Copilot有料2000万シート、Microsoftの反論

Copilot有料2000万シート、Microsoftの反論
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Copilotなんて誰も使っていない」という空気の中、Microsoftが決算で数字を並べ始めた。有料2000万シート、Outlookと同等の週次利用。販売と実利用の溝は埋まったのか。


「2000万シート」という反撃

Microsoftが2026年4月29日(米国時間)に発表したFY26 Q3決算は、AI関連事業の数字を全面に押し出すものになった。

サティア・ナデラ(Satya Nadella)CEOが投資家向けカンファレンスコールで明かしたのは、Microsoft 365 Copilotの有料エンタープライズシート数が 2000万に到達 したという事実だ。1月時点の1500万から3か月で500万を上乗せした計算で、新規シート追加は前年同期比250%増。AI事業全体の年間収益ランレートは370億ドル(約5兆9200億円)、こちらも前年同期比123%増という規模感だ。

Copilotユーザー1人あたりのクエリ数は、四半期ベースで20%近く増加した。週次のエンゲージメントは今やOutlookと同水準にある。これは日常の習慣として、強度の高い使われ方に到達したということだ。(ナデラCEO、決算電話会議)

数字だけ見れば、AIアシスタントが企業の業務インフラに組み込まれつつあるという解釈ができる。だが、この発表は別の文脈を抜きに読むと意味を取り違える。Microsoftが今「使われている」と強調しなければならない事情こそが、この記事の核心だ。

「誰も使っていない」という根強い空気

直近数か月、英語圏のテックメディアではCopilotに対する強い逆風が続いていた。TechCrunchがこの記事の冒頭で「lingering perception that no one really uses Copilot」(Copilotなんて誰も使っていないのではという、しつこく残る印象)と書いたのは誇張ではない。

象徴的だったのは、Microsoftが消費者向けCopilotの利用規約に「entertainment purposes only」(娯楽目的のみ)、重要な助言には依存するなと明記していた件だ。Copilotを企業顧客に強く売り込んできた当の会社が、自社製品に対して「重要な判断には頼るな」と注意書きしている矛盾に、SNS上では失笑と批判が広がった。Microsoft広報は古い文言を改訂すると回答したが、ブランド毀損は止まらなかった。

そしてもう一つの逆風が、Windows 11への過剰なAI統合に対する反発だ。ネット上では 「Microslop」 という造語が広まり、メモ帳、切り取りツール、フォト、ペイントといった標準アプリにまで Copilotの導線が押し込まれる現状に、ユーザーが疲弊していた。Microslopは「Microsoft」と「AI slop」(AIが吐き出す粗悪な出力)を組み合わせた揶揄で、AI機能の押し売りに対する英語圏での集合的な不快感を表す語として定着しつつある。Microsoft自身も3月、これらアプリでのCopilot機能を縮小すると発表せざるを得なかった。

Microsoftは実際の利用ではなく、AI機能付きライセンスの「数」を四半期売上に計上してきた。これがCopilotの押し売りを助長している。(InfoWorld、2026年2月)

米連邦取引委員会(FTC)はこうした「Copilotの抱き合わせ販売」が反トラスト法上の問題に当たらないかの調査に動いている。Microsoftの株価は、1〜3月の四半期に2008年以来最悪の値動きを記録し、年初から12%下落していた。今回の決算は、そうした逆風の中で「やはり使われている」と数字で示し直す必要があった発表だった。


数字の中身を分解する

ではナデラCEOが提示した数字をどう読むか。3つに分けて見ていく。

「2000万シート」の意味

2000万という数字はMicrosoftの巨大なベースから見ればまだ小さい。同社は1月のFY26 Q2決算で、Microsoft 365の商用有料シートが4億5000万を超えたと公表しており、Copilotを契約しているのはそのうち約4%に過ぎない。1月時点では1500万シート(3.3%)だったため、3か月で1ポイント上昇したことになる。一方で前年同期比250%増という伸びは事実であり、特に5万シート以上を契約する大企業の数が4倍に増えたという指摘も無視できない。バイエル、ジョンソン・エンド・ジョンソン、メルセデス、ロシュがそれぞれ 9万シート超 を契約しているとナデラ氏は名指しした。

Microsoft 365 商用シート4億5000万のうち、Copilot有料は約4%
約4% 2000万 / 4億5000万シート
Copilot有料 2000万シート
M365 商用全体 4億5000万シート
※ Microsoft 365商用有料シート数はFY26 Q2(2026年1月)時点の公表値。Copilot有料シート2000万はFY26 Q3(2026年4月29日)決算電話会議でのナデラCEO発言による。

そして、4月27日に発表されたアクセンチュア(Accenture)との 74万3000シート 契約。これはMicrosoft史上最大のCopilot契約となる。アクセンチュア自身の社内データでは、20万人ユーザーの月次アクティブ利用率が89%、84%が「もしCopilotがなくなったら強く惜しむ」と回答した。タスクが最大15倍速く片付いたとする社員は97%、生産性向上を実感した社員は53%だ。

大口契約企業のCopilotシート数(社員規模別)
アクセンチュア 74万3000
バイエル 9万超
ジョンソン・エンド・ジョンソン 9万超
メルセデス 9万超
ロシュ 9万超
※ アクセンチュアは2026年4月27日発表のMicrosoft史上最大のCopilot契約。他4社はナデラCEOが「9万シート以上」と名指ししたが具体数値は非公表。バーは比較目安。

ただしここで注意したいのは、こうした大型契約の発表が「シートの販売」を意味するのか「実際の活用」を意味するのかは別問題だ、という点だ。コンサルファームであるアクセンチュアにとってCopilotは商材でもある。「我々はAIを使いこなす」と社員データで示すことが、自社のブランド構築と顧客への営業ツールに直結する。一般的なバイエル工場の作業員やJ&J研究所の研究員が、毎日WordでCopilotを起動しているかどうかは、これとは違う問いになる。

「Outlookと同等のエンゲージメント」の重み

ナデラCEOが発したフレーズで最も重いのは、シート数ではなく週次エンゲージメントOutlook並み という主張のほうだ。これが事実なら、Copilotはもはや実験段階を抜けて業務インフラの位置に来たことになる。

裏付けとして示されているのが、4月22日に一般提供開始(GA)となったWord、Excel、PowerPointのAgent modeだ。Microsoftの公式ブログによれば、過去1か月のデータでWordのエンゲージメント(ユーザー1人あたりの週次試行回数)は52%増、Excelは67%増、PowerPointは11%増を記録している。新規ユーザーのリテンションも、Excelで50%増、PowerPointで36%増だった。

Agent mode一般提供後1か月の変化率(Microsoft公式)
アプリ エンゲージメント 新規ユーザーの定着
Word +52% +11%
Excel +67% +50%
PowerPoint +11% +36%
※ 出典:Microsoft 365 Blog「Copilot's agentic capabilities in Word, Excel, and PowerPoint are generally available」(2026年4月22日)。エンゲージメントはユーザー1人あたり週次試行回数の前月比。

Agent modeは、Copilotが文書内で多段階のアクションを直接実行する仕組みで、「答えるだけ」から「やってくれる」への転換点を意味する。Microsoft 365プロダクト統括のスミット・チョウハン氏は公式ブログで、初期のCopilotは命令に応じて文書を直接編集する力が不足していたが、過去1年で各モデルの指示追従と推論が向上し、ようやく真の協働者として機能するようになったと振り返っている。

「Copilotは特定モデル依存ではない」という宣言

3つ目の数字以外のメッセージとして、ナデラCEOはOpenAI依存からの脱却を強調した。Copilotではデフォルトで複数モデルにアクセスでき、エージェント内でintelligent auto routingが働く、複数モデルを組み合わせて最適な応答を生成できる、という説明だ。

実際、Microsoft 365はAnthropicClaudeも公式にサポートしている。これは、OpenAIへの過剰依存というリスクをMicrosoftが意識し、自社のCopilotブランドを モデル中立のプラットフォーム として位置づけ直そうとする戦略的シフトだ。4月27日にはMicrosoftとOpenAIが提携契約を再交渉し、両社の独占関係が解消された。これによりOpenAIは他のクラウド事業者にも自社製品を販売できるようになり、Microsoftも特定モデルへの依存を緩める道筋を得た。


それでもユーザーレビューは厳しい

Microsoftの公式数字とは別に、エンドユーザーの肌感覚は依然として冷ややかだ。Copilotの消費者向けレビューサイトTrustpilotには、テンプレートやスタイルを記憶しない、Excelで簡単な数式を間違える、SharePointのファイルを「アクセスできません」と返してくる、といった具体的な不満が積み上がっている。

私の会社が辞めてくれることを心の底から願う。何度言ってもテンプレも文体も覚えてくれないし、やめてと頼んでも出力に勝手に太字とダッシュを混ぜてくる。(Trustpilotレビューより)

「絶対にゴミだ」といった、率直すぎる怒りの声も少なくない。これは2000万シートの分母に含まれるユーザーの一部の声だ、ということになる。

ここに、Copilotという製品の本質的な難しさがある。 シート配布と価値実感は別物 だ。企業のIT部門が全社員に展開しても、現場が使わなければエンゲージメント数字は上がらない。逆に、エンゲージメントがOutlook並みまで来たという主張が事実なら、ユーザーの個別の不満は、それでも使い続ける人々の存在に裏打ちされていることになる。

両方が同時に真でありうる、という点が、Copilotという市場現象を読み解く際のポイントだ。

数字と物語の距離

決算という場で語られる数字は、その時点での企業の物語を形作る素材だ。2000万シート、250%増、Outlook同水準のエンゲージメント、Agent modeのGA、アクセンチュアの74万3000シート。これらを横並びに置くと、Microsoftが描きたいのは「初期の混乱期は終わり、Copilotは成熟段階に入った」という筋書きだ。

一方で、Microslop呼ばわり、FTC調査、Trustpilotレビュー、Windows 11からのCopilot縮小、これらが描く物語は「過剰な押し売りの末の限界」だ。両方の物語のどちらが10年後に正解だったかは、今は分からない。

ただ、一つだけ確かなことがある。Microsoftは決算でAIの数字を語り続けることにコミットした以上、毎四半期この数字を伸ばし続けねばならず、伸びが止まれば株式市場はそれを「頭打ち」と読む。AI事業は370億ドルランレートで123%成長を維持できるのか、シート販売の勢いがいつまで続くのか、エンゲージメントが本当にOutlook水準を維持するのか。次の決算が来る頃には、また別の数字が用意されているはずだ。

2000万シートの内側で、本当に何人が今日Copilotを開いたのか。それを知っているのはMicrosoft自身と、画面の前にいるユーザーだけだ。


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