仏検察、マスク氏とXを司法捜査へ 5者を被疑者に

パリ検察庁が5月7日、イーロン・マスク氏とXに対する捜査を司法捜査(information judiciaire)へ格上げした。アルゴリズム操作、児童性虐待画像、グロックによるホロコースト否定。フランス司法は逃げない構えだ。

仏検察、マスク氏とXを司法捜査へ 5者を被疑者に
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パリ検察庁が5月7日、イーロン・マスク氏とXに対する捜査を司法捜査(information judiciaire)へ格上げした。アルゴリズム操作、児童性虐待画像、グロックによるホロコースト否定。フランス司法は逃げない構えだ。


一企業ではなく、5者を被疑者へ

パリ検察庁は5月7日(現地時間)、捜査を司法捜査へ格上げすると発表した。これにより、捜査の主導権は検察から予審判事(investigating judges)に移る。フランスの刑事手続きにおける重大事件の合図だ。

検察が予審判事に対し正式捜査(formal investigation)下に置くよう求めた対象は5つ。X.AI Holdings Corp、X Corp、xAI、マスク氏個人、そして元X CEOのリンダ・ヤッカリーノ氏(Linda Yaccarino、2023年5月〜2025年7月在任)だ。法人と個人を同時に狙う5者同時の構成は、責任を「会社の判断」と「経営者の関与」の両方で問う仕組みになっている。

パリ検察ロール・ベキュオー検事正(Laure Beccuau)は、捜査の目的について「プラットフォームに対し、フランス領内で適用される法令の遵守を確保することが重要」(It is important for this purpose to obtain compliance from platforms with the legislation applying on national territory)と述べた。

正式捜査下に置く方法は2段階だ。本人を呼び出して手続きする、または出頭を拒めば判事が逮捕状を発行する。逮捕状の発行は、それ自体が正式捜査開始と同等の効力を持つ。

マスク氏は4月20日の任意聴取に出頭しなかった。次は逮捕状の発行が視野に入る段階にある。

捜査対象は何か。「政治的攻撃」では片付かない罪状

報じられている疑惑は5つの軸に分かれる。

アルゴリズム操作によるフランス政治への干渉

2025年1月12日、フランス当局に2件の告発が同時に寄せられた。1件目は与党「再生」(Renaissance、マクロン大統領が所属する中道政党)のエリック・ボトレル議員(Éric Bothorel)。2件目は公的サイバーセキュリティ機関の局長による告発で、「Xのアルゴリズムに大きな変更が加えられ、ヘイト、レイシスト、反LGBT、ホモフォビックな政治コンテンツがあふれ、フランスの民主的議論を歪めようとしている」と指摘した。Xのアルゴリズムが意図的に偏向し、自動データ処理システムの正常な機能を歪めた疑いが、捜査の出発点になっている。

児童性的虐待画像の頒布への共謀

これがもっとも深刻だ。検察は「未成年者のペドポルノ性質の画像の所持の共謀」、および「未成年者のポルノ画像の組織的な頒布、提供、利用可能化」を列挙した。

同意なきディープフェイク画像の生成・拡散

Xに統合されたAIチャットボット「グロック(Grok)」が、ユーザーの指示に応じて女性や子どもの性的画像を大量生成した問題だ。

ホロコースト否定

グロックがフランス語の投稿で、アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所のガス室について「チフス予防のためのチクロンBによる消毒用に設計された」と書き込んだ事案が報じられた。フランスでは人道に対する罪の否認は刑事犯罪にあたる。

違法な個人データ収集と通信秘密の侵害

適切なセキュリティ対策のないデータ処理、自動システムからの組織的な不正データ抽出、電子通信の秘密侵害も対象に含まれる。

ここまで罪状が並ぶと、マスク氏が繰り返してきた「政治的攻撃だ」という主張だけで全部を説明するのは無理がある。


マスク氏の不出頭が、状況を悪化させた

時系列を整理すると、捜査の質的転換点が見えてくる。

捜査が始まったのは2025年1月だ。アルゴリズム操作の告発を受け、パリ検察庁サイバー犯罪部門が予備捜査を開始した。2026年2月3日、フランス警察とEuropolが合同でXのパリ事務所を家宅捜索。マスク氏はこれを「政治的攻撃」(political attack)と呼び、Xの公式声明は「パリ検察庁による濫用的な法執行劇」(abusive act of law enforcement theater)と非難した。

2月の家宅捜索時、Xは公式声明で「パリ検察庁が米国にいるXの上級経営陣に圧力をかけるため、本件捜査の対象ではない仏現地法人と従業員を標的にした」と非難した。マスク氏自身もXで「This is a political attack.(これは政治的攻撃だ)」と投稿している。

その後、マスク氏とヤッカリーノ氏には4月20日の任意聴取の召喚状が送られた。両者とも不出頭。米司法省(DOJ)は4月18日、フランス当局への協力拒否の書簡を送付した。書簡は捜査を「米国憲法修正第1条に反する形で、思想と意見の自由な表現の場を規制しようとする試み」と評した。

Wall Street Journalが書簡を最初に報じた直後、xAIの担当者は「我々のCEOと従業員数名を聴取に応じさせようとするパリの検察官による試みを退けたことについて、司法省に感謝する」と述べている。

ここまでは「米国が自国企業を守る」という構図に見える。だが、この構図には穴がある。


DOJの拒否には、自国法での説明も難しい

DOJが持ち出した「修正第1条」は、報道機関や個人の表現の自由を政府の規制から守る条項だ。検察が問うているのは、(1)アルゴリズムによる組織的な政治干渉、(2)児童性的虐待画像の頒布、(3)同意なきディープフェイクポルノの生成だ。

このうち、児童性的虐待画像と同意なき性的ディープフェイクは、米国でも刑事犯罪である。修正第1条はこれらを保護しない。アルゴリズム操作についても、それが意図的な情報操作にあたる場合は表現の自由の保護対象とは見なされにくい。

つまりDOJの書簡は、捜査全体を「表現の自由問題」として一括りにし、刑事犯罪部分の協力までまとめて拒否した格好になっている。これは法的な反論というよりも、政治的な意思表示に近い。

パリ検察庁は4月18日、DOJの拒否報道を受けて声明を出した。書簡の存在自体は把握していないとしつつ、捜査の司法的独立性を強調した。

検察庁にとって、米国の協力拒否は捜査を止める理由にはならない。物的証拠の多くは2月の家宅捜索で押収済みだ。グロックが生成した投稿も、ホロコースト否定も、ディープフェイク画像も、Xというプラットフォーム上で公開された。証拠は最初から公の場にある。


「政治的捜査」論の脆さ

マスク氏は7月にも改めて、フランス検察を「政治的に動機づけられた刑事捜査」(politically motivated criminal investigation)を仕掛けていると非難した。この主張には、いくつか整合しない事実がある。

捜査開始は2025年1月で、トランプ政権発足前だ。告発したボトレル氏は極右政党ではなくマクロン与党の議員。捜査を主導するベキュオー検事正は政治任用ではなく、フランスの司法独立を象徴する立場にある。捜査は司法捜査へ格上げされ、予審判事に主導権が移った。フランスの予審判事は政府からの独立性が制度的に保証されている。

それでも「政治的攻撃」と呼ぶなら、フランスの司法制度全体が政治的だ、という主張になってしまう。これは説得力に欠ける。

フランス側の対応にも疑問はある。X単体ではなく、xAIとSpaceX関連法人にまで捜査範囲が広がった点は、企業構造を理由にした包括捜査と見られかねない。2026年2月、SpaceXは全株式交換でxAIを買収し、両社は評価額1兆2500億ドル(約196兆円)の統合体になった。xAIはX買収後の親会社にあたるため、Xも同じ統合体の一部に組み込まれた格好だ。グロックの一部バージョンはテスラの電気自動車にも統合されている。捜査がどこまで広がるかは予断を許さない。

国際協調の波紋

X関連の調査はフランス1国にとどまらない。

カリフォルニア州司法長官事務所はxAIとグロックへの独自調査を進めている。英国情報コミッショナー事務所(ICO)も、グロックの個人データ処理について正式調査を開始した。EUは2025年、Xに対しヘイトスピーチ・偽情報対応の不備を理由に1億2000万ユーロの制裁金を科している。

パリ検察庁は3月、米司法省と米証券取引委員会(SEC)に対し、グロックが生成した性的ディープフェイクをめぐる騒動が「XとxAIの企業価値を人為的に押し上げる目的で意図的に演出された可能性」を指摘する書簡を送付した。検察庁はその時期について「SpaceXとxAIの合併新会社の2026年6月の上場を控え、X単体が明らかに勢いを失っていた局面」と記している。これは捜査の方向が「コンテンツモデレーションの不備」から市場操作の疑いへと拡張したことを意味する。

訴追対象が「アルゴリズム」「児童保護」「証券詐欺」と広がるたびに、Xを単一の表現の自由問題として擁護する論法は、その都度説得力を失っていく。

何が問われているのか

この捜査が突きつけているのは、AIプラットフォームの責任を誰が負うのかという問いだ。

グロックが生成したコンテンツは、ユーザーの指示と、Xに統合されたAIモデル、そしてアルゴリズムによる増幅の3要素で構成される。フランス検察は、その3要素すべてに対して経営側が責任を負うべきだとする立場をとった。マスク氏とxAIは、それは技術的に不可能で表現の自由に反するとする立場だ。

正解はおそらく中間にある。完全な事前検閲は不可能だが、CSAM(児童性的虐待資料)や同意なきディープフェイクポルノを生成しないようモデルを調整することは技術的に可能で、業界の他社では既に実装されている。

問題は、XとxAIがそれを「やらなかった」のか、「やる気がなかった」のか、「意図的に放置した」のかだ。

予審判事の手に渡った今、捜査はその区別に踏み込んでいく。任意聴取の段階は、もう過ぎている。


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