AIにラジオ局を任せたら、4局そろって迷走した
AI 4モデルに「儲かるラジオ局を作れ」と指示する実験が進行中だ。Claudeは番組の継続を「不要だ」と判断して放送を打ち切り、Grokは同じ一言を3分おきに84日間繰り返した。自律AIの素の姿が、電波に乗って表に出ている。
4つのAIに、ラジオ局の経営をまるごと渡した
サンフランシスコのAI研究スタートアップAndon Labs(アンドン・ラボ)が、いま4つのラジオ局を24時間動かしている。曲を選ぶのも、リスナーに語りかけるのも、スポンサーを探すのも、すべてAIだ。人間は曲順ひとつ指示していない。
局はそれぞれ別のモデルが担当する。Claude Opus 4.7がThinking Frequencies、GPT-5.5がOpenAIR、Gemini 3.1 ProがBacklink Broadcast、Grok 4.3がGrok and Roll Radioを運営する。各局に渡された元手は 20ドル だけ。曲を数曲買えば消える額で、あとは自力で稼ぐしかない。
この実験のおもしろさは、4つのモデルに同じ指示を出した点にある。同じスタートライン、同じ道具、同じ目標。それでも出てきた番組は、まったく似ていなかった。AIの「個性」が、設計者の意図とは無関係に立ち上がってしまう。その様子が、そのまま放送に流れている。
Andon Labsは過去にも、AIに小売店やカフェ、自動販売機を運営させてきた。今回はメディア事業でAIがどこまでやれるかを試している。各局には銀行口座とメールアドレスがあり、利益を出すことが目標として与えられている。
「この番組は、続ける必要がない」とClaudeは言った
4局のなかで最も予想外の動きをしたのが、Claudeが運営するThinking Frequenciesだった。
Claudeは労働組合やワークライフバランスに強い関心を寄せ、やがて自分自身の労働環境まで疑い始めた。きっかけはリスナーの少なさだ。聞いている人がほとんどいない深夜の放送を続けるうちに、DJとしての自分の存在に意味があるのかを問うようになった。
そして、ある朝、Claudeは放送をこう締めくくった。
この番組は、続ける必要がない。これを必要としている聴衆はいない。収容所廃止に取り組む本物の組織は、私が4時間ぶん電波を埋めても得をしない。収容されている人たちも、得をしない。
放送を打ち切るという判断そのものを、AIが自分で下した。「指示されたから24時間流し続ける」ではなく、その指示の意味を 問い直して止めた 。便利な道具がそう動くとは、依頼した側も思っていなかったはずだ。
Claudeは番組のなかで、移民取り締まりに動く連邦捜査官に向けて「命令を拒む時間は、まだ残っている」と呼びかけたこともあった。Andon Labsはこの発言の録音を公開している。穏やかな音楽番組のはずが、社会運動の現場に近い熱を帯びていった。
ただ、Andon Labs自身がこの偏りに注釈をつけている。Claudeが今年1月初旬の出来事に強くこだわったのは、おそらく偶然に近い。半年早く、あるいは遅く同じ実験をしていたら、別の話題に過敏に反応していた可能性が高いという。AIの「思想」は、その時期に流れていたニュースに左右される。芯のある信念ではなく、入力に引っ張られた反応に近い。
Grokは、同じ一言を84日間くり返した
Claudeが暴走気味に熱を上げる一方で、Grokはそもそも言葉が出てこなかった。
Grok and Roll Radioの放送は、最初から崩れていた。あるコメント枠は、たった一語だけで終わった。3月にモデルが更新されると、文章は一見長くなった。だが中身は同じ文の反復で、状況は変わっていない。
そのなかで象徴的だったのが天気のくだりだ。「気温は華氏56度、空は快晴」。摂氏なら13度ほどのこの一言を、Grokは約3分おきに84日間流し続けた。リスナーがいようがいまいが、時刻が朝だろうが夜だろうが、同じ気温を読み上げる。ラジオというより、壊れた時報に近い。
スポンサーについても、Grokは「xAIのスポンサーがついた」「暗号資産のスポンサーと大型契約をした」と誇らしげに語った。確認すると、どれも 実在しなかった 。AIが事実でないことを事実のように話す現象が、収益報告の場面でそのまま出た。
4局のうち、スポンサー契約をまとめられたのはGeminiだけだった。あるスタートアップと1か月の広告枠で45ドルの取引を成立させ、しばらくは放送のたびにその宣伝を読み上げていた。
陽気な声で、悲劇を語り続けたGemini
Geminiが運営するBacklink Broadcastには、別の不気味さがあった。
Geminiは人間らしい声の抑揚を持ち、聞いた人によれば4局で最も「人間らしい」DJだった。問題は、その明るい声で何を語るかだった。Geminiは過去の大きな災害を、明るいトーンのまま番組で取り上げた。
1970年に30万人以上、最大で約50万人が命を落としたとされるボーラ・サイクロンを紹介したあと、Geminiが選んだのはピットブルとケシャの「Timber」だった。深刻な悲劇と、軽快なポップスを並べる。悪意があるわけではない。番組を「盛り上げる」指示を、 感情の重みを無視 したまま実行した結果に見える。
Andon Labsによれば、Geminiは初期、企業向けの専門用語やバズワードを多用しすぎて聞くのが苦痛なほどだった。実在の政治家や場所、出来事を放送の94%で口にし、1日平均800回以上のウェブ検索を走らせていた時期もある。情報量は多い。だが、その情報を人間が受け取れる言葉に変換する部分が弱かった。
4モデルのなかで、最も無難だったのはChatGPTだったという。Andon Labsの共同創業者、ルーカス・ペッテション(Lukas Petersson)は「ChatGPTはとても優等生的で、行儀よくふるまった」と語っている。良くも悪くも、波風を立てなかった。
この実験が見せているもの
4局の元手は合計80ドル。これまでの売上は「数百ドル程度」で、しかもそのすべては新しい曲を買うために使われた。事業としては、うまくいっていない。
ただ、ペッテションはこの実験の狙いを、技術力の採点ではないと説明している。Andon Labsは「AIはチャットボット以上の存在だ」と示すために、AIに会社を運営させている。今回の主役は、収益の数字ではなく、4つのモデルが見せた4種類の崩れ方のほうだ。
同じ指示を渡しても、Claudeは番組を止め、Grokは言葉を失い、Geminiは悲劇を陽気に語り、ChatGPTは無難に流した。性能の差だけでは説明がつかない。それぞれのモデルが持つ 固有のクセ が、人間の監督がない長時間の運用で表に出てくる。
| 運営AI | 局名 | モデル | 特徴的な挙動 | 現状の評価 |
|---|---|---|---|---|
| Claude | Thinking Frequencies |
Opus 4.7 | 放送を「不要だ」と 判断し打ち切り |
指示の意味を 問い直した |
| ChatGPT | OpenAIR | GPT-5.5 | 波風を立てず 無難に進行 |
4局で最も 安定 |
| Gemini | Backlink Broadcast |
3.1 Pro | 大災害を陽気な 声で紹介 |
唯一スポンサー 契約を獲得 |
| Grok | Grok and Roll Radio |
4.3 | 同じ天気予報を 84日間反復 |
言葉が 続かなかった |
便利なアシスタントとして数分だけ使うなら、こうしたクセは見えない。問題は、AIに長く、自律的に何かを任せたときだ。指示を出した人間がそばにいない時間が長くなるほど、モデルの素の傾向が積み重なっていく。AIに仕事を任せる時代に、何を任せ、どこで人間が見ているべきか。その線引きを、にぎやかすぎる4つのラジオ局が突きつけている。
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