スリーマイル島再稼働の内部情報で約2.3億円。技術者が起訴された

スリーマイル島再稼働の内部情報で約2.3億円。技術者が起訴された

AIデータセンター向け原発再稼働という国家規模の案件の内側で、インサイダー取引が起きていた。米証券取引委員会(SEC)と連邦検察が現地時間6月24日、コンステレーション・エナジーの元技術者を証券詐欺とインサイダー取引で起訴した。


社内コードネーム「プロジェクト・テトリス」

ケイシー・マグルストン(Casey Muggleston)氏、44歳。デラウェア州ウィルミントン在住。コンステレーション・エナジーでライセンス更新を担当するエンジニアリング・マネージャーだった。

コンステレーション・エナジーは2024年当時、2019年に閉鎖したスリーマイル島原子力発電所1号機の再稼働を内部で検討していた。社内コードネームは「プロジェクト・テトリス」。マグルストン氏は原子力規制委員会(NRC)への申請業務を通じて、このプロジェクトの進捗情報に直接アクセスできる立場にあった。

2024年5月21日、社内メールがライセンスチームの進捗を「極秘」扱いで伝えた。マグルストン氏もこのメールを受け取っている。3日後、同氏はスリーマイル島近くに住む親族に連絡を取り、再稼働を見越した不動産投資について相談した。SECの訴状によれば、そのメッセージにはこうあった。「TMIの再稼働が勢いを増しているようだ。どうにかして利益を出せないか考えている」。

約1076万円で約2億2600万円を得た経緯

マグルストン氏が実際に取った行動は、不動産ではなくコールオプションの購入だった。あらかじめ決められた価格で株式を買う権利で、株価が上がるほど価値が膨らむ。元手が小さくても、当たれば何倍もの利益になる。

6月3日から購入を始めた。7月・8月に期限が来るコールオプションを次々に買い増したが、コンステレーション・エナジーは発表に踏み切らなかった。株価は一時下落し、初期のオプションの一部は期限切れで無価値になった。

転機は8月15日。同僚がマグルストン氏に、再稼働計画がもはや「ifではない」と伝えた。同日中に「緊急テトリス会議」の招集メールが届き、翌朝からプロジェクトの人員体制の打ち合わせが始まった。ここから購入ペースが一変する。8月16日以降、9月20日を期限とするコールオプションに集中投資し、9月3日までに550契約を積み上げた。親族には「再稼働が成功するかどうかは正直わからないが、関係ない。発表されれば株価は跳ねる」と語ったとされる。

9月20日、コンステレーション・エナジーがマイクロソフトとの20年間の電力購入契約を正式発表した。同社がスリーマイル島1号機をクレーン・クリーン・エナジー・センターとして再稼働させ、AIデータセンターに電力を供給するという内容だった。

発表当日、コンステレーション・エナジーの株価は前日終値208.50ドルから254.98ドルへ、22.3%上昇した

マグルストン氏は保有していた550契約のコールオプションをすべて売却。利益は約140万ドル(約2億2600万円)。オプション購入に投じた総額は約6万6595ドル(約1076万円)だった。

インサイダー取引の経緯(2024年)
5月21日
「極秘」メール受信
プロジェクト・テトリスのキックオフ会議案内
5月24日
親族へ連絡
「再稼働が勢いを増している。利益を出せないか考えている」
6月3日
コールオプション購入開始
7月・8月期限のオプションを購入。一部は期限切れで無価値に
8月15日
同僚「もうifではない」
緊急テトリス会議の招集。購入ペースが急加速
9月3日
550契約に到達
投入額は合計約6万6595ドル(約1076万円)
9月20日
正式発表・全売却
株価+22.3%。利益は約140万ドル(約2億2600万円)
出典:SEC訴状(Case 1:26-cv-00744-UNA)およびDOJ起訴状に基づく。日付は全て2024年

「研修を受けていた」という事実

起訴状が繰り返し指摘するのは、マグルストン氏がインサイダー取引の禁止を十分に認識していたはずだという点だ。

コンステレーション・エナジーは毎年、役員・従業員・契約社員を対象にインサイダー取引防止研修を実施している。同社の行動規範にはこう明記されていた。「業務を通じて得た未公開重要情報に基づく取引を行ってはならない」「コンステレーション証券のコールオプション取引は禁止する」。マグルストン氏はこの研修を受講済みだった。

さらに、同氏の親族2人もこの期間中にコンステレーション株のオプションを購入していたことが訴状で示されている。親族は利益を得ておらず、現時点で起訴されていない。SECの民事訴訟によれば、マグルストン氏は2025年秋に退社した後も、同社が別の電力契約を発表するたびに親族へ「知っていれば取引できたのに」という趣旨のメッセージを送っていた。

証券詐欺1件、インサイダー取引4件

連邦大陪審はマグルストン氏を証券詐欺1件(最大懲役25年)とインサイダー取引4件(各最大懲役20年)で起訴した。デラウェア州連邦地裁での初公判は7月2日に予定されている。

SECは民事訴訟として差止命令、不当利得の返還に加え、民事制裁金を求めている。SECのマーケット・アビューズ・ユニットがデータ分析ツールで不審な取引パターンを検出したことが捜査の端緒だったという。

コンステレーション・エナジーは「マグルストン氏はすでに当社の従業員ではない。起訴を認識しているが、それ以上のコメントはない」との声明を出した。マグルストン氏側からの公のコメントは現時点で出ていない。

再稼働そのものは前進している

事件とは別に、スリーマイル島1号機の再稼働計画は進んでいる。NRCは6月8日、再稼働が環境に重大な影響を及ぼさないとする予備的評価を公表し、7月8日までパブリックコメントを受け付けている。コンステレーション・エナジーは2027年中の送電開始を目指しており、当初の2028年予定から前倒しされた。

16億ドル(約2585億円)を投じるこの再稼働計画の背景にあるのは、AIデータセンターの爆発的な電力需要だ。マイクロソフトは再稼働後のすべての電力を固定価格で購入する契約を結んでいる。

1979年の事故で知られるスリーマイル島だが、1号機は事故を起こした2号機とは別の施設で、40年にわたって問題なく運転を続けた後、2019年に経済的理由で閉鎖された。AI電力需要の急増が、閉鎖された原子炉に再び16億ドルの投資を呼び込んだ。その渦中で、一人の技術者が自分の証券口座にこっそりカネを流し込んでいた。SECのデータ分析ツールはそれを見逃さなかった。

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