クラウド市場で固まった寡占構造が、AIサービスの新興市場でも繰り返されることを警戒しているとみられる。

EUがAI規制法(EU AI Act)で手続き的アプローチを取っているのに対し、CMAはSMSという独自の規制ツールを先に投入する道を選んだ。実利重視で、対象を絞り込んだ規制介入を素早く展開できるのが、新法の強みでもある。

Microsoftの広報担当者は「CMAの業務ソフトウェア市場のレビューを促進するため、迅速かつ建設的に協力することにコミットしている」と短く反応した。

調査範囲は広い。生産性ソフト、デスクトップ・サーバーOS、データベース管理システム、セキュリティソフト。Microsoftの製品ポートフォリオの中核がほぼすべて含まれている。

2027年2月までに決着

調査期間は9か月。CMAは顧客、競合企業、新興テック企業からの意見を集め、Microsoftからも証拠を収集したうえで、2027年2月までにSMS指定の可否を判断する。意見募集の期限は2026年6月4日午後11時55分に設定されている。

SMSに指定されたとしても、それ自体は不正行為の認定ではない。ただし指定後は、CMAが個別の規制措置を長大な市場調査プロセスを経ずに発動できるようになる。製品バンドルの解除義務、相互運用性の確保義務、デフォルト設定の変更義務。打てる手は多い。

SMS指定は不正行為の存在を前提としない。指定された場合、CMAは関連する法的要件を満たすことを条件に、競争を支援するための的を絞った比例的な介入を検討できるようになる。

英国は欧州連合(EU)の外側にいる。Brexit後の独自規制路線として、米国テック大手にEUのデジタル市場法(DMA)とは別の角度から圧力をかけ続ける。Google、Appleに続き、Microsoftが同じ列に並ぶ。

CMAクラウド調査から業務ソフト調査までの流れ
  • 2025年
    1月
    DMCC法が施行 英国デジタル市場競争法が発効し、CMAがSMS指定権限を獲得
  • 2025年
    7月
    クラウド市場調査が結論 MicrosoftとAWSにそれぞれ30〜40%のシェアと強い市場支配力を認定
  • 2026年
    3月
    クラウドSMS指定を見送り 両社のegress料金引き下げと相互運用性改善を評価し、業務ソフトの調査を予告
  • 2026年
    5月14日
    業務ソフトSMS調査が正式開始現在地 Windows、Office、Teams、Copilotを射程に9か月の精査を開始
  • 2026年
    6月4日
    意見募集の締切 顧客・競合・新興テック企業からの証拠提出を受付
  • 2027年
    2月
    SMS指定可否の判断期限 指定後は行動要件・競争促進的介入を発動可能に
※ DMCC法=Digital Markets, Competition and Consumers Act 2024。CMA公式発表に基づく

Copilotの導入が試験段階から本格採用へと移行しつつある今、英国の判断は他国の競争当局の動きも左右しかねない。決断の期限は、来年2月に設定された。


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