Mythos 5が限定復活、Fable 5はまだ止まっている

Mythos 5が限定復活、Fable 5はまだ止まっている

6月12日に全世界で遮断されたAnthropicの最上位AIモデルが、2週間ぶりに動き出した。ただし「全面復旧」ではない。米政府が認めたのはMythos 5だけ、対象は約100の米国組織だけ、一般向けのFable 5は書簡で触れられてすらいない。同じ日にOpenAIのGPT-5.6も政府承認済みの約20社にしか公開されなかった。誰が最も強いAIモデルを使えるか。それを決めるのは、もう開発企業ではない。この2週間で、その構造が既成事実になった。


書簡の中身

現地時間6月26日金曜日、ハワード・ラトニック(Howard Lutnick)商務長官からAnthropicのトム・ブラウン(Tom Brown)共同創業者に宛てた書簡が届いた。宛先がCEOのダリオ・アモデイ(Dario Amodei)氏ではなくブラウン氏になっている理由は後述する。

書簡の要旨はこうだ。6月12日の指令以降、Anthropicは米政府とともにリスク対応に取り組み、十分な成果が得られた。よって「信頼されたパートナー」に限り、Mythos 5へのアクセスを認める。ラトニック氏は承認リストをいつでも変更できるとし、状況に応じて規制の範囲を再評価する権限を留保している。

Anthropicは声明で、米国の重要インフラを運用・防御する組織にMythos 5を再展開できるとの通知を受けたと発表した。承認済み組織へのアクセス復旧を急いでおり、Mythos 5のアクセス拡大とFable 5の一般公開再開に向けた政府との協議を続けるとしている。

対象となる約100組織には政府機関と民間企業の両方が含まれる。遮断前にProject Glasswingの枠組みでMythos 5を利用していたシスコやJPモルガン・チェースなどのインフラ企業・金融機関が含まれるとみられる。

Fable 5には触れられていない

書簡はFable 5について何も述べていない。Fable 5はMythos 5と同じ基盤モデルを共有しながら、サイバーセキュリティ領域の応答をブロックする安全分類器を搭載した一般公開版だ。6月9日から12日までの3日間だけ一般ユーザーに開放され、それ以降は止まったままになっている。

交渉の事情に通じた関係者によると、Fable 5の復旧に向けた協議も進んでいるが、時期は不透明だという。Anthropicは声明でFable 5の一般再開を目指す姿勢を明示しているものの、具体的な日程は示していない。日本を含む米国外のユーザーがFable 5を再び使えるかどうかは、輸出管理指令の全面的な見直しが必要になる。

「weirdo」と交渉担当の交代

この2週間の交渉で注目されたのは、Anthropicの交渉担当者が交代した経緯だ。

複数の報道によると、6月12日の遮断直後、アモデイ氏はワシントンに入りホワイトハウスや商務省の高官と直接交渉に当たった。だが政権側はアモデイ氏の対応に不満を抱いていたとされる。交渉に参加した関係者は「トム・ブラウンはダリオのようにweirdo(変わり者・変な人)じゃないし、ちゃんと対話できる」と述べたという。アモデイ氏は話を聞かず、感情的になる傾向があったとも報じられている。

ブラウン氏が交渉の前面に出てから、協議の雰囲気は改善したとされる。ラトニック商務長官の書簡がアモデイCEOではなくブラウン氏宛てになっているのは、この交代を反映している。Anthropicの公共政策担当責任者サラ・ヘック(Sarah Heck)氏もブラウン氏とともに交渉に当たった。

アモデイ氏は引き続きCEOの地位にある。だがこの局面で勝負を分けたのは、技術的な正しさではなく、相手の話を聞けるかどうかだった。

GPT-5.6も同じ構造

Mythos 5の限定復活と同じ日、OpenAIがGPT-5.6シリーズをリリースした。最上位モデルのSolは約20の政府承認済みパートナーにのみ提供され、一般公開は数週間後の予定だという。

トランプ政権は6月初頭、フロンティアAIモデルのリリース前に自主的な安全審査を政府に提出するよう求める大統領令を出した。Anthropicへの輸出管理指令はこの大統領令とは別の強制措置だが、結果としてOpenAIも同じ状況に入った。GPT-5.6は政府の顧客承認を経なければ公開できなくなった。サム・アルトマン(Sam Altman)CEOはこの状況を「bad news」と表現し、政府によるアクセス管理が長期的な標準になるべきではないとの立場を公式に示している。

フロンティアAIモデル規制の現状比較
AnthropicOpenAI
対象モデルMythos 5 / Fable 5GPT-5.6(Sol)
措置の種類輸出管理指令(強制)政府の要請(自主的)
現在の公開状況Mythos 5: 約100組織に
限定復活
Fable 5: 停止中
約20社に限定公開
一般公開の見通しFable 5: 未定数週間後の予定
政府への姿勢「誤解だ」と公に反論協力しつつ
原則論で異議
※ 2026年6月27日時点。Anthropicへの措置は商務省の輸出管理権限に基づく強制措置、OpenAIへの措置は大統領令に基づく政府要請による自主的対応

2社の対応には温度差がある。Anthropicは遮断命令を受けてから公に「誤解だ」と反論し、業界全体への悪影響を警告した。OpenAIは政権に協力する姿勢を見せつつ、原則論として異議を唱えている。だがどちらのフロンティアモデルも、政府の承認なしには公開できない状態にある。

日本のユーザーにとって何が変わったか

今のところ、何も変わっていない。

Mythos 5の復旧対象は米国組織に絞られている。6月12日の輸出管理指令は「米国の内外を問わず、すべての外国籍者へのアクセスを禁止する」という内容だった。日本のユーザーはその「外国籍者」に該当する。Fable 5が再開されたとしても、指令が全面撤回されない限り、日本からのアクセスが認められる保証はない。

Anthropicは7月8日から、利用者に対して政府発行の身分証明書による本人確認を開始する。輸出管理への対応として、米国市民であることを確認した上でアクセスを復旧する仕組みだと見られている。指令の全面撤回がなくても米国市民にだけFable 5を戻せる一方、日本のユーザーにとっては復旧がさらに遠のく。

Opus 4.8やSonnet 4.6など他のClaudeモデルは影響を受けていない。規制対象はMythosクラスだけだ。だが6月9日に3日間だけ公開された「最強のClaude」が、政治的な判断で使えなくなっている状況は変わっていない。

参照元:米政府、AnthropicにMythos 5の限定的な再公開を許可

他参照:Semafor独占:米政府がMythos 5の再公開を承認

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