OpenAI、IPOを2027年に延期か。1兆ドルの壁
6月8日に機密S-1を提出したばかりのOpenAIが、IPOの延期を検討している。2026年内の上場を目指していた計画は、わずか2週間で揺らいだ。
SpaceXが見せた「その後」
きっかけはSpaceXだった。
6月12日にNASDAQへ上場したSpaceXは、850億ドル以上を調達し、時価総額は一時2兆ドルを超えた。史上最大のIPO。だが株価は上場後わずか4日で天井をつけ、6月16日の225.64ドルから急落。6月26日時点では153ドル付近で推移している。上場時の公開価格135ドルに対してかろうじてプラスを保っているだけだ。
この急落が、OpenAIのアドバイザーを動かした。
関係者3名の証言として報じられた内容によれば、アドバイザーはこの1週間でアルトマン(Sam Altman)氏に対し、現在の市場環境では個人投資家の買い意欲が集まりにくいと警告した。テック株全体が下落基調にあり、AI企業の評価額に対する疑念も広がっている。
「1兆ドル」に退路はない
アドバイザーが示した選択肢は二つ。2027年まで待ち、市場が安定してから1兆ドルの評価額で上場する。あるいは評価額を下げて、2026年中に上場を強行する。
アルトマン氏の回答は明確だったという。1兆ドルの引き下げは受け入れられない、と。
OpenAIは3月の資金調達ラウンドで8520億ドルの評価を受けた。1兆ドルは最低ラインではなく、到達すべき目標だ。だが直近の未公開評価額が7300億ドルから8520億ドルの間であることを考えると、公開市場で1兆ドルを正当化するには、投資家が「プレミアム」を支払う理由が必要になる。
数字は伸びている。しかし
OpenAIの事業規模は確かに拡大している。月間売上は20億ドルに達し、2025年の年間売上は約130億ドルだったとされる。今年は3倍の成長を目指しているという。
ただ、ChatGPTの週間アクティブユーザー数は約9億人で横ばいが続いている。急成長期を過ぎた成熟の兆しだ。さらにOpenAIは黒字化に至っておらず、その見通しは2030年とされている。データセンターへの巨額投資が続く中、1ドルの売上に対して1ドル以上のコストがかかる構造は変わっていない。
| OpenAI | Anthropic | |
|---|---|---|
| 評価額 | 8520億ドル | 9650億ドル |
| 年換算売上 | 約240億ドル | 470億ドル |
| S-1提出 | 6月8日 | 6月1日 |
| 黒字化見通し | 2030年 | 2028年目標 |
ライバルも迫っている。Anthropicは5月のシリーズHで評価額9650億ドルに達し、OpenAIを初めて上回った。6月1日にはOpenAIに先駆けてSECに機密S-1を提出しており、年換算の売上も470億ドルとOpenAIの約2倍。エンタープライズ市場ではAnthropicのClaude Codeが先行し、OpenAIは追う立場に回っている。GoogleのGeminiも消費者向けで存在感を増しており、OpenAIのCFOであるサラ・フライヤー(Sarah Friar)氏は以前からIPO時期に慎重な姿勢を示してきたとされる。
待てるのか
延期にはリスクがある。
2027年まで待つということは、Anthropicに先行上場を許す可能性が高いということだ。先に公開市場に出た企業がAIセクターの値付けの基準をつくり、投資家の資金を先取りできる。バンカーはこの先手の優位を繰り返し指摘してきた。
加えて、OpenAIの資金消費ペースは加速している。2026年のキャッシュバーンは約270億ドル、2027年には630億ドルに達するとの推計がある。3月に調達した1220億ドルは巨額だが、それでも2年で底をつく計算だ。非公開のまま追加調達を続けるか、上場して公開市場から資金を引き出すか。どちらにしても、時間は無限ではない。
組織は動いている
IPO延期の議論が進む一方で、OpenAIは体制の再構築を急いでいる。
AGI部門CEOのフィジー・シモ(Fidji Simo)氏の下で、動画生成AI「Sora」など収益に直結しない事業の整理が進んでいる。ChatGPT内に広告を表示する試みや、ShopifyやStripeとの連携によるEC統合も初期段階にあるとされる。Codexの法人営業チームを新設し、Anthropicが先行するエンタープライズ市場への反攻も始まった。
人材面では、6月18日にGoogleからノーム・シャジール(Noam Shazeer)氏を獲得した。Transformerアーキテクチャの共著者であり、Googleが27億ドルを費やして呼び戻した研究者を、OpenAIが再び引き抜いた。Codexの週間利用者は500万人を超え、法人顧客も200万社に達したと発表している。
数字をつくる力はある。しかし市場がその数字に1兆ドルの値札を貼るかどうかは、OpenAIではなく投資家が決める。アルトマン氏の「譲れない」という姿勢が正しかったのか、答えが出るまでそう長くはかからない。
参照元 OpenAI Leans Toward Waiting Until Next Year for I.P.O. - The New York Times(2026年6月25日)