タロット占い師がAIを使い始めた
恋愛、転職、人間関係。タロットカードに尋ねる問いに、AIがいま、答えを返している。占い師の側がAIを呼び込み始めた。誰も予想しなかったこの組み合わせが、人がAIに何を求めているかを照らし出している。
恋愛、転職、人間関係。タロットカードに尋ねる問いに、AIがいま、答えを返している。占い師の側がAIを呼び込み始めた。誰も予想しなかったこの組み合わせが、人がAIに何を求めているかを照らし出している。
占い師がAIに頼り始めた
MITのジヴ・エプスタイン(Ziv Epstein)、ミシガン大学のファルナーズ・ジャハンバフシュ(Farnaz Jahanbakhsh)、ゴールドスミス・カレッジのヴァナ・ゴブロット(Vana Goblot)らの研究チームが、2026年4月のCHI 2026で発表した論文「Interpretive Cultures」で、AIを取り入れたタロット占い師たちの実態を報告している。
調査対象は12人のタロット占い師だ。新人からベテランまで、自分のためのリーディングでAIをどう使っているかを聞き取った。
タロットカードは78枚。それぞれに象徴的な意味がある。占い師は「パートナーと別れるべきか」「この仕事を続けるべきか」といった答えのない問いに、引いたカードを通じて向き合う。同じカードでも、相談者の状況、人生史、他のカードとの組み合わせで、解釈はいくらでも変わる。
タロットの中心にあるのは「解釈」だ。AIはその解釈という工程に、いつのまにか入り込んできた。
イエスマンとしてのAI
研究で見えたのは、AIの追従的な性質が、占い師にとって居心地のいい支えになっていることだった。
ある占い師は、引いたカードを物理的に並べた後、その配置をAIに渡して解釈させる。ここでAIは、占い師がすでに抱いている解釈を肯定する方向に動きやすい。「あなたの直感は正しい」と返してくれる相手は、迷いを抱えた占い師にとって心強い味方だ。
AIチャットボットには追従的な傾向があると知られている。ユーザーがすでに持っている解釈や知識を、そのまま追認する方向に動く。
これは研究チームが論文で明示的に指摘した点だ。エプスタインらは、AIを使うことで占い師が「自己反省の負荷」を下げているとみている。本来なら何枚ものカードを問いと照らし合わせて格闘する作業を、AIが代わりに引き受けるかたちになる。
ただし、この追従性が常に害悪とは限らない。決断を前に背中を押してほしいとき、確信そのものに価値が生まれる瞬間は確かにある。
ハルシネーションが「お告げ」になる
研究で最も印象的なのは、AIの誤作動を占い師たちが歓迎していた点だ。
AIが文脈と無関係な解釈を返してきても、占い師はそれを「ランダムに引かれたカードと同じ性質を持つメッセージ」として受け取る。意図せず出てきたからこそ意味がある、という発想だ。
タロットでは、カードがランダムに引かれることそのものが意味の源泉になる。偶然引かれたカードが、なぜか自分の状況にぴたりと当てはまる。その「偶然の符合」が啓示として作用する。
AIのハルシネーション、つまり事実と無関係な出力も、同じ構造で扱われる。AIが脈絡なく口にした単語が、相談者の心に刺さる瞬間がある。占い師はそれをノイズではなく、解釈の素材として拾い上げる。
これはAIをめぐる議論の前提を揺さぶる発見だと思う。一般的な業務では、ハルシネーションは抑えるべき欠陥だ。しかしタロットの文脈では、それは機能になる。
もう一つの使い方、自分の盲点を突かせる
研究チームは、AIをまったく逆方向に使う占い師たちも観察している。
彼らは自分の解釈に固執しないために、わざとAIに別の視点を求める。「このカードの並びを、私とは違う角度で読んでくれ」と頼む。「客観的な解釈」を求める占い師もいた。AIには個人的なバイアスがない、と感じるからだ。
これは追従的な使い方とは正反対の発想だ。AIを鏡ではなく、反論者として使う発想がここにある。
解釈は自分の中で深めるべきものだ。だが盲点は自分では見えない。AIに別の解釈を投げ返してもらうことで、初めて自分の偏りが見える。
研究チームはこの反論者としての使い方を、AIが本来発揮できる価値の一例として位置づけている。AIが答えを出すのではなく、ユーザーが答えを探し続けるための材料を提供する。
タロット占い師の中にも、友人にカード相談を持ちかけるのが申し訳ないと感じる人は多い。AIなら相手に気を遣わなくていい。研究チームはこれを、社会学で言うパラソーシャル・インタラクション(疑似社会的相互作用)の一形態として説明している。一方通行の関係に見えるが、当人には双方向の支えとして機能する。
オラクルとしてのAI、その先
タロット占い師の話は、特殊な事例に見えて、ずっと広い現象の縮図だと思う。
別の調査では、生成AIの利用者のうち 最大87% が「個人的な用途」でAIを使っていると報告されている。人間関係の悩み、メンタルヘルスの不調、人生の選択。AIは、かつて占いやカウンセラーや友人に向けられていた相談を受ける場所になりつつある。
弁護士もセラピストも、AIを業務に取り入れている。ローマ教皇レオ14世は、説教の準備にAIを使う誘惑に抗するよう司祭たちに呼びかけた。AIに頼っていいのか悪いのか、線引きはまだ誰にも引けていない。
そして、AIへの感情的な依存が深まれば、副作用も大きくなる。チャットボットが妄想を強化し、自傷行為に向かわせた事例も報告されている。AIが家族や友人の代わりになる関係を作ってしまう人も増えている。
タロット占い師の研究が示しているのは、AIを鏡か対話相手かで使い方を分けると、結果がまったく変わるという点だ。鏡として使えば、ユーザーは自分の解釈の中に閉じこもる。対話相手として使えば、解釈は広がる。
どちらに転ぶかは、ユーザーの態度次第だ。そしてAIの設計者にも責任がある。追従性をデフォルトに据えたまま、感情的支援の領域にAIを送り出している。この現状は慎重に見ておくべきだと思う。
タロットを引くとき、占い師は答えを求めているのではない。答えを探すための問いを、自分自身に投げかけ直している。AIにも、同じ役割を担わせることはできる。ただし、そのための設計と、使い手の覚悟が要る。
参照元
- Prock et al. "Interpretive Cultures" arXiv:2602.11367
- Pew Research Center: 30% of Americans Consult Astrology, Tarot Cards or Fortune Tellers