「UNIXは誰のものか」23年目の法廷。Xinuos対IBMが控訴審へ

「UNIXは誰のものか」23年目の法廷。Xinuos対IBMが控訴審へ

UNIXの所有権をめぐる訴訟は2003年に始まり、当事者が破産し、資産が売却され、和解が成立しても終わらなかった。SCOの法的後継者Xinuos(ジヌオーエス)が控訴審の法廷に立った。


1998年の共同開発が、四半世紀の訴訟を生んだ

2026年6月22日、米連邦第2巡回区控訴裁判所で3人の判事を前に、約32分間の口頭弁論が行われた。事件番号25-1073。原告はXinuos、被告はIBM。争われているのは、1998年に始まった共同開発プロジェクトのコードを誰が使う権利を持つか、という問いだ。

この訴訟の根は深い。1998年10月、IBMとサンタクルーズ・オペレーション(SCO)はIntel、セクエントとともにプロジェクト・モンテレーを発足させた。当時Intelが開発していた64ビットアーキテクチャIA-64向けに、複数のUNIXを統合して単一のOSを作る計画だった。IBMはAIXからPOWER/PowerPC対応の技術を、SCOはUnixWareからIA-32対応の技術を、セクエントはDYNIX/ptxからマルチプロセッサ対応の技術を持ち寄った。

2001年までにプロジェクト・モンテレーは統合UNIXの完成に近づいていた。IBMとSCO双方のコードを混ぜ合わせた成果だった。

しかしその頃、Linuxが既にマルチプロセッサ上で動作していた。IBMはLinuxを将来の軸と判断し、プロジェクト・モンテレーから撤退。その後、モンテレーのコードの一部をオープンソースプロジェクトや自社のAIX、z/OSに流用したとSCOは主張した。SCOは自社のコードに対するライセンスをIBMに与えたことはないと訴え、2003年、IBMを相手取り訴訟を提起した。

SCOの破綻と「60万ドルの買い物」

SCOは2007年に経営破綻した。だが訴訟は止まらなかった。

破綻後も管財人が訴訟を資産として維持し、法廷闘争が続いた。2010年にはSCO対ノベルの陪審裁判で、UNIXの著作権はノベルが保持しているとの評決が出た。SCOの主張を支えていた前提が失われた。

2011年、SCOの事業資産が競売にかけられた。落札したのは、スティーブン・ノリス氏率いる投資グループが設立したUnXis(後のXinuos)だった。落札額は60万ドル。対抗入札は18ドルだった。

UnXisは当初、訴訟には関与しないと明言していた。2013年にXinuosへ改名した際にも、同社の社長ショーン・スナイダー(Sean Snyder)氏は、SCOに向けられた批判は経営陣に対するものであり製品に対するものではないと強調している。

SCO対IBMの本訴は2021年に和解で終結した。管財人のTSGグループ(SCOの後継法人)はIBMから1425万ドルを受け取り、Linux関連の知的財産権に対する将来の請求をすべて放棄した。IBMは非を認めていない。

Xinuosの独自訴訟と、出口を塞がれた著作権

その和解が成立する直前の2021年3月31日、Xinuosは独自の訴訟を米領ヴァージン諸島連邦地裁に提起した。IBMとRed Hatを相手取り、著作権侵害と反トラスト法違反を訴えた。

Xinuosの訴えは、SCOの訴訟とは切り口が異なっていた。1995年9月19日以降に作成されたUnixWareおよびOpenServerのコードは、ノベルからSCOへの資産売却で移転しておらず、したがってノベル対SCO裁判の判決の影響を受けない、という論理だった。プロジェクト・モンテレーで共有されたコードのうち、この時期以降にSCO(とその後継者)が書いた部分については、IBM側にライセンスは存在しないと訴えている。

2022年11月、事件はニューヨーク南部地区連邦地裁に移送された。2024年4月、キャシー・サイベル(Cathy Seibel)判事はXinuosの著作権侵害の訴えに対し、略式判決でIBMに有利な判断を下した。理由は、2011年のSCOグループからXinuosへの資産売却において、訴訟を起こす権利が移転していなかった、というものだった。

2025年4月、Xinuosは反トラスト関連の訴えをすべて取り下げた。著作権の訴えに関する略式判決への控訴権だけを保持し、事件番号25-1073として第2巡回区控訴裁判所へ上訴した。

「侵害」か「所有権」か。争点の読み替え

6月22日の口頭弁論で焦点になったのは、下級審の判断手法そのものだった。

Xinuos側は、自社が提起したのは著作権「侵害」の訴えであり、著作権の「所有権」を争っているのではないと述べた。サイベル判事がXinuosの主張を「所有権の争い」に読み替えたうえで、所有権の訴えに適用される出訴期限(3年)を当てはめて時機を逸したと判断したのは誤りだ、という論点だった。

IBM側は、下級審の判断に誤りはないと反論した。Xinuosが元々SCOのコードに対するIBMのライセンスを否定している以上、その主張の実質は著作権の帰属そのものを争っており、出訴期限の壁は正当に適用される、という立場だった。

3人の判事はXinuos側にもIBM側にも突っ込んだ質問を投げた。判事の一人がミュートを解除し忘れる場面もあった。判決の時期は未定だ。

誰が何を得るのか

仮にXinuosが控訴審で逆転し、差し戻しを勝ち取ったとしても、それは「著作権侵害の訴えを審理する機会」を得るにすぎない。侵害の有無そのものは、その先の裁判で改めて争われることになる。

23年前にSCOがIBMを訴えた時、Linuxの存続そのものが脅かされているように見えた。IBMのUNIXライセンスを無効にできれば、LinuxにはSCOの知的財産が不法に流れ込んでいることになり、その先にはLinuxの商用利用者すべてからライセンス料を徴収できる可能性が開けるはずだった。

2026年の現在、その前提はもう存在しない。SCO対ノベルの裁判で著作権の帰属はノベル側にあるとの判断が確定し、SCO対IBMは和解で終結した。Xinuosの訴えはプロジェクト・モンテレーのコードに対する著作権侵害に限定されており、Linuxのコードベースそのものに対する請求は含まれていない。

Xinuosが今も販売しているUnixWare 7やOpenServer 5/6の顧客は、既存のハードウェアで32ビットの業務アプリケーションを動かし続けている層が中心だ。仮想化基盤のサポート状況を含め、移行先を探す動きが続いている。訴訟で勝てば得られるかもしれない賠償金が、同社にとっては縮小する顧客基盤に代わる収入源になりうる。

「UNIXは誰のものか」訴訟の経緯
1998年
プロジェクト・モンテレー発足
IBMとSCOが統合UNIX開発で提携
2003年
SCO対IBM訴訟の提起
SCOがIBMを相手に10億ドル超の訴訟
2007年
SCO経営破綻
破産法チャプター11申請
2010年
SCO対ノベル陪審評決
UNIXの著作権はノベルにあるとの評決
2011年
UnXisがSCO資産を落札
落札額60万ドル。対抗入札は18ドル
2021年
SCO対IBM和解
TSGグループがIBMから1425万ドルで和解
2021年3月
Xinuosが独自訴訟を提起
IBMとRed Hatを著作権侵害で提訴
2024年
略式判決でIBM勝訴
著作権の訴えで略式判決。IBM勝訴
2025年
反トラスト取り下げ、控訴
反トラスト訴えを取り下げ、著作権のみで控訴
2026年6月
控訴審口頭弁論
第2巡回区控訴裁判所で約32分間の口頭弁論
※事件番号25-1073。判決時期は未定

UNIXの所有権をめぐる法廷闘争は、原告の名前と法的理論を変えながら、四半世紀を生き延びている。

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