人口7000人の町に東京ドーム18個分のAIデータセンター
ペンシルベニア州の人口7000人の小さな町に、6つのAIデータセンター群が建設されようとしている。51棟の倉庫はそれぞれウォルマート級。住民の反発で町議会7人のうち4人が辞任した。AI需要が地方自治を物理的に押しつぶしている。
元炭鉱の町に、51のウォルマートが降ってくる
アーチボルド(Archbald)はペンシルベニア州北東部、ポコノ山脈のふもとにある人口7000人ほどの町だ。20世紀初頭に石炭産業が衰退してからは、森と住宅地が広がる静かなコミュニティになっていた。
その町に今、5社のデベロッパーが計6つのAIデータセンター群を建設しようとしている。51棟のデータ倉庫、1棟あたりウォルマート・スーパーセンター級、町の17平方マイルの土地のうちおよそ14% を占める規模。合計の延床面積は東京ドーム約18個分に達する。
「ウォルマートが51軒できる町」と言われて、それを歓迎する住民はまずいない。
住民は、開発の規模を見て言葉を失った
そもそもデータセンターは、住宅街の隣に建つような建物ではない。屋根の下にずらりと並んだサーバーラックを24時間冷却し続ける必要があり、巨大な空調設備、変電所、停電に備えた何百台ものディーゼル発電機が常に控えている。
アーチボルドで計画されている数字は、こうだ。Wildcat Ridgeと呼ばれるCornell Realty Management LLCの計画では、14棟のデータセンターと574台 のディーゼル発電機、ピーク時には1日330万ガロンの水が必要になる。Project Gravityでは、約180エーカーの森が伐採される予定で、すでに伐採は始まっている。
住民のティム・バチャク(Tim Bachak)は、自宅の裏庭から見えていたカバノキ・カエデ・オークの森でクマやシカ、フクロウを観察するのが日課だった。Washington Postの取材に対し、ある朝チェーンソーの音で目を覚ましたと語っている。森は切り株の風景に変わっていた。
動物たちはもう、行き場がない
バチャクの言葉は、AIブームが地方の森と野生動物に何をしているかを直截に示している。
町は、ゾーニング条例を作る前にすでに買われていた
アーチボルドの状況が他のデータセンター反対運動と違うのは、町が「準備が整う前に飲み込まれた」ことだ。
調査報道メディアSpotlight PAが報じている経緯はこうだ。アーチボルド町議会が2023年にデータセンターを許容するゾーニング変更を承認した。住民の多くは、その時点ではこれが何を意味するか把握していなかった。2024年から2025年にかけて、デベロッパーが次々に土地を取得していく。ゾーニング規制の見直し議論が始まる前に、Archbald 25 Developer LLC、PDC Realty、Provident Realty Advisorsといった複数の事業者がすでに用地を確保していた。
非営利環境団体PennFutureの弁護士ブリジット・マイヤー(Brigitte Meyer)は、Spotlight PAに対しこう指摘している。住民の関心が「具体的な計画が出てから」喚起されるのは典型的なパターンで、その段階では自治体側が持つ規制余地はほぼ消えている。手遅れになってから怒る、これが地方自治体の構造的な弱点だ。
4人の議員が辞めた、町は事実上の「議会クーデター」状態に
住民の反発は、ペンシルベニア州の地方政治を根本から揺さぶった。
町議会7人のうち4人が辞任、計画委員会のメンバーも複数辞任した。辞めた議員たちが理由として挙げているのは、SNS上での個人攻撃の激化と、インディアナポリスで起きたある事件だ。
その事件とは、今年4月6日にインディアナポリス市議会議員ロン・ギブソン(Ron Gibson)の自宅にデータセンター反対派とみられる人物が13発の銃弾を撃ち込んだ事件である。玄関には「No data centers」と書かれた紙が残されていた。ギブソンは8歳の息子と就寝中で、けが人は出なかった。連邦捜査局(FBI)が地元警察を支援して捜査している。
データセンターをめぐる地域対立が、もはや言論ではなく物理的暴力の領域に入りつつある。それを目の当たりにしたアーチボルドの議員たちが「もう、やっていられない」と感じても不思議ではない。
辞任した議員の後任には、3議席のうち3つがデータセンター反対派で埋まり、1議席は空席のままだ。事実上、Big Tech的な開発計画への防波堤に、町ぐるみで作り変えられている。アーチボルド市長シャーリー・バレット(Shirley Barrett)はWashington Postに対し、現状をこう言い表している。
この議論は、このコミュニティを破壊した。私たちは答えを求めているが、何が起きているのかさえ分からない。あまりに早く進みすぎた
「自動承認」という法律の抜け穴
それでもデベロッパー側は、簡単には引かない。
Archbald I LLC(背後にいるのはテキサス州ダラスのProvident Realty Advisors)が進めるProject Scottは、3月27日に町議会で5対0の全会一致で否決された。18棟のデータセンター複合施設、1棟あたり高さ90フィート、フットプリント約15万4850平方フィートという計画である。
ところがArchbald I LLCは、ペンシルベニア州自治体計画法(Pennsylvania Municipalities Planning Code)の規定を持ち出した。自治体が法定期限内に判断を下さなかった場合、申請は自動承認とみなされる、という条項だ。同社は3月31日付で「みなし承認が成立した」と地元紙Times-Tribuneに公示し、町議会の否決をくつがえそうとしている。
技術的には、確かに自治体側の手続きにミスがあった。最初の公聴会の45日以内に次回公聴会を開く必要があったが、書記の事務的なミスで日程通知が遅れた。町の弁護士は期限延長を申し入れたが、デベロッパーは拒否した。「強制的に延長を飲まされる気はない」というのがその回答である。
法律の文面どおりに動けば、否決されたはずの計画が町の事務手続きミスだけで自動的に通る、という構造になっている。
ディーゼル発電機・水・電気代、すべて住民が負担する
地元紙2822 Newsが伝えた住民の声は、根本的な問いを突きつけている。
住民のアンジェラ・ウェラー(Angela Weller)は、こう発言した。廃坑になった炭鉱の上に、ディーゼル燃料タンクとディーゼル発電機を置こうとしている。アーチボルドの炭鉱は1955年に最後の鉱区が閉山したが、地下には今も無数の坑道が走っており、地表が陥没した「アーチボルド・ポットホール州立公園」がそれを象徴している。炭鉱跡地に重量物を置く、という設計判断そのものに住民は懐疑的だ。
電力負担の話も深刻だ。地元紙Scranton Times-Tribuneの記者フランク・レフネスキー(Frank Lefneskey)の試算によれば、計画中の1つの施設だけで、地域最大の発電所の出力を超える電力を消費する見込みだ。ペンシルベニア州ではAIデータセンター需要によって電気料金がすでに上昇しており、その負担は最終的に同じ送電網につながる住民に転嫁される。
Wildcat Ridgeでは、ピーク時に1日330万ガロン(約1万2500立方メートル)の水使用が想定されている。これはアーチボルドが属するスクラントン湖(Lake Scranton)の供給対象、約13万4570人の飲料水と競合する。
経済的見返りはどうか。Cornell Realty Management LLCの試算では、Wildcat Ridge一施設だけでアーチボルドに年間4400万ドル(執筆時点のレートでおよそ70億円)の純財政効果がもたらされるとされている。ただ、データセンターは雇用を生まない。Cornellの主張する「1280人雇用」に対して、町議会のジョセフ・アルティエ(Joseph Altier)議員は業界の常識を持ち出した。データセンターのフル稼働後の運用要員は15人から35人 が現実的な数字だと。
We are not for sale.(私たちは売り物じゃない)
別の住民が公聴会で叫んだその一言が、町の空気を要約している。
連邦・州レベルでも、規制議論が動き出している
事態はもはや一自治体の問題ではない。
ペンシルベニア州民主党のケイティ・ムース(Katie Muth)州上院議員は、州内の大規模データセンター新設に対する3年間のモラトリアム 法案を準備していると報じられている。ラッカワナ郡のビル・ガーガン(Bill Gaughan)郡コミッショナーも、ジョシュ・シャピロ(Josh Shapiro)知事に対し、州全体での3年モラトリアム支持を求めている。
メイン州知事は4月24日、大型データセンター禁止法案に拒否権を行使した。一方ミズーリ州フェスタスでは、60億ドル規模のAIデータセンターを6対2で承認した市議会8人のうち、再選挙にかかった現職4人全員が反データセンター候補に敗れ、議席の半数が一夜で入れ替わった。米国全土でAIデータセンター建設計画の40%に何らかの遅延が発生している。
シャピロ知事自身も、これまでの「迅速承認」路線から「より厳格な地域審査」路線へと姿勢を変え始めていると報じられている。
AIブームは、誰の暮らしの上に立っているのか
データセンターは抽象的なクラウドではない。土地を消費し、水を消費し、電気を吸い上げ、ディーゼル発電機の排ガスを撒き、夜間も止まらないファンの低周波騒音を出し、地域社会の景観と政治を変える。
ChatGPTが返す1回の応答の裏側に、こうした「物理的なAI」がある。アーチボルドの住民が抗議しているのは、その物理的な実装が自分たちの生活圏 に降ってくるという現実そのものに対してだ。
技術ニュースとして眺めれば「AI需要によるデータセンター建設ラッシュ」という1行で片付く話だが、現場では7000人の町の議員が次々に辞め、別の州では政治家の自宅に銃弾が撃ち込まれている。AIインフラは、地方民主主義の許容量をすでに超えつつある。
問いは、もう「もっと建てるべきか」ではない。誰が利益を得て、誰がコストを払うのか。それを公平に切り分ける仕組みを、社会はまだ持っていない。
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他参照
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