パランティア社員、Slack内で「ファシズム転落」を語る

パランティアの社員たちが、社内Slackで会社の現状を語る言葉として「ファシズムへの転落」を共有し始めた。WIREDが入手した内部メッセージと取材から、外部批判ではなく内部の語彙が変質した瞬間が見える。

パランティア社員、Slack内で「ファシズム転落」を語る

パランティアの社員たちが、社内Slackで会社の現状を語る言葉として「ファシズムへの転落」を共有し始めた。WIREDが入手した内部メッセージと取材から、外部批判ではなく内部の語彙が変質した瞬間が見える。


内部から漏れ始めた一語

WIREDがまとめた取材は、パランティアという会社の輪郭を、外側ではなく内側から描き直す試みだ。同社の社員は20年にわたって、家族や友人から向けられる「あの会社で働いているのか」という違和感に晒されてきた。社名の由来はJ・R・R・トールキンが描いた、見る者を狂わせる水晶玉。皮肉混じりに語られてきたこの来歴を、社員たちはなんとか飲み込んできた。

しかしトランプ政権2期目に入って約1年、状況は変わった。ある元社員2人が電話で再会した瞬間、片方が口にした第一声は「パランティアのファシズムへの転落、追ってる?」だったという。もう一方は当時を振り返ってこう語った——「これは『不評で大変だ』という話じゃない。『これは間違っている』という感覚なんだ」。

外部の批判が内部の語彙に変わった。これが、この記事の核心だ。

ICE契約と、消えるSlackの会話

きっかけは2025年秋にさかのぼる。パランティアは国土安全保障省DHS)の下で、移民を特定・追跡し国外退去させるソフトウェアの中核を担う存在となった。同社が3000万ドルでICE向けに構築した「ImmigrationOS」は、いわばトランプ政権の移民取り締まり機構の頭脳に組み込まれた。

そして2026年1月、ミネアポリスでICEへの抗議活動の最中、看護師のアレックス・プレッティが連邦捜査官に銃撃され死亡する事件が起きた。社内Slackの「#palantir-in-the-news」チャンネルでは、この事件を起点に、社員たちがCEOアレックス・カープと経営陣に向けて、ICEとの関係についての説明を求める書き込みが噴出した。「ICE関連の関わりはトランプ2期目に入って、社内的に隠蔽されすぎている」とSlackに書き込んだ社員もいたとWIREDは伝えている。

経営陣の対応は、議論への応答というより情報の遮断に近かった。同社はこの時期に、当該チャンネルの投稿を7日後に自動削除する設定を導入した。事前の正式な告知はなく、設定変更に気づいた社員が「なぜ社内における時事問題に関する議論を消すのか」と尋ねると、サイバーセキュリティチームのメンバーは「リーク対策のためだ」と答えた。社内の言葉の流通量を増やす方向ではなく、減らす方向で経営陣は動いた。

議論を促すと言いながら、議論の痕跡を消す。社員が信頼の手がかりとして見ているのは、表向きの言葉ではなく、こうした運用の細部だ。

AMA、そして「我々は概ね失敗している」

その後、経営陣はICE契約を擁護するブログ記事を社内Wikiに公開し、最高技術責任者シャイアム・サンカーやプライバシー・市民的自由(PCL)チームによるAMA(何でも聞いてください形式の社内Q&A)を開いた。だが、社員の納得にはほど遠かった。

ICE契約に直接関わったPCL社員が2月のAMAで残したという発言を、WIREDは録音から引用している。

これは完全にローグ(独走)だった。カープは本当にこの仕事をやりたがっていて、継続して拡大したがっている。我々は彼に提案を出し、方向転換を促す立場にある。だがそれは概ね失敗しており、このワークフローを拡大し続ける極めて急峻な道筋に乗っている。

「悪意ある顧客は、現時点では基本的に防ぎようがない」とも彼は語ったという。ICEのエージェントが監査ログを削除できるのか、自社の助けなしに有害なワークフローを作れるのか——AMAで投げかけられた問いは、製品の設計思想そのものに踏み込むものだった。返ってきたのは、「事後の監査と契約違反時の法的措置」という対症療法的な答えだった。

イラン、ミナブ、Mavenシステム

事態を決定的に動かしたのは、2026年2月28日、米軍とイスラエルによるイラン攻撃の初日だった。

イラン南部のホルモズガン州ミナブにある女子小学校シャジャレ・タイエベが、隣接する革命防衛隊の海軍基地を狙ったとみられる攻撃に巻き込まれた。授業中の教室を直撃したミサイルは、専門家によって米軍のトマホーク巡航ミサイルと特定された。米紙ニューヨーク・タイムズによれば、米軍の調査は座標データの古い情報を理由とする標的設定ミスを暫定的な結論として示している。ヒューマン・ライツ・ウォッチはこの暫定結果を踏まえ、攻撃が「責任のない単純なミスでは済まされない戦時国際法違反」だと指摘した。イランメディアの報道では7〜12歳を中心に160人を超える女児が亡くなり、葬儀は165人規模で行われた。

そして、その日の作戦支援に使われたのが、パランティアのMaven Smart System(メイブン・スマート・システム)だった。同システムはAIを用いて衛星・ドローン・レーダーなど150以上のソースからデータを統合し、標的を瞬時に提示する指揮統制プラットフォームで、3月には国防総省の正式プログラム(Program of Record)に指定されている。最終的な攻撃の実行は人間が判断するが、その判断材料を組み立てるのは同社の技術だ。

ICEへの協力ですでに揺れていた社員にとって、子どもの逝去への関与の可能性は限界点だった。Slackには「根本的に聞きたいのは、我々は関与していたのか、関与していたなら再発を防ぐために何かしているのか、ということだ」という書き込みが現れた。同じスレッドで、社外秘に踏み込みかねない議論を続けることへの内部からの批判も並んだ。

製品の中立性が問われるのではない。製品が運用される現実の中で、何が起きたかが問われている。社員たちはその区別が崩れた瞬間に立ち会っている。

「キックミー」のサイン

3月、カープがCNBCのインタビューで「AIによる雇用混乱は、人文系出身の——多くは民主党支持の——有権者の力を弱め、労働者階級の男性の力を増す」と語った。社員のSlackには、「AIによる雇用混乱が女性や民主党支持者に偏って悪影響を及ぼすのが本当なら、なぜ我々はそれを平気だと思っているのか?」という問いが投稿された。

そして4月18日、パランティア公式アカウントがXに「22項目マニフェスト」を投稿した。カープと広報担当のニコラス・ザミスカによる著書『The Technological Republic』の要約で、徴兵制の再導入、文化の優劣、戦後ドイツと日本の軍事力制限の解除など、企業の発信としては明らかに政治的な内容を含んでいた。3000万件以上の閲覧と株価への即時の影響を引き起こし、批評家からは「ファシズム」と評された。

社内の反応は「+1」絵文字の連打で示された。「投稿するたびに米国外でソフトを売るのが難しくなる」「我々は自分の背中に『キックミー(蹴ってくれ)』と書いた紙を貼ったようなものだ」——複数の社員によるSlackメッセージが続いた。

「内部告発」とは違う、別の地殻変動

ここで重要なのは、パランティアの内部で起きているのが、典型的な内部告発の動きとは少し違うということだ。社員たちの大多数は辞めていないし、外部に持ち出すことを目的にメッセージを書いているわけでもない。WIREDの取材に応じた現役社員の一人はこう述べている——「カープに反対する声を上げるのを恐れているわけじゃない。声を上げて、何か変わるのか、その先が問題なんだ」。

カープ自身は揺らいでいないように見える。「自分の立場を貫いて社員を一人も失わないなら、それは立場ではない」——2024年3月のCNBCインタビューでの発言だ。最近も社員に向け、人気の面で会社は「社内ではむしろ遅れている」と語ったとWIREDは伝える。社員の不満は織り込み済みだ、という構えに近い。

内部の異論は、CEOにとって痛みではなく、むしろ立場の強さの証明として機能する。これがカープの一貫した経営哲学だ。

だからこそ、社員側に残された選択肢は限られている。声を上げ続けても会社の方向は変わらない。だが沈黙すれば「黙認した側」になる。Slackの+1絵文字は、その狭間で社員たちが見つけた、最低限の意思表示の作法にも見える。

言葉が変わるとき、何が変わるのか

「ファシズムへの転落」という言葉が、抗議の標識ではなく社員同士の電話の挨拶として使われ始めたこと——この事実が、この件で最も重みを持つ部分だと思う。

会社が外部から「ファシスト企業」と呼ばれるのと、自社の社員が同じ言葉を内部の語彙として共有するのとでは、組織の状態がまったく違う。前者は説明と反論で対処できる。後者は、社員一人ひとりが自分の仕事をどう意味づけるかという、もっと根本のレベルで起きている。

カープの「社内ではむしろ遅れている」という発言は、当面の業績を考えれば正しいのかもしれない。連邦政府の契約は拡大し続けている。しかし、長期的に「ハードな国家安全保障の問題に取り組むのは意義がある」というリクルーティングの軸が、社員自身の口で揺さぶられ始めているとしたら、その揺さぶりは静かに会社の競争力を削っていく。

社員が「自分たちは悪役なのか」と問い始めたとき、会社はその問いに答える言葉を持っているのか。試されているのは、たぶんそこだ。


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