英Capita年金移管で公務員が抗議

英Capita年金移管で公務員が抗議

英国公務員年金の運営が泥沼化している。受託したCapitaの年次株主総会(AGM)に合わせ、労組が来週ロンドンで抗議行動を計画。受給遅延、ポータルの不具合、データ漏洩が次々と積み上がる。


来週月曜、Capita本社前に集まる退職者たち

5月18日午前9時45分、ロンドンのシェルドン・スクエア。CapitaのAGM会場の前に、公共商業サービス労組(PCS)のメンバーが集まる。プラカードを手にした退職者の一群が、自分たちの年金を取り戻すために声を上げる、というのが今回の構図だ。

労組の要求はひとつ。「政府はCapitaから契約を取り上げよ」。

PCSは、Capitaの運営によって「数千人の退職公務員が年金を受け取れない状態に置かれている」と訴える。配偶者を亡くした人が遺族給付を待たされ、これから定年を迎える人は自分の老後収入が本当に届くのか不安を抱えたまま、月日だけが過ぎていく。

退職してから何ヶ月も経つのに、振り込まれるはずのお金が来ない。配偶者を亡くした人が遺族給付を待ち続ける。そんな話が、英国公務員年金の現場で常態化している。

2億3900万ポンドの契約、走り出した瞬間から崩れた

そもそも、なぜこんな状況になったのか。

時計の針を半年ほど戻すと、2025年12月1日、Capitaは英国公務員年金制度(CSPS)の運営業務を引き受けた。契約規模は2億3900万ポンド(約510億円)。対象は約150万人の現役公務員と元公務員。英国でも最大級の公的年金スキームのひとつだ。

ところが、移管はほとんど離陸と同時に失速した。

新しいポータルにログインしてみると、認証が通らない。リンクをクリックしても飛ばない。ページの一部が作りかけのまま放置されている。利用者からの不満は、サービス開始直後から相次いだ。

英下院議員の追及で明らかになったのは、システムが機能が揃わないまま稼働していたことだ。前運営会社であるMyCSPから引き継いだ案件の量と複雑さに、新システムは追いつけなかった。

英国公務員年金CSPS、Capita運営開始から抗議行動まで
  • 2025年10月 ICOがCapitaに別件のサイバー侵害で1400万ポンドの制裁金。約660万人分の個人データ流出が背景。
  • 2025年12月1日 CapitaがCSPS運営を引き継ぎ。MyCSPから86000件のバックログを継承。
  • 2026年1月 新ポータルでログイン不能・リンク切れ等の苦情が続出。Capitaはユーザーに苦情の自制を要請。
  • 2026年2月 バックログ解消のためMicrosoft Copilotの導入を発表。
  • 2026年4月 ポータルの欠陥で138人分の年金データが約35分間、他人に露出。ICOが調査開始。
  • 2026年5月18日 予定 ロンドンのシェルドン・スクエア、CapitaのAGM会場前でPCS労組が抗議行動。政府に契約解除を要求。

8500人の待ち人、86000件の積み残し

数字で見ると、移管の傷の深さがわかる。

CSPS問題の被害規模(2026年5月時点)
項目 規模 内容
契約規模 2.39億ポンド 10年契約。約510億円
対象加入者 約150万人 現役・元公務員
支給遅延の影響 約8500人 新規退職者で発生
引き継ぎ時のバックログ 86000件 MyCSPから継承
多くは期限超過
データ漏洩の影響 138人 2026年4月、約35分間の露出
ICO制裁金(別件) 1400万ポンド 2025年10月。約30億円
660万人分流出
※ ICO制裁金はCSPSとは別の2023年サイバー侵害事案に対するもの。

PCSによれば、遅延の影響を受けたのは新たに退職した公務員およそ8500人。一方のCapitaは、「MyCSPから引き継いだ時点で86000件のバックログがあった」と説明している。受け取った時点で、多くの案件はすでに期限を過ぎていたという主張だ。

どちらの言い分が正しいかは、退職者の財布にとってあまり関係がない。届くべきお金が届かない。残るのはそれだけだ。

Capitaは2026年2月、年金バックログをほぐすためにMicrosoftのCopilotを導入すると発表した。1月にはユーザーに対し「ポータルの不具合はチャットボットが直すので、苦情はしばらく控えてほしい」と要請したことも報じられている。AIで殴り返そうとしているのかもしれないが、その間も電話の向こうで「いつ振り込まれるのか」と尋ね続ける人がいる。


35分間だけ開いた窓、138人の個人情報

問題は遅配だけで止まらなかった。

2026年4月、Capitaはシステムの欠陥によって約35分間、138人分の年金データが他のメンバーに見える状態になっていたことを認めた。露出した情報は他人の個人情報。35分という時間の短さは、データ漏洩の文脈ではあまり慰めにならない。

35分間、138人。漏洩規模としては大きくない。しかし「年金を任せた相手が、その年金情報を漏らした」という事実は、規模の問題ではない。

英国の情報コミッショナー事務局(ICO)はすでに調査に入った。労組はもともと不信感を募らせていたところに、さらに薪をくべられた格好になった。

ちなみにCapitaは別件でも傷を負っている。2023年に発生した大規模なサイバー侵害を巡り、ICOは2025年10月、Capita plcとCapita Pension Solutions Limitedに合わせて1400万ポンドの制裁金(約30億円)を科した。約660万人分の個人データが流出したとされ、健康情報や犯罪歴といった機微情報を含む情報漏洩だった。

年金で揺れる前から、データの扱いに重大な前科がある会社だ。


「公共サービスを民間に渡すこと自体が間違いだった」

PCSの書記長フラン・ヒースコート(Fran Heathcote)は、この一連の経緯を以前から「茶番(fiasco)」と表現してきた。失敗が積み重なるたびに、重要な公共サービスを外部委託に出すべきではない、という労組側の主張は強まっている。

Capita側の説明は変わらない。引き継ぎ時点のバックログと、想定を超えた案件の複雑さが原因だ、と。政府関係者も「稼働後のパフォーマンスは期待を大きく下回った」と認めてはいる。だが、契約はまだCapitaの手にある。

来週月曜の朝、シェルドン・スクエアで掲げられるプラカードは、契約を引きはがすための最初の一歩を象徴している。Capitaのほうは取材に対しコメントを拒否した。

公的年金は、国家と退職者のあいだに結ばれた長期の約束だ。その約束を、株主総会の前で誰かが声を上げて取り戻そうとしている。

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