EA、550億ドル買収が完了。180億ドルの負債と年7億ドルの削減計画
エレクトロニック・アーツが37年ぶりに株式市場から姿を消した。史上最大の買い物は180億ドルの借金を残し、その返済のために大規模な人員削減が始まろうとしている。
エレクトロニック・アーツが37年ぶりに株式市場から姿を消した。史上最大の買い物は180億ドルの借金を残し、その返済のために大規模な人員削減が始まろうとしている。
買収完了
エレクトロニック・アーツ(Electronic Arts、以下EA)は現地時間8月4日、サウジアラビアの政府系ファンドPIF(パブリック・インベストメント・ファンド)、米投資会社シルバーレイク(Silver Lake)、ジャレッド・クシュナー(Jared Kushner)氏が率いるアフィニティ・パートナーズ(Affinity Partners)の3者による買収が完了したと発表した。
株主には1株あたり210ドルが現金で支払われ、EA株はナスダック市場での取引を終えた。1989年の上場から37年。EA Sports FC、Battlefield、The Sims、Apex Legendsを擁する世界最大級のゲームパブリッシャーが、非公開企業に戻った。
総額550億ドル。買収資金の大部分を借入で賄うレバレッジド・バイアウト(LBO)にあたり、2007年のテキサス州電力会社TXUの450億ドルを上回る史上最大の規模になった。
持分比率はPIFが93.4%、シルバーレイクが5.5%、アフィニティ・パートナーズが1.1%。EAの9割超をPIFが握る。アンドリュー・ウィルソン(Andrew Wilson)CEOは留任し、本社もカリフォルニア州レッドウッドシティに置かれる。
ウィルソンCEOは買収完了にあたり、こう述べた。
私たちはビジョンと志を共有するパートナーとともに、力強い立場からこの新章に入る。大胆に投資し、革新を加速させ、何億人ものプレイヤーとファンに向けた次世代のゲームと体験を構築する
180億ドルの重荷
買収資金は投資家連合による約360億ドルの出資と、JPモルガンを主幹事とする約200億ドルの負債調達からなる。このうち約180億ドルの負債がEAの帳簿に載った。
Bloombergのジェイソン・シュライアー(Jason Schreier)記者がBlueskyに投稿した内容によると、年間の利払いは約18億ドルに達する。
EAのEBITDA(利払い・税引き・償却前利益。企業が本業で稼ぐ現金の目安)は約15億ドル。本業の稼ぎだけでは利払いが賄えない。
EAは債務投資家に対し、年間7億ドルのコスト削減計画を提示しているという。うち1億7000万ドルが「組織効率化」にあたる。
シュライアー氏はこう言い切っている。「つまり大規模レイオフだ」
すでに始まっていた削減
レイオフは買収完了を待たずに始まっていた。
EAは2025年に300〜400名を削減した。Apex Legendsの開発元Respawn Entertainmentだけで約100名が対象になり、未発表だったTitanfallの新作も中止されている。
2026年3月にはBattlefieldの開発を担う4スタジオ(Criterion、DICE、Motive、Ripple Effect)でも人員整理が行われた。
とりわけ不安の声が上がっているのがBioWareだ。Dragon Age: The Veilguardの販売がEAの想定の約半分にとどまり、2025年1月の再編で100名以上が削減された結果、現在のスタッフは100名を下回るとされる。
2025年9月 550億ドルの買収合意を発表 PIF・シルバーレイク・アフィニティの3者。1株210ドル 12月 株主承認(賛成99%) 12月22日の臨時株主総会で可決 2025年 300〜400名を削減 Respawnで約100名。Titanfall新作も中止 2025年1月 BioWare再編で100名以上を削減 スタッフが100名を下回る規模に 2026年3月 BFスタジオ4か所で人員整理 Criterion・DICE・Motive・Ripple Effect 7月30日 全規制当局の承認取得 CFIUS・欧州委員会を含む全承認を取得 8月4日 買収完了。ナスダック上場廃止 PIF 93.4%・シルバーレイク5.5%・アフィニティ1.1% 8月5日 年7億ドルの削減計画が明らかに うち1.7億ドルが「組織効率化」。180億ドルの負債、年間利払い18億ドル |
次のMass Effectの開発が進行中だが、180億ドルの負債を抱えた新体制が長期開発のシングルプレイヤーRPGに投資を続けるかどうかは見えていない。
ゲーム業界アナリストのリース・エリオット氏は、「利益を生むスポーツゲーム以外は安全ではない。2億ドルのRPGチームを維持する理由を、コスト削減の担当者は問うだろう」との見方を示している。
借金を返す会社
買収発表前のEAは業績好調だった。2026年度の純収入は約75億ドル。Battlefield 6は2025年10月の発売後、その年のシューターカテゴリで最高の売上を記録した。EA Sports FCとApex Legendsも堅調で、営業キャッシュフローは前年比23%増の25億ドルを超えている。
苦境にある企業を救済する買収ではなかった。好業績の企業を、借入主体のLBOで非公開化した。そして、その借入の重さを埋めるために人を切る。LBOではよくある帰結であり、EAに限った話ではない。
だが、EAの場合は規模が違う。年間利払い18億ドル、EBITDA15億ドル。本業の利益がそのまま利払いに消え、なお3億ドル足りない。足りない分を埋めるには稼ぎを増やすか、コストを削るか。550億ドルの買収を決断した以上、両方を同時にやるしかない。
年間7億ドルの削減が計画通り実行されれば、EBITDA15億ドルにコスト削減分7億ドルを足した22億ドルで、利払い18億ドルを辛うじてカバーできる。だがその7億ドルは、開発者の給与やスタジオの維持費から出てくる。
ウィルソンCEOは「大胆に投資する」と言った。しかし投資の原資は、まず負債の利払いに充てられる。残った分で何をつくるのかを決めるのは、もう株主総会ではない。サウジアラビアの政府系ファンドだ。
EAがゲームをつくる会社であり続けられるかどうかは、借金を返しながら何を残すかにかかっている。