フロリダ州、ChatGPTを「公的迷惑」と認定するよう求める。OpenAIは州の陪審裁判を回避中
フロリダ州がOpenAIとサム・アルトマン(Sam Altman)CEOを相手取った訴訟は、どちらの裁判所で審理するかという管轄権争いの段階で止まっている。Metaに9.4億ドルの制裁を生んだ法理論で、次の標的はAIチャットボットになった。
フロリダ州がOpenAIとサム・アルトマン(Sam Altman)CEOを相手取った訴訟は、どちらの裁判所で審理するかという管轄権争いの段階で止まっている。Metaに9.4億ドルの制裁を生んだ法理論で、次の標的はAIチャットボットになった。
7週間、判断が出ない
フロリダ州が現地時間6月1日にハイランズ郡の州巡回裁判所へ提出した訴状は83ページ、訴因は10件。フロリダ州法だけに基づき、アルトマン氏を個人として被告に指名し、陪審裁判を求めている。州としてOpenAIを訴えたのは全米で初めての事例だった。
OpenAIは7月2日、この訴訟を連邦裁判所へ移送した。訴因の一つが連邦法であるCOPPA(児童オンラインプライバシー保護法)に触れているため、全体が連邦管轄に属するという主張による。
この移送の是非を判断するのが、フォートピアスの連邦地裁判事アイリーン・キャノン(Aileen Cannon)氏。トランプ大統領による2020年の任命で、機密文書事件の起訴棄却などトランプ氏に有利な判断で知られる人物だが、フロリダ州が7月10日に提出した差し戻し申立てに対し、7週間にわたって判断を下していない。弁論は7月31日にすべて終結している。
フロリダ州は差し戻し申立ての中で、OpenAIの移送を「preposterous(馬鹿げている)」と呼び、目的は単なる「delay(遅延)」にすぎないと主張した。
OpenAI側の反論はこうなる。訴因IVはフロリダ州欺瞞的・不公正取引慣行法(FDUTPA)の違反を問うものだが、その中身は13歳未満の子どものデータを保護者の同意なく収集したという、連邦法COPPAの要件に基づく主張である。OpenAIは、COPPAをAIサービスに適用するのは連邦法上の新しい問題であり、15 U.S.C. §6504(合衆国法典第15編第6504条)が州司法長官によるCOPPA執行の場を連邦裁判所に限定していると主張している。
訴状の第30段落は、連邦の訴因を一切主張しないと明示的に宣言している。フロリダ州は「州法だけで戦う」という意思を最初から示していた。
Metaの9.4億ドルが示す射程
この管轄権争いが宙に浮いている間に、フロリダ州にとって強力な先例が生まれた。
ニューメキシコ州がMeta(FacebookとInstagramの親会社)を相手取った訴訟で、2026年3月に陪審がニューメキシコ州不公正取引慣行法の75,000件の違反を認定し、3億7,500万ドルの民事制裁金を命じた。続いて8月6日、ブライアン・ビードシャイト(Bryan Biedscheid)判事がMetaのプラットフォームを「公的迷惑」と認定。是正基金として5億6,700万ドルの支払いを命じ、制裁総額は9億4,200万ドルに達した。
ソーシャルメディア企業が公的迷惑と認定されたのは、この判決が初めてとみられる。判事はMetaのプラットフォームを「工場」に、コンテンツを「生産物」に、子どもへの心理的被害を「公害」にたとえ、Metaに是正義務があると結論づけた。
フロリダ州はまさにこの公的迷惑の法理をChatGPTに適用しようとしている。求めているのは、13歳未満のデータ収集に対する恒久的差止命令と、ChatGPTのフロリダ州内での提供そのものが公的迷惑であるという司法判断。
数字の規模感がニューメキシコを上回る可能性がある。フロリダ州法では故意の違反1件あたり最大1万ドルの民事制裁金を科せる。ニューメキシコの上限は5,000ドルであり、フロリダはその2倍になる。ニューメキシコの陪審が認定した違反件数がそのまま当てはまる保証はないが、同規模の違反が認定されれば、制裁金だけで7億5,000万ドルに膨らむ計算になる。
| ニューメキシコ (Meta) | フロリダ (OpenAI) | |
|---|---|---|
| 対象 | Facebook・Instagram | ChatGPT |
| 1件の上限 | 5,000ドル | 1万ドル |
| 違反件数 | 75,000件 | 未審理 |
| 制裁金 | 3.75億ドル | 未定 |
| 是正基金 | 5.67億ドル | 未定 |
| 合計 | 9.42億ドル (約1,500億円) | 未定 |
| 状況 | 8月確定 | 管轄権争い中 |
OpenAIにとって皮肉なのは、自らの書面が引用した先例が自らの立場を弱めている点にある。OpenAIの差し戻し反対書面は、New Mexico v. Meta、California v. TikTok、New Jersey v. Discordの3件を引用した。いずれも州法に基づく訴訟を被告が連邦裁判所に移送し、連邦判事が州に差し戻した事例。OpenAIがこれらを引いた目的は、移送が「objectively unreasonable(客観的に不合理)」ではなかったから手数料が課されなかった、という一点だけを示すためだった。過去にこの論法を試みた企業がことごとく差し戻されている事実は、読み手の目にはOpenAI側の苦しさとして映る。
アルトマン氏個人についても動きがある。すべての連邦裁判所への提出書類の脚注に、「一般的な出頭をしていない(is not making a general appearance)」とし、対人管轄権の抗弁を留保する旨が記されている。この留保は、訴訟がどちらの裁判所で審理されようとも、アルトマン氏個人に対する訴えの却下を求める申立ての布石となる。
IPO前、法的包囲網は重なる
フロリダの訴訟は孤立した出来事ではない。
4月 刑事捜査を開始 フロリダ州立大学銃撃事件へのChatGPT関与の疑い 5月18日 マスク対アルトマン裁判が決着 出訴期限切れでマスク氏全面敗訴。法廷記録は公開に 6月1日 フロリダ州がOpenAIを提訴 州法のみ10訴因。アルトマン氏個人も被告 6月8日 OpenAIがIPO申請 SECにS-1を秘密裏に提出 6月12日 42州が召喚状を送達 広告・データ・未成年者対応など広範な記録を要求 7月2日 OpenAIが連邦裁へ移送 COPPA(児童プライバシー法)の連邦管轄を主張 8月6日 ニューメキシコがMetaに9.42億ドル 公的迷惑認定の先例が確立 8月現在 キャノン判事、7週間判断なし 州への差し戻しが焦点 |
OpenAIが6月8日にSEC(米証券取引委員会)へIPO(新規株式公開)のS-1(登録届出書)を秘密裏に提出したわずか4日後の6月12日、42州の司法長官連合がOpenAIに召喚状を送達した。ニューヨーク州司法長官レティシア・ジェームズ(Letitia James)氏が連合を代表し、広告慣行、ユーザーエンゲージメント、消費者データ・健康データの取り扱い、未成年者・高齢者への対応、モデルの迎合性(sycophancy、ユーザーに迎合して正確性より好まれる回答を返す傾向)、内部方針に関する記録の提出を求めている。
この規模の捜査はSECへの登録届出書に重要な法的リスクとして開示する義務が生じる。IPO評価額は8,520億ドルから最大1兆ドルと報じられており、42州の捜査とフロリダの訴訟は、上場準備と同時進行で進んでいる。
フロリダ州の訴訟が依拠する証拠の一部は、5月のマスク対アルトマン裁判(Musk v. Altman)で公開記録に入った。この裁判はマスク氏の出訴期限切れを理由に全面敗訴で終わったが、法廷で公開された証拠そのものは消えない。OpenAI共同創業者グレッグ・ブロックマン(Greg Brockman)氏の個人日記には、2017年時点で「10億ドルに届くには何が必要か」と記された箇所がある。元取締役ターシャ・マッコーリー(Tasha McCauley)氏は、アルトマン氏のもとに「toxic culture of lying(嘘の有害な文化)」があったと証言した。
訴状はさらに、ChatGPTのメモリ機能が初期設定で有効だったこと、無料プランに年齢確認がないこと、2025年9月に導入された保護者向けコントロールが任意のアカウント連携を前提としていること、そしてGPT-4oの安全性評価がGoogleの発表に対抗するために1週間に圧縮されたことを主張している。
42州の召喚状はまだ訴訟には至っていない。だがフロリダ州はすでに訴えを起こし、さらに4月から別途進めている刑事捜査(2025年のフロリダ州立大学銃撃事件にChatGPTが関与した疑い)も並行している。
ニューメキシコの判決が確立した公的迷惑の法理論をフロリダがChatGPTに転用できるかどうかは、まずキャノン判事がこの訴訟を州に差し戻すかどうかにかかっている。差し戻されれば、OpenAIはフロリダの州陪審の前に立つことになる。