SpaceX、IPOの10日後に社債発行。現金10兆円でも足りないAIの渇き

SpaceX、IPOの10日後に社債発行。現金10兆円でも足りないAIの渇き

保有する現金は約1008億ドル(約16兆3000億円)。それでも、金を借りに来た。史上最大のIPOを終えたSpaceXが、今度は社債市場に乗り込んできた。


ロケット企業が債券市場へ

SpaceXは現地時間6月22日、無担保優先債(シニア・アンセキュアード・ノート)の発行を発表した。上場からわずか10日。同社にとって初めての社債発行となる。

公式には調達規模を明かしていない。関係者の話として、200億ドル(約3兆2000億円)以上を目指すと報じられている。満期は5年物から30年物まで複数の年限が設定される見込みで、投資家向けの説明は22日から始まった。

格付けは3大機関が揃って投資適格を付与した。ムーディーズがBaa1、フィッチがBBB+、S&PグローバルがBBB。Starlink(スターリンク)の安定収益と、軌道打ち上げ市場での圧倒的シェアが評価された。フィッチは、2023年以降に地球から軌道へ運ばれた質量の80%以上をSpaceXが担ったと指摘している。

では、なぜこれだけの現金を抱えて借りるのか。

xAIの負債、200億ドルの借り換え

答えは2月に遡る。SpaceXはイーロン・マスク(Elon Musk)氏のAIスタートアップxAIを買収し、合併後の企業評価額は1兆2500億ドルに達した。ロケット、衛星通信、AI、SNS(X)。マスク氏の帝国が一つの法人にまとまった瞬間だ。

問題は、xAIが抱えていた負債だった。Xの買収資金に由来する約125億ドルのローン(固定9.5%、変動SOFR+6.5〜6.75%)と、xAI自身が2025年6月に調達した50億ドルの社債・融資(固定12.5%、変動SOFR+7.25%)。合わせて約175億ドルの負債はいずれもジャンク格で、金利だけで年間数十億ドルが流出していた。

SpaceXは3月、ゴールドマン・サックス、バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、JPモルガン、モルガン・スタンレーの5行からブリッジローン(つなぎ融資)200億ドルを引き出し、このジャンク債を一括返済した。実効金利は4.58%に下がり、利払いは半減。だが、ブリッジローンはIPOから6カ月以内の返済が条件だった。

今回の社債発行は、そのブリッジローンを長期の投資適格債に乗り換える動きだ。借金の額自体は変わらない。だが、返済期限が「6カ月以内」から「最長30年」に伸び、金利はさらに下がる。財務上は大きな改善だ。

上場10日で社債、という異例の動きには理由がある。マスク氏の企業統合に伴う負債の整理だ。xAIの赤字とXの借金を、SpaceXの信用力で安い金利に差し替えた。

AIが飲み込む資金

だが、負債整理だけでは説明がつかない。IPOで約860億ドル(グリーンシュー行使後)を調達し、保有する現金は1008億ドル。借り換えだけなら既存の現金で払えた。

SpaceXが現金で返さず社債を選んだのは、使い道が他にあるからだ。AIだ。

xAIの設備投資は2025年だけで127億ドル。2026年第1四半期だけですでに77億ドルを投じた。年間ベースに直せば300億ドル超のペースで、SpaceXのロケット事業とStarlinkの設備投資を合わせた80億ドルをはるかに上回る。

同時に収益化も動いている。マスク氏が構築したColossus(コロッサス)データセンターは、社外のAI企業にコンピューティング能力を売る商業プラットフォームに変わりつつある。

Anthropicが月額12億5000万ドルでColossus 1のGPU約22万基を借り、Googleが月額9億2000万ドルでGPU約11万基を押さえた。6月22日には、元DeepMind研究者が設立したオープンソースAIスタートアップReflection AI(リフレクション・エーアイ)も加わった。Colossus 2のNVIDIA GB300チップへのアクセスを月額1億5000万ドルで契約したと報じられている。2029年末までの全期間で約63億ドル。契約先にはCursorも含まれ、SpaceXはCursorの買収も進めている。

Colossusコンピュート販売 契約一覧
AnthropicGoogleReflection AI
対象施設Colossus 1ColossusColossus 2
GPU基数約22万基約11万基非公開
月額12億5000万
ドル
9億2000万
ドル
1億5000万
ドル
契約期間〜2029年〜2029年〜2029年末
総額(最大)約450億ドル約300億ドル約63億ドル
※全契約に90日前通告による解約条項あり。総額は全期間継続時の最大値

外部顧客との契約総額は、2029年までに800億ドルを超えるとの試算もある。元々Grokの訓練用に建設されたインフラが、いまやSpaceXの新たな収益の柱に育ちつつある。

株価は下げ止まらない

SPCX株はIPO初日に19.2%上昇し、161ドルで引けた。6月16日には225.64ドルの高値をつけたが、そこから下落に転じた。社債発行が発表された22日には一時165ドル台まで売られ、IPO価格の135ドルから見れば依然として高いが、高値からは約27%の下落となった。

株安の背景は複合的だ。MSCIが6月11日にESG格付けの最低ランクCCCをSpaceXに付与した。xAIは2025年に63億6000万ドルの赤字を計上し、2026年第1四半期だけで24億7000万ドルの営業損失を出している。200億ドルの社債発行そのものへの警戒もある。

3営業日連続の下落が、個人投資家の熱狂で急騰した株価を押し戻した。

問われるのは、AIの賭けの回収速度

SpaceXの財務は、二つの顔を持っている。

一方にStarlink。2025年の売上高は114億ドル、調整後EBITDAマージンは63%。加入者数は2026年3月時点で約1030万に達し、SpaceXで唯一黒字の事業だ。もう一方にxAI。売上高32億ドルに対して損失は63億6000万ドル。Grokの月間アクティブユーザーは1億1700万だが、有料ユーザーはわずか190万。

SpaceXの二つの顔:Starlink vs xAI
StarlinkxAI
2025年売上高114億ドル32億ドル
2025年損益黒字
(EBITDA 63%)
−63億6000万
ドル
2025年設備投資80億ドル127億ドル
2026年Q1
営業損益
黒字−24億7000万
ドル
ユーザー加入者
約1030万
MAU 1億1700万
(有料190万)
※Starlinkの設備投資80億ドルはロケット事業との合算。2026年Q1決算開示ベース

連結では2025年に49億4000万ドルの純損失を出した。2026年第1四半期も42億8000万ドルの赤字が続く。長期負債は291億ドル。

それでも3大格付け機関が投資適格を与えたのは、Starlinkの収益力とColossusのコンピュート販売が生み出すキャッシュフローの潜在力を見ているからだ。Anthropic、Google、Reflection AIとの大型契約は、xAIの膨大な設備投資がやがて回収可能であることの傍証になっている。

ただし、すべての契約には90日前通告による解約条項がある。3年間の全額が保証された収益ではない。

マスク氏はIPOのロードショーでこう示唆したという。今後の資金調達は新株発行ではなく借入で行う。つまり、今回の社債はSpaceXが公開企業として歩む財務戦略の起点であり、最後ではない。

ロケットを打ち上げる企業が、地上のデータセンターで金を稼ぎ、宇宙にデータセンターを建てるために債券を発行する。SpaceXの物語は、もはや宇宙開発の話ではない。

参照元:SpaceX社債発行プレスリリース

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