Xが違法ヘイト審査48時間に短縮、Ofcomと合意

Xが違法ヘイト審査48時間に短縮、Ofcomと合意

イーロン・マスクのXが、英国の通信規制当局Ofcomに対し、違法なヘイトコンテンツとテロ関連投稿の審査時間を大幅に短縮することを約束した。背景には反ユダヤ系のテロ事件が積み重なっている。


24時間平均、48時間以内に85%

Ofcomは2026年5月15日、Xから提出された新たなユーザー保護のコミットメントを受諾した。これまでXは、ヘイトや暴力扇動の通報に対する対応の遅さで再三批判されてきた。今回の合意はその応答プロセスに数値目標を設けるものだ。

公約の中身は3つある。第一に、英国の通報窓口に届いた違法テロ・ヘイトコンテンツを 平均24時間以内 に審査・評価する。第二に、バックストップとして、通報の85%を最大48時間以内に処理する。第三に、英国の指定テロ組織が運営、あるいはその代理として運営しているとXが判断したアカウントは、英国内からのアクセスを遮断する。

通報システムの改善も合意に含まれた。市民団体からは「通報したのに反応がない」「届いているのかすら分からない」と苦情が相次いでいた。Xは外部の専門家と連携し、レポーティングの仕組み自体を作り直す姿勢を示している。

X has made the following public commitments to better protect UK users from illegal hate and terror content, which Ofcom has today accepted.(Xは英国ユーザーを違法なヘイト・テロコンテンツから保護するため、以下の公的なコミットメントを行った。Ofcomは本日これを受諾した)

実績データは四半期ごとに、12か月間にわたってOfcomへ提出される。約束が紙の上で終わらないよう、規制側が継続的に検証する仕組みが組み込まれた。


引き金はマンチェスターとGolders Green

この合意は突然出てきたものではない。2025年10月2日、マンチェスター北部のヒートンパーク・ヘブライ会堂シナゴーグで、ヨム・キプール(贖罪の日)の礼拝中にテロ襲撃が起きた。続いて2026年4月29日、北ロンドンのゴールダーズ・グリーンでもユダヤ系コミュニティを狙った襲撃が発生。さらにロンドン市内のユダヤ系施設で放火未遂が相次いだ。

事件のたびに、Xでは追悼や連帯のメッセージに対して大量の反ユダヤ的なリプライが付き、暴力を称賛する投稿や「攻撃はモサドの自作自演」といった陰謀論が拡散した。デジタルヘイト対策センター(CCDH)の調査では、ゴールダーズ・グリーン事件後にXで集まった反ユダヤ的な投稿のうち、明確にプラットフォーム規約違反と見られる130件が分析時点で削除されずに残っていた。

私たちは、英国最大級のソーシャルメディア上で、テロ関連コンテンツや違法なヘイトスピーチが残り続けているという証拠を持っている。プラットフォームに対処を求め、断固とした行動を期待する。

これはOfcomのオンラインセーフティ部門責任者、オリバー・グリフィス(Oliver Griffiths)の声明だ。「前進ではあるが、やるべきことは多い」と慎重に釘を刺している。

2025年12月、Ofcomは大手SNS各社が違法ヘイト・テロコンテンツへの対応体制を整えているかを調べる コンプライアンス調査 を開始していた。Xに対する今回の合意は、この調査プログラムから出た最初の具体的な成果になる。

英国の対X規制動向、襲撃から合意まで
2025年10月
マンチェスター・シナゴーグ襲撃
ヨム・キプール礼拝中、ヒートンパーク・ヘブライ会堂で襲撃。死傷者が出る
2025年12月
Ofcomがコンプライアンス調査開始
大手SNS各社の違法ヘイト・テロコンテンツへの対応体制を精査する調査プログラムを発動
2026年2月
Grokによる不適切画像生成が露見
XのAIチャットボットGrokが、同意のない人物の性的画像を生成していたと報じられる
2026年4月
ゴールダーズ・グリーン刺傷事件
北ロンドンでユダヤ系コミュニティを狙った襲撃。ロンドンでは放火未遂も相次ぐ
2026年5月15日
Ofcom、Xからのコミットメント受諾
違法ヘイト・テロ通報を平均24時間以内に審査、85%を48時間以内に処理。指定テロ組織アカウントは英国内アクセス遮断。四半期ごとに実績データ提出

Grok調査は別途継続

注目すべきは、Ofcomが今回の合意とは別に、AIチャットボットGrokに関する調査を継続している点だ。2026年2月、Grokが同意のない人物の性的画像を生成していたことが報じられて以降、規制側はXのAIツールがそもそも違法コンテンツ対策の義務を果たしているのかを精査している。

我々のGrokに関する調査は継続中で、企業の違法コンテンツへの対処義務と、それを実行する仕組みを精査している。

つまり今回の「合意」はヘイト・テロ通報の処理速度という限定された範囲の話であり、Xが英国の オンライン安全法 に全面的に準拠しているとOfcomが認めたわけではない。規制側はあえて「Xは現在準拠していない」とも「準拠している」とも明言せず、 判断を将来に残した形 だ。

Xに対するOfcom規制の2系統
論点 ヘイト・テロ通報 Grok調査
対象 違法ヘイト・テロ投稿の
処理速度
AIチャットボットGrokによる
不適切画像生成
現在の
ステータス
合意成立
(2026年5月15日)
調査継続中
取り決め
の中身
平均24時間以内に審査、
85%を48時間以内に処理、
四半期ごとに実績データ提出
違法コンテンツへの
対処義務と仕組みを精査中、
結論はまだ出ていない
オンライン
安全法との
関係
同法に基づく義務の一部に
応える形
同法の全面準拠判断は
将来に持ち越し

評価する側もまだ警戒している

合意を歓迎する団体の声にも、温度差がある。反ユダヤ主義政策トラスト(Antisemitism Policy Trust)のダニー・ストーン(Danny Stone)代表は「良いスタートだ」としつつ、Xが依然としてプラットフォーム上の人種差別への対処に「多くの点で失敗している」と評価した。

Tech Against Terrorismのアダム・ハドリー(Adam Hadley)代表は「英国社会の一部」という言葉でXを位置づけ、市民空間を安全に保つ責任があると述べた。ムスリム系反差別団体Tell MAMAのイマン・アッタ(Iman Atta)代表は声明で、コミットメントは前進だが「試されるのは約束ではなく、実際に届けられたものだ」と書いた。

CCDHのイムラン・アフメド(Imran Ahmed)CEOは、合意自体は前年のヒートンパーク・シナゴーグ襲撃以降の継続的なキャンペーンの結果だと位置づけつつ、ゴールダーズ・グリーン攻撃後の反ユダヤ的投稿が削除されないまま残っている現状を指摘した。誰もが、約束の言葉ではなく、3か月後・6か月後・1年後の数字を見て判断するつもりでいる。


通報の山を開けるかどうか

Xはマスクによる買収以降、コンテンツモデレーションのチームを大幅に縮小してきた。UCバークレーの調査では、買収後の週次ヘイトスピーチ率が買収前比で 50%増加 したとされる。今回の合意は、その縮小路線とは逆方向への動きだ。

ただし、平均24時間という数字は「英国ユーザー」「指定された通報窓口を経由した通報」に限定される。一般ユーザーがアプリ内の通常の通報ボタンから報告した投稿が、同じスピードで処理される保証はない。市民団体が抱えてきた「通報したのに何も起きない」という根本的な不信感を、 数値目標がどこまで埋められるかは未知数 だ。

四半期報告という監視の網は、約束が空文化することを防ぐ最低限の装置ではある。とはいえ、規制当局が数字を受け取ることと、その数字が現実のユーザー体験を変えることの間には、依然として距離がある。最初の四半期報告が出るのは今夏になる。


参照元

他参照

関連記事

この記事を共有する

Read more