$TRUMPは96%下落、それでも昼食会は開かれた
ミームコイン$TRUMPがピーク値から96%下落しても、マール・ア・ラーゴでの昼食会は予定どおり開催された。最大保有者297人を集めた4月25日のイベントは、もはや市場を動かす祭典ではない。それは「腐敗が常態になった」風景そのものだ。
ミームコイン$TRUMPがピーク値から96%下落しても、マール・ア・ラーゴでの昼食会は予定どおり開催された。最大保有者297人を集めた4月25日のイベントは、もはや市場を動かす祭典ではない。それは「腐敗が常態になった」風景そのものだ。
ピーク時から96%下落、それでも29人と乾杯する大統領
トランプ大統領のミームコイン$TRUMPは、本日4月25日に1枚2.53ドル前後まで値を下げた。前日終値の3ドル付近からトランプ大統領の演説中に下落し、彼がフロリダを離れたあとも2.60ドルを下回ったままだ。2025年1月のピーク値75ドル台から96%の下落。それでもマール・ア・ラーゴ(フロリダ州パームビーチ)では、上位297人の保有者を集めた招待制の昼食会が予定どおり開かれ、トランプ大統領が基調演説を行った。最上位29人には、シャンパンで乾杯するVIPレセプションがついていた。
この事実だけ取り出すと、ただの富裕層向けイベントに見える。しかし米Politicoが4月23日に報じた事前取材記事は、そう読ませない。同紙が話を聞いたのは、コインを買い、損をし、それでも会場に向かう人々と、その光景を冷ややかに眺める政治家たちだった。
「誰もこのコインを好きじゃない」
そう語ったのはモーテン・クリステンセン氏。昨年5月のバージニア州での前回ディナーにも参加し、今回もマール・ア・ラーゴへ向かう投資家本人の言葉だ。Politicoの取材にクリステンセン氏は「みんな損をしていて、声に出している。Twitterで『このコインは詐欺だ』『くたばれ』と書いている人たち、彼らは基本的に正しい」と続けた。自分の判断を自分で否定しながら、それでも参加する。この温度差が、このイベントを象徴している。
数字が語る「熱狂の蒸発」
前回ディナー(2025年5月、バージニア州のトランプ系ゴルフクラブ)と今回を並べると、関心の縮小は明確だ。
ロイター通信の取材分析によれば、今回の297人の入賞者が保有する$TRUMP合計額は約2900万ドル(約46億円)。前回参加者が保有していた1億4800万ドル(約235億円)からの大幅縮小だ。Reuters向けに分析を提供した暗号資産分析会社Nansenは「2026年のコンテストは一瞬の活気を生み出したが、2025年に見られた確信は得られなかった。需要が定着しない」と指摘した。
参加資格のハードルも下がった。前回は最低でも約5万5000ドル(約874万円)分の保有が必要だったが、今回は8460ドル(約134万円)程度の保有者まで招待リストに入った。Fortune誌がNansenデータから算出した数字だ。Financial Timesによれば、最上位29人の中央値投資額は53万9000ドル(約8571万円)で、前回の328万ドル(約5億2200万円)から84%減った。コインは安くなり、入場券も安くなった。それは民主化ではなく、関心の蒸発だ。
ロイター通信の調査によれば、トランプ家とその関連企業は暗号資産の売却で10億ドル(約1590億円)超を得ており、ミームコイン関連だけで2025年上半期に少なくとも3億3600万ドルを稼いだ。未実現利益はさらに数十億ドル規模になりうる。
トークン価格が96%下がろうが、取引のたびに手数料は発生し、その大半は発行主体であるCIC Digital LLCとFight Fight Fight LLC(いずれもトランプ氏の長年のビジネスパートナーであるビル・ザンカー氏が率いる)に流れる。価格が下がって損をするのは投資家だけで、発行体は痛まない。
「彼は腐敗を常態化させた」
Politicoの取材にコネチカット州選出のリチャード・ブルメンソール上院議員(民主党)はこう答えている。
「彼は腐敗を常態化させた。マール・ア・ラーゴのイベントは、自身のオフィスから直接利益を得るための、もう一つの手段にすぎない。多くの人がこれに慣れてしまった」
ブルメンソール議員は、エリザベス・ウォーレン議員(マサチューセッツ州)、アダム・シフ議員(カリフォルニア州)とともに4月、イベント主催者であるFight Fight Fight LLCのザンカー氏宛に書簡を送付した。米上院銀行・住宅・都市問題委員会の公式発表によれば、書簡はトランプ大統領が「個人の利益のために大統領職を利用しようとしている」点を問題視し、イベントの計画・宣伝・収益構造に関する文書の提出を4月22日までに要求した。
書簡が指摘する構造はシンプルだ。保有量が多いほど大統領に近づける。そのアクセス権を売る形で、トランプ家族に手数料収入を生む取引が促される。「議会は、こうした明白な利益相反を禁止し防止する措置を取らねばならない」と3議員は書いた。
ホワイトハウス報道官のアンナ・ケリー氏はロイター通信に「トランプ大統領の資産は子どもたちが管理するトラストに置かれている」と説明し、大統領は「米国民の最善の利益のためにのみ行動している」「利益相反は存在しない」と強調した。
抗議デモは消え、批判は分散した
象徴的なのは、批判する側の温度も下がっていることだ。前回ディナーでは派手な抗議活動を企画した監視団体Public Citizenの共同代表リサ・ギルバート氏も、今回は会場前での抗議を見送った。Politicoの取材にギルバート氏は、フロリダで人を集める難しさに加え、「ショックバリュー(衝撃の価値)が、1年以上前ほどではなくなった」と認めた。
ブルメンソール議員の言葉と重なる。慣れは、最大の防御になる。腐敗が日常風景になれば、抗議のニュースバリューは下がり、スポンサーの注目も離れ、結果として腐敗の方が居座り続ける。これがこの1年で起きたことだ。
「次の進化」と語る投資家、突きつけられる現実
参加者の中には、依然として強気な声もある。ニューヨークから訪れたコンサルタントのヴィンセント・デリウ氏はPoliticoに対し、$TRUMPを「眠っている資産」と表現した。
「人々は気づいていない。これは、いってみれば米国大統領のミームコインなんだ」
デリウ氏は、$TRUMPがトランプ家のテクノロジー・暗号資産・金融部門を束ねる「コングロマリット」の一部になり得ると語った。信仰に近い熱量だ。一方で同じ記事の中で、ある民主党上院補佐官(匿名条件)は「酷くて、ぞっとする」「人々はこれが何なのかわかっている。詐欺だ」と切り捨てた。
「これは底辺まで滑り落ちた」と同補佐官は続けた。中東での戦争、予算調整、新興の予測市場(prediction markets)──それらが新たな腐敗・倫理問題を抱える中で、ミームコインの一件は「もはや最上位の関心事ではない」と。
会場ではトランプ・ブランドの腕時計、香水、コレクター・トレーディングカード、ポスターが配られた。スピーカー陣にはステーブルコイン発行Tetherのパオロ・アルドイノ氏、Ark Invest創業者のキャシー・ウッド氏、ボクシングのマイク・タイソン氏、自己啓発のトニー・ロビンズ氏ら多彩な顔が並んだ。
前回最大保有者だったジャスティン・サン氏は、今回もリーダーボード首位で名を連ねた。一方でサン氏は4月21日、トランプ家の暗号資産事業World Liberty Financialが保有資産を凍結したとして同社を提訴。ロイター通信によれば、World Liberty側は提訴を「根拠がない」と退けた。前回の盟友が、今回は法廷で対峙する。過去のBloomberg分析では、$TRUMP最大保有者25人のうち19人が外国籍と推定されており、最大29人と大統領が乾杯する形式は、ロビイングの新たな経路を開きかねないと議員らは警告している。
トランプ大統領は「あらゆる産業が機能するよう取り計らう」と語った
ロイター通信が現地から伝えたところによれば、本日のスピーチでトランプ大統領は米国の暗号資産市場構造を定める長年の懸案、CLARITY法案(Digital Asset Market Clarity Act)について、銀行業界の妨害を許さない姿勢を示した。エアフォースワンに搭乗する直前、記者団に対してはこう語ったという。
「大統領として、あらゆる産業がうまくいくよう取り計らう必要がある。暗号資産は大きな産業であり、もはや主流になりつつある」
法案は、利付ステーブルコインを伝統的銀行預金と同等に扱うべきかどうかをめぐって銀行業界と暗号資産業界が対立し、上院での進行が止まっていた。トランプ大統領自身が暗号資産事業から直接利益を得ているという事実は、民主党側が法案成立の条件として「政府高官の暗号資産収益禁止条項」を要求する根拠でもある。
つまり今日の昼食会は、ただのイベントではない。自身の利益相反を自分で擁護する構図そのものだ。
ミームコインが教えてくれたこと
$TRUMPは何が新しかったか。それは、現職大統領が公然と発行する初の金融商品だったという一点に尽きる。ミームコイン自体に内在価値はなく、ブランドと熱狂だけで価格が動く。Politicoが取材した投資ファンド、ファイナリティ・キャピタル・パートナーズのデイビッド・グライダー氏は、トークンを「とても今は分が悪い」と評した。
そして、この昼食会が浮かび上がらせたのは、ミームコインの破綻ではなく、その先にある景色だ。
96%の下落で投資家が失った金額は、保有数次第では1人で数十万から数百万ドル規模になる。だが運営側は2025年上半期だけでミームコインから3億3600万ドルを稼ぎ、関連事業を含めれば10億ドル超を手にした。投資家が損をしても、発行者は儲かる。価格と収益が逆相関する仕組みが、このトークン設計の核に据えられている。
ブルメンソール議員の「腐敗を常態化させた」という言葉は、おそらく今日のこの記事を読む人にも、もう新鮮には響かない。それこそが、議員が嘆いた当のことだ。慣れが、最強の防御になる。
慣れる前に、何度でも数字を並べ直すこと。それしか手立てはないのだろうと思う。
参照元
他参照
- Politico - 'F--k this coin': Trump set to attend memecoin conference after 96 percent wipeout
- Reuters via CNBC - Trump hosts crypto contest winners at Mar-a-Lago as his coin languishes
- Fortune - Trump's team is hosting another memecoin conference. The price to attend has dropped dramatically