EA「AIで創造性が上がった」その10日後に3度目の解雇
EAの幹部が「AIの導入で退屈な仕事が減り、スタジオの創造性が上がった」と語ったのは6月8日。その10日後、同じ会社で2026年3度目のレイオフが始まった。カスタマーサポート、IT、採用部門。10年以上在籍したベテランも含まれていた。開発者の64%はAIが創造性を損なうと答えている。幹部の言葉とは正反対の数字だ。
何を語ったのか
ローラ・ミーレ(Laura Miele)氏。EAに30年近く在籍するベテラン幹部で、6月8日時点ではEAエンターテインメント担当社長を務めていた。Summer Game Fest内のGame Business Liveで、司会のクリストファー・ドリング(Christopher Dring)氏に「AIツールは開発サイクルを短くするか」と聞かれ、こう答えた。「一部ではそうなるだろう。自分の目で見たものを、本当に信じている」。AIがパイプラインやツールから「摩擦」を取り除いた結果、プロトタイピングは速くなり、クリエイティブな議論にかかる時間も縮まったという。退屈な作業が減ったことで「創造性が本当に上がったと思う」。
スピーチの翌日にあたる6月9日、EAは組織改編を発表した。ミーレ氏はスタジオを統括する立場から新設のエンタープライズ開発担当社長に移り、スタジオの監督はカム・ウェーバー(Cam Weber)氏が引き継いだ。新たな役割はウィルソンCEOと連携してゲーム事業の外にある成長機会を探ることだとEAは説明している。
スピーチから10日後の現実
6月18日、業界関係者がEAで新たなレイオフが始まったと伝えた。初期段階は小規模とされたが、対象は複数の部門にまたがっていた。その後の報道で具体像が見えてきた。カスタマーサポート、Trust & Safety(オンラインロビーの不正行為や嫌がらせを監視するチーム)、IT、採用の各部門。米国とインド・ハイデラバードの両拠点にまたがり、10年以上在籍した社員にも通知が届いたという。EAは正式な人数を公表していない。
2026年だけでEAは3度の人員削減を行っている。2月に『Skate』を開発するFull Circle、3月にBattlefieldスタジオ群(DICE、Criterion、Ripple Effect、Motive)で約300人、そして6月の今回だ。背景にあるのは、PIF・Silver Lake・Affinity Partnersによる約8兆9000億円(550億ドル)の買収で、EU独禁法審査の期限は7月22日に迫っている。昨年10月の社内タウンホールで経営陣は「すぐに大規模なリストラはない」と伝えていた。8か月で3度の人員削減が、その言葉を上書きした。
現場とプレイヤーの目線
ミーレ氏のスピーチには具体例がなかった。どのスタジオで、何のプロジェクトで、AIがどう創造性を押し上げたのか。「摩擦の除去」「退屈の削減」という抽象的なフレーズを繰り返すばかりだった。
4月のiicon(ゲーム業界カンファレンス)でアンドリュー・ウィルソン(Andrew Wilson)CEOは「QA作業の85%をAIが処理しているが、人員は過去最多だ」と語っていた。だがその前後でEAは人を切り続けている。3月にBattlefieldの全スタジオ、6月にはサポートやTrust & Safety。「過去最多」がいつ時点の何を指すのか、定義そのものが揺れている。
2月 Full Circle人員削減 『Skate』開発スタジオ 3月 Battlefield全スタジオ約300人削減 DICE、Criterion、Ripple Effect、Motive 4月 ウィルソンCEO(iicon) 「QAの85%をAIが処理、人員は過去最多」 6月8日 ミーレ氏(SGF) 「AIで創造性が上がった」 6月18日 3度目のレイオフ開始 サポート・IT・採用、ベテランも対象 |
同じ時期に出た調査データは、幹部の言葉とは正反対の数字が並ぶ。Skillsearchの2026年ゲーム業界調査では開発者の64%がAIは創造性に悪影響と答え、44%が業界を離れることを検討している。GDC 2026の業界調査でAIがポジティブだと答えたのはわずか7%。前年の13%から半減した。
プレイヤーの反応も厳しい。Game Oracleが2025年1月〜10月にSteamで発売された約1万本を分析したところ、AIの使用を開示したゲームは、開示のないゲームに比べレビュー数が約53%少なかった。開発者の経験やパブリッシャーの有無、ジャンルを統計的に制御した上での数字だ。大手スタジオほど影響は深刻で、売上にして40〜60%の減少に相当すると推計されている。
資金・人材・経験が十分にあるスタジオに対して、プレイヤーはより多くの「人の手」を期待しているのかもしれない
この調査はそう指摘する。EAのような大手がAIで「創造性が上がった」と語るほど、プレイヤーの購買行動との溝は広がりかねない。
「退屈な仕事」は誰の仕事だったか
ミーレ氏が「消えた」と語る退屈な仕事は、QAテスト、カスタマーサポート、バグ報告の仕分け。それを退屈と呼ぶのは経営の視点であって、その作業で生計を立てていた人の視点ではない。
ゲーム業界は2022年以降、世界で3万人超の雇用を失った。2026年に入ってからもEAだけでなくEpic Games、Microsoft、Ubisoftで解雇やスタジオ閉鎖が相次ぎ、夏にはさらに大規模な人員削減が予告されている。AIが「仕事を奪うのではなく拡張する」という言葉を経営者が繰り返すたびに、裏で消えていく職種のリストは長くなっていく。
AIがプロトタイピングを速くし、特定の工程を効率化すること自体は事実だろう。だが「創造性が上がった」という主張には、それが何の創造性か、誰にとっての話かという問いが付いてくる。退屈な作業を引き受けていた人がいなくなって、残った人の仕事が「創造的」に見えるようになっただけなのか。それともゲームそのものが変わったのか。スピーチにはその区別がない。
買収が完了すれば、新しい株主はAI効率化の成果を数字で求める。「創造性」という曖昧な言葉は、いずれ「何人減らしたか」に読み替えられるだろう。ステージの上から聞こえる声と、オフィスから届く声。二つの物語の距離が、同じ会社の中で広がり続けている。
参照元
他参照
EA - Electronic Arts Announces Leadership Updates (June 9, 2026)
Game Oracle - AI in Games: The Impact On Sales