レーザーで蚊を撃ち落とす装置、量産開始

LiDARで蚊を捕捉し、レーザーで羽を焼く。クラウドファンディングで270万ドルを集めた「対蚊防空システム」が、ついに量産と一般販売に踏み出した。

レーザーで蚊を撃ち落とす装置、量産開始
Photon Matrix

LiDARで蚊を捕捉し、レーザーで羽を焼く。クラウドファンディングで270万ドルを集めた「対蚊防空システム」が、ついに量産と一般販売に踏み出した。


クラウドファンディングから量産へ

レーザーで蚊を自動検知・撃墜する装置Photon Matrixが、8月に量産を開始した。開発元のPhoton Matrix Lab(中国・常州市)がIndiegogoの最新アップデートで発表したもので、初回出荷は8月中に始まる見通しだ。

Indiegogoでの支援者以外も購入できるようになった。公式ストアで赤外線レーザー版が988ドル(約15万7,000円)、ブルーレーザー版が1,088ドル(約17万3,000円)で予約を受け付けている。いずれも定価から15%引きの価格で、送料は無料。注文から120日以内の出荷とされている。

クラウドファンディングを2025年7月に開始してから約1年。Indiegogoでは50カ国以上から4,000人超の支援者を集め、調達額は270万ドル(約4億3,000万円)に達したという。

LiDARとレーザーの二段構え

まずLiDAR(レーザー測距センサー)が90度の扇形をスキャンし、背景までの距離を常時計測する。蚊のような小さな物体がその空間に入ると距離の変化を検知し、サイズを照合する。2〜20mmの飛翔昆虫で、飛行速度が秒速1m以下であれば「蚊」と判定し、ガルバノメーター(精密な反射鏡)でレーザーを照射して羽を焼く。有効範囲は半径6m。

ミリ波レーダーとAIビジョンモジュールも搭載している。レーザーの照射経路上に背景がない(壁などの遮蔽物が有効範囲内にない)場合、レーザーは自動停止する。人やペット、鳥への誤射を防ぐ設計だという。

2モデルの性能差はレーザーの波長だけだ。赤外線版(976nm)は光が見えないため寝室やホテルなど静かな室内環境に向く。ブルーレーザー版(450nm)は命中時に青い閃光が見えるため、庭やキャンプなど屋外での利用を想定している。両モデルとも消費電力は20W以下、動作音は30dB未満で、IP56の防水等級を備える。

Photon Matrix 2モデル比較
赤外線版ブルーレーザー版
レーザー
波長976nm(不可視)450nm(可視)
命中時光は見えない青い閃光が見える
運用
推奨環境寝室・ホテル庭・キャンプ
有効範囲半径6m・90度半径6m・90度
価格988ドル1,088ドル
※両モデルとも消費電力20W以下・動作音30dB未満・防水等級IP56・重量約1,200g。1ドル≒159円換算で赤外線版は約15万7000円、ブルー版は約17万3000円

まだ誰も検証していない

メーカー発表の性能は派手だ。最大毎秒30匹の処理能力、3ミリ秒での蚊の検出。しかしこれらはすべて公式テスト動画と仕様書の数値であり、独立レビューはまだない

▼2025/7/5の動画

安全認証については、レーザーモジュール自体はIEC 60825-1のクラス4に分類される高出力ダイオードだが、筐体で完全に覆い多層の安全保護を施しているとPhoton Matrixは説明している。ただ、クラウドファンディング段階でCE認証の取得手続きが進行中だった経緯があり、現時点でどの認証を取得済みかは公式サイト上で明示されていない。

約15万〜17万円という価格も、蚊取り線香や殺虫スプレーと比較すれば桁が違う。化学薬品を使わない点、繰り返し使える点は長期的なメリットだが、この価格で手が出る層は限られる。

レーザーもドローンも、蚊に狙いを定め始めた

蚊にレーザーを当てる発想自体は新しくない。2007年にビル&メリンダ・ゲイツ財団の依頼でIntellectual Ventures(インテレクチュアル・ベンチャーズ)社が「フォトニックフェンス」の原型を作ったのが始まりだ。だが安全性の壁が高く、市販品は生まれなかった。約20年間、一つも。

風向きが変わったのはここ1〜2年だ。個人開発者がコンピュータビジョンと深層学習を組み合わせてレーザー蚊駆除装置を自作し、Y Combinator支援のフランス企業Tornyolは40gの自律ドローンで飛行中の蛾を撃墜するデモを公開した。レーザー、ドローン、AI。アプローチは異なるが、化学薬品に頼らず蚊を物理的に排除する技術が複数のルートで同時に進んでいる。

Photon Matrixはその中で最も製品化に近い位置にいる。ただ「近い」と「着いた」は違う。120日以内の出荷が本当に実行されるか。実環境でメーカー発表通りの性能が出るか。安全認証の全容が明示されるか。答えを出すのは、最初のユニットを受け取ったユーザーと、それをテストする独立レビュアーだ。

レーザー蚊駆除の歩み
2007年
ゲイツ財団が構想
マラリア対策としてレーザー蚊駆除のアイデアが生まれる。試作品が作られるも安全性の壁で実用化に至らず
2025年7月
Photon Matrix、Indiegogo開始
中国・常州発のLiDAR搭載レーザー蚊駆除装置。50カ国4000人超から270万ドルを調達
2026年5月
個人がAIレーザー装置を自作
深層学習と一眼レフカメラで蚊を追尾する装置を4か月で完成。企業より先に動作実証
2026年7月
自律ドローンが蛾を空中撃墜
フランスのTornyolが40gドローンで飛行中の蛾を初撃墜。超音波で蚊を追尾する別の手法
2026年8月
Photon Matrix、量産開始
公式ストアで一般販売を開始。赤外線版988ドル・ブルー版1,088ドル。出荷は注文から120日以内
※2007年の構想はゲイツ財団の依頼でIntellectual Ventures社が着手。約20年間市販品は生まれなかった

蚊は年間70万人以上の命を奪う。約15万円のレーザー砲台がその脅威に対する実用的な選択肢になれるかどうか、最初の出荷が始まるこの夏が試金石になる。

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