子どもSNS禁止、世界13ヶ国に拡大した4ヶ月
オーストラリアが世界で初めて16歳未満のSNS利用を全面禁止してから、わずか4ヶ月。欧州からアジアまで少なくとも13ヶ国が追随の動きを見せている。ドミノ倒しは止まらない。
オーストラリアが世界で初めて16歳未満のSNS利用を全面禁止してから、わずか4ヶ月。欧州からアジアまで少なくとも13ヶ国が追随の動きを見せている。ドミノ倒しは止まらない。
4ヶ月で13ヶ国、規制ドミノの実像
TechCrunchがまとめた各国動向を俯瞰すると、子どものSNS利用を国家レベルで排除する流れは、想像以上の速度で広がっている。2025年12月10日にオーストラリアが最初の一歩を踏み出した直後から、欧州・アジアの13ヶ国以上で立法・準備・検討の動きが同時多発している。
先陣を切ったオーストラリアは、アンソニー・アルバニージー首相のもと、Facebook、Instagram、Snapchat、Threads、TikTok、X、YouTube、Reddit、Twitch、Kickの10プラットフォームを対象に「16歳未満のアカウント所持そのものを違法化」する措置を導入した。違反した事業者には最大4950万豪ドル(約51億円)の罰金が科される。WhatsAppとYouTube Kidsは対象外だ。
アルバニージー首相は法律を「世界をリードするもの」と位置づけ、子どもを子どもらしくさせるためのものだと説明した。世論調査会社YouGovが2024年11月に実施した調査では、国民の77%が新法を支持しており、8月時点の61%から急上昇していた。
注目すべきは、責任を負うのがプラットフォームの運営企業である点。子どもや保護者は罰則の対象にならない。つまりこの法律は、使う側ではなく作る側に"子どもを排除せよ"と命じている。これは規制の本質的な転換点だ。従来の「保護者が監督する」モデルが破綻したことを、国家が公式に認めたと言える。
欧州の連鎖、1月から4月までに6ヶ国
欧州の動きは、オーストラリアの施行直後から加速した。時系列で並べるだけで、その密度がわかる。
2026年1月、フランスの国民議会(下院)が15歳未満のSNS利用を禁止する法案を116対23の賛成多数で可決。エマニュエル・マクロン大統領は9月の新学期までの施行を目指し、手続きを加速するよう政府に指示した。マクロン氏は「子どもたちの脳は売り物ではない」と強調し、米国のプラットフォームであれ中国のアルゴリズムであれ、子どもの感情が操作対象にされてはならないと訴えている。
2月3日、スペインのペドロ・サンチェス首相がドバイの国際会議で16歳未満禁止を発表。「ソーシャルメディアは依存、虐待、ポルノ、操作、暴力の場だ」と断言し、プラットフォーム企業の経営者個人にヘイト表現の責任を負わせる法整備までセットで提示した。
同じ2月には、スロベニアが15歳未満アクセス禁止の法案起草を公表。ポーランドでも与党が15歳未満禁止の法案作成に着手した。ドイツではフリードリヒ・メルツ首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)が当初「16歳未満」案を打ち出したが、2月21日の党大会で 14歳未満へ引き下げ る決議を採択している。連立相手の社会民主党(SPD)も支持に回った。
年齢設定が国ごとにバラつく理由
ここで浮かび上がる構造がひとつある。各国の設定年齢が14歳/15歳/16歳と揃っていないのだ。
オーストラリア・インドネシア・マレーシア・スペイン・英国検討案は16歳未満。フランス・デンマーク・ギリシャ・スロベニア・ポーランド・トルコは15歳未満。オーストリアとドイツ(CDU決議)は14歳未満。この差は、各国の法体系における「デジタル成人年齢」の解釈違いを反映している。
EUのデジタルサービス法(DSA)は加盟国ごとに年齢ラインを設定する余地を残しており、各国が自国の教育制度・法律用語・世論動向に合わせて独自に線引きしている。統一できていないということは、EU域内でも未合意ということでもある。ギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相は4月、自国の2027年1月施行を発表した際に「終着点ではない。EUにも同じ方向へ進むよう働きかける」と明言した。ドミノはまだ動いている最中だ。
アジアで起きたこと、東南アジア初の施行
欧州に先行して実際に施行に踏み切ったのが、実はインドネシアだった。
2026年3月28日、インドネシア政府は16歳未満の「高リスク」SNSアカウント保有を段階的に停止する規制を開始した。対象はYouTube、TikTok、Facebook、Instagram、Threads、X、Bigo Live、Robloxなど。メウティヤ・ハフィド通信・デジタル相は「子どもはポルノやネットいじめ、オンライン詐欺などに直面している」と理由を説明している。
影響する人口規模は約7000万人。朝日新聞の取材では、ジャカルタの高校1年が「禁止されたら仕方がない。友人とフットサルでもやる」と答えつつ、「勉強に役立つコンテンツもある」と口をとがらせる。規制の正しさと、生活の現実のズレが、若者の言葉にそのまま出ている。
Xは3月18日に「インドネシアで利用するには28日から16歳以上である必要がある」と公式に周知した。グローバル企業が国家規制に即応して国別の年齢ゲートを設置した。過去のSNS規制史でも異例のスピードだ。
マレーシアのファミ・ファジル通信相も4月、2026年6月にも16歳未満制限を開始すると発表。東南アジアの波は、欧州と連動して広がっている。
トルコの動き、意味合いはやや違う
トルコ議会は4月、15歳未満のSNSアクセス制限法案を可決した。レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の署名待ちだが、ここには他国と異なる文脈がある。
トルコ政府はこれまでも反政府運動の封じ込めにSNS規制を利用してきた前例がある。2025年のイスタンブル市長逮捕に伴う抗議デモでは、オンライン通信を広範に制限した。野党・共和人民党(CHP)は今回の法案を「子どもは禁止ではなく権利に基づく政策で守られるべき」と批判している。子ども保護の衣を纏った言論統制ツールではないのか、という疑いだ。同じ「15歳未満禁止」という言葉でも、政治文脈が違えば意味は変わる。
反対論、アムネスティが突きつけた指摘
規制一辺倒の流れに対して、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルのテクノロジー部門「Amnesty Tech」は「実効性のない応急処置であり、オンライン被害を防ぐことはできない」と批判している。
オンラインとオフラインの両方に生きる世代の現実と、禁止措置は噛み合っていない。禁止は若者を同じ危険にさらしたまま、それを地下に潜らせるだけだ。(Amnesty Techプログラムディレクター、ダミニ・サティジャ氏)
この批判には三つの論点が含まれる。
第一に、抜け穴の多さ。VPN、偽年齢申告、海外版アプリを使えば迂回は容易で、すべての違法アクセスを防ぐのは技術的に困難だ。オーストラリア連邦政府の公共放送ABCも、施行前からこの点を繰り返し指摘している。
第二に、プライバシー問題。年齢確認には顔認証や公的ID提出が想定されており、これらは同時にデジタル監視インフラの整備でもある。年齢確認の義務化は、全員に身分証明を求める社会への入り口になりかねない。
第三に、若者世代の意思が制度設計に反映されていないこと。日本の調査でも、20代の「制度に賛成」は16%にとどまり、「抜け道を探す」が20%を超えた。SNSが生活基盤になっている世代にとって、一律禁止は大人の視点からの押し付けに見える。
禁止か放置か、の二択が最善でないことは、たぶん誰もが感じている。ただ各国政府は、「静観」を捨てた。その一点は共通している。
日本はどう動くか、静観の時間は残り少ない
日本には現時点で子どものSNS年齢制限を定める法律はない。2009年施行の青少年インターネット環境整備法がフィルタリングサービス提供を義務付けているが、各SNSの自主規制(13歳以上)に依存している。
文部科学省の2024年度調査では、いじめの認知件数が76万9022件と過去最高を記録した。SNS絡みのトラブルが増えていることは、データとしても明らかになっている。中学生の95%がSNSを使っているという現状で、制度だけが世界から取り残されている。
世界で13ヶ国が動いた4ヶ月間、日本の議論は動いていない。先行国の施行データが2026年後半から2027年にかけて出揃ったとき、その数字を見て対応するのでは遅すぎるかもしれない。
子どもから何を奪い、何を残すのか。その判断を他国任せにしていられる時間は、もう長くない。
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