ゲリラ共同創業者、Unrealへの欧州独自対抗を始動
ゲリラゲームズ共同創業者でEpic元幹部のArjan Brusseeが、欧州ホストとEU規制準拠を掲げAIエージェントを核に据えた新エンジン「Immense Engine」を立ち上げた。標的はUnreal、Unity、そして中国勢である。
ゲリラゲームズ共同創業者でEpic元幹部のArjan Brusseeが、欧州ホストとEU規制準拠を掲げAIエージェントを核に据えた新エンジン「Immense Engine」を立ち上げた。標的はUnreal、Unity、そして中国勢である。
欧州独自の3D空間基盤、Unrealから離れる宣言
Arjan Brussee(アリヤン・ブルセー)が動き出している。ゲリラゲームズの共同創業者で、Epic Gamesに戻ってからはUnreal Engineのプロダクトマネジメント担当グローバルディレクターを務めた人物だ。そのBrusseeが、オランダのテックポッドキャスト「De Technoloog」で、自ら立ち上げた新スタートアップが手掛けるImmense Engineの構想を公にした。
謳い文句は明快である。「完全に欧州でホストされ、欧州人によって構築され、欧州のルールとガイドラインに準拠したエンジンを作っている者は、現時点で誰もいない」。BrusseeはUnreal、Unity、そして中国勢に対する欧州発の代替を打ち出すと宣言した。
ここで興味深いのは、彼自身がEpicでUnreal Engineの中枢にいた人物だという事実だ。長年その技術の伸ばし方を見てきた当事者が、外から殴り返す立場に回った。これは単なるキャリアチェンジではなく、ゲームエンジン市場の地政学が変わりつつある兆候のようにも見える。
なぜ今、欧州なのか
近年の欧州では「デジタル主権」というキーワードが急速に政治の中心に浮上している。2025年11月にはEU加盟27カ国全てが「欧州のデジタル主権を強化する」共同宣言に署名し、「戦略的依存」を減らす方針を打ち出した。
2026年4月にはフランス政府が250万人の公務員をMicrosoftからLinuxへ移行する計画を発表。5月7日のCNBC報道では、欧州委員会が5月27日に発表する「Tech Sovereignty Package」で、機微な公的セクターのデータを非EU系クラウドから切り離す案が議論されていると伝えられた。
クラウド、オフィスソフト、ID基盤に続いて、3D空間生成という戦略的な層にもこの波が押し寄せた、という見方ができる。Brusseeが「ゲームだけでなく、防衛や物流の3Dシミュレーションにも使える」と踏み込んだ発言をしているのは偶然ではない。
「使える3D世界を作ることが、ゲーム以外の用途でも、ますます重要になっている」(Brussee)
ゲームエンジンはもはや娯楽用の道具ではない。デジタルツイン、防衛シミュレーション、物流の最適化、AI訓練のための環境構築。Unreal Engineが事実上の標準になった裏で、欧州の機密データを非EU系の基盤に乗せ続けることへの警戒感が水面下で高まっていた。
AIネイティブ設計という第二の旗印
地理と規制だけが論点ではない。Brusseeは技術アーキテクチャでも明確な差別化を狙う。彼の言葉を借りれば、現行のUnrealは「マウスでメニューをクリックする人々によって、その人々のために作られた」存在であり、何か変えたいなら「エンジン全体に手を入れなければならない」。
これは大規模なモノリシック構造への直球の批判だ。彼が描く対案は、AIエージェントをモジュールとして組み込み、ClaudeやChatGPTのようなLLMが新機能の組み込み口になるAIネイティブな設計である。
「AIの台頭は、この種の重要なソフトウェアの開発を、別の方法で進める必要があることを意味している」(Brussee)
そして象徴的な数字がひとつ。「賢く、優れたAIエージェントのフレームワークを動かす方法を知っていれば、10人から15人分の仕事ができる」とBrusseeは語った。少人数のコアチームでUnreal級の構造物を組み上げるという、強気の主張である。
ただし、これは現時点では構想だ。発売時期も技術仕様も公表されていない。Unrealが20年以上かけて積み上げた巨大な機能群、サードパーティ製プラグインのエコシステム、コミュニティの厚みに対して、新興エンジンが互角に戦うのは並大抵ではない。2023年のUnityの料金変更騒動でスタジオがプラットフォーム依存を見直した記憶も新しいが、Unrealは年間収益100万ドル超の作品に対して5%のロイヤリティという課金構造で広く受け入れられている。
市場の隙間は、本当に存在するのか
Brusseeの主張には、確かに支えになる現実がある。Unityがコペンハーゲン発祥でありながら2009年にサンフランシスコへ拠点を移したように、欧州発のゲーム技術はしばしば米国資本に吸収されてきた。CryEngine(ドイツのCrytek)は健在だが、FPS寄りの位置付けから抜け出せずにいる。「欧州人が、欧州で、欧州規制に従って構築するエンジン」という座標には、確かに空白がある。
一方で、現実的な問いも残る。AIエージェント前提の設計は、AIの発展速度に賭ける構造でもある。LLMの能力が現在の延長線で伸び続けなければ、「10人を1人で」のスケーリングは絵に描いた餅になる。逆にAIが急速に進化すれば、UnrealやUnityもAI機能の取り込みで追随してくるはずで、地理的差別化だけが残る。
それでも、防衛・物流・公共部門という顧客層を最初から視野に入れている点は戦略的に賢い。これらの分野では、性能や価格よりもデータ主権が優先される場面がある。EU規制準拠を技術的な制約ではなくセールスポイントに転換できれば、Unrealでは取りに行きにくい契約を確保できる可能性は十分にある。
技術的な優位性と地理的な優位性、AI設計の新しさと欧州規制への適合。Brusseeは複数のレバーを同時に握ろうとしている。どれか一つでも外れれば、構想は構想のまま終わる。
何が始まったのか、何はまだ始まっていないのか
Brusseeの発言は、製品の発表ではない。スタートアップを立ち上げたという宣言と、設計思想の表明にすぎない。動くコードも、ベンチマークも、対応プラットフォームの一覧も、まだない。
それでも、これがニュースとして広がった理由ははっきりしている。Unreal Engineの中枢にいた人物が、Unrealに勝つためのエンジンを欧州で作ると言った。クラウドとオフィスソフトが先行している「欧州デジタル主権」の流れが、いよいよ3D基盤にまで届いた。そして、AIエージェントを最初から織り込むという設計選択は、今後のゲームエンジン全体の方向性を占う試金石になる。
製品が出てくるまでは、何も証明されていない。地図のどこに新しい印が打たれたのかは、もう見えている。
参照元
他参照
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