ハムスターでスマホを充電、回し車から電力を取り出す自作装置

スペインのYouTuber「Flamethrower」が、弟のハムスターの回し車に発電機構を組み込み、スマートフォンを充電する装置を自作して動画で公開した。鍵となったのは、太陽電池やIoTセンサーで使われるエナジーハーベスタ回路だ。

ハムスターでスマホを充電、回し車から電力を取り出す自作装置
Flamethrower

スペインのYouTuber「Flamethrower」が、弟のハムスターの回し車に発電機構を組み込み、スマートフォンを充電する装置を自作して動画で公開した。鍵となったのは、太陽電池やIoTセンサーで使われるエナジーハーベスタ回路だ。


「眠らせてくれないなら、働いてもらおう」という発想

きっかけは深夜のきしみ音だった。Flamethrowerによれば、弟が誕生日に飼い始めたハムスターは前のハムスターと違って回し車にすっかりハマり、毎晩キーキーという音が家中に響いていたという。

そこで彼が思いついたのが、漫画でよく見る「悪役が回し車で動かす機械」のような装置を、本物のハムスターで作るというアイデアだ。動画では「両親に遺伝子改造もサイボーグ化も禁止された」ので、せめてエネルギー源として使うことにした、と本人がジョークまじりに語っている。

ここで重要なのは、これが単なる工作ではないということだ。不規則で微小な動力から実用電力を取り出す設計問題は、太陽光発電やワイヤレスセンサーネットワークと地続きの技術領域に位置する。彼の装置は、家庭用ペットを題材にしながら、産業用IoTと同じ思想 で組み立てられている。

なぜ「モーターを回せば充電できる」では済まないのか

直感的には、回し車にDCモーターを取り付けてUSB端子につなげば終わりそうに見える。しかしFlamethrowerは動画でこの発想をはっきり否定する。

5VのDCモーターを発電機として使う場合、標準的な15Wの充電速度に届かせるには 毎分1万回転以上 で回し続ける必要がある。ハムスターにそんな速度は出せず、出せてもモーターが先に焼き切れる。さらに、モーターの出力電圧は回転速度に依存して常時変動するため、リチウムイオン電池の充電に必要な「電池電圧より高い安定した電圧」をそのまま供給することもできない。

モーターの両端に直接スマホをつないでも、電圧と電流が安定せず、まともに充電できない。回転エネルギーを「使える電気」に変換するには、間に賢いコントローラが必要になる。

つまり、回し車の発電は 太陽光発電と同じ問題構造 を持っている。光量が変動する太陽電池と、走り方が変動するハムスターは、エンジニアリング上ほぼ同じ扱いになるのだ。この見立てが、彼の設計の起点になっている。


鍵は「エナジーハーベスタ」、太陽電池やセンサーで使われる技術

Flamethrowerが選んだ部品はCJMCU-2557というモジュールだ。Texas Instruments製のBQ25570というICを搭載した、いわゆるエナジーハーベスタ(環境発電)用の電源管理基板である。

このICは、太陽電池や熱電発電素子(TEG)といった、出力が小さく不安定な電源から マイクロワット〜ミリワット の電力を取り出すために設計されている。データシートによれば、起動に必要な最低電圧(コールドスタート電圧)はわずか330ミリボルトで、いったん起動すれば100ミリボルトの入力でも電力を抽出し続けられる。

さらに重要なのが 最大電力点追従 (MPPT)という制御だ。電源の電圧と電流を周期的にサンプリングし、最も多くの電力を取り出せる動作点に動的に合わせ込む仕組みで、太陽光発電のパワーコンディショナーに必ず搭載されている定番技術である。Flamethrowerの装置では、これがハムスターの不規則な走りに追従して動作する。

つまり彼の回路は、ハムスターを「電圧の出方が予測できない太陽電池」として扱っている。技術的には実に筋の通った選択だ。

廃材から組み上げられた一台

部品の調達もまた一筋縄ではいかない。発電機として使ったのは、分解した家庭用ほうきから取り出した20Vモーターだ。一般的な5Vモーターよりも発電電圧が高く出やすく、低電流でもエナジーハーベスタが取り出しやすくなる、という選択だ。

蓄電に使ったのは、弟が修理に出したものの「バッテリーが壊れている」と修理を断られた電動キックボードから救出したセル群だ。Flamethrowerが分解してみたところ、40本のリチウムイオンセル はすべて健全だったという。彼は「修理屋がバッテリーが壊れていると言ったのに、全部問題なかった」と動画で苦笑している。

USBで給電するための昇圧モジュールはAliExpressで購入。BQ25570には2〜5.5Vのプログラマブル出力が用意されているが、最大電流が110ミリアンペアまでしか出せず、スマホ充電には足りない。そこで、いったんリチウムイオン電池に蓄えた電力をUSB昇圧モジュールで5Vに変換する二段構成を取った。

回し車の回転を20Vモーターで発電し、CJMCU-2557でMPPT制御しながらリチウムイオン電池に充電、最後にUSB昇圧モジュールで5V化してスマホへ給電する。三段の経路で不規則な回転を安定したUSB電力に変えている。

充電はできた、ただし「とても遅い」

実際にどれくらい充電できるのか。Flamethrowerが言うには、1晩でスマホを満タンにするほどの発電量はないと認めている。発電量はその日のハムスターの気分に大きく左右されるそうだ。

ざっくりとした見積もりでは、ハムスターが走っているときに発生する電流は およそ1アンペア程度 とのこと。数字だけ見れば悪くないが、これはあくまで瞬間的な値であり、実際の蓄電量は走る時間と頻度次第になる。

それでもこの装置は、現在も家族のスマートウォッチを充電するのに役立っているという。スマートウォッチであれば消費電力が小さく、夜のあいだに溜まった電力で十分に賄える。

ハムスターのカロリー消費に意味を与えた、というジョーク混じりの結論は、案外正直な実用報告でもある。低電力デバイスとの組み合わせなら、この装置は実際に使い物になる。

動画ではサーマルマルチメーターの活用も披露

Flamethrowerは動画後半で、装置の充電が遅い原因を特定するためにサーマルカメラ機能つきマルチメーター(FNIRSI TDM-120P)を使っている。古いUSBケーブルが発熱していた箇所を可視化し、新しいケーブルに交換したところ充電速度が改善した、というくだりだ。

この場面は、エナジーハーベスタの実装で意外と見落とされる ケーブル損失 の存在を示している。元の発電量が小さいほど、配線抵抗による損失の比率は無視できなくなる。これも産業用低電力IoTで頻繁に問題になる論点だ。


「ペットを発電機にする」というユーモアの奥にあるもの

The Registerはこの発明を「SF的なディストピアのトロープを地で行く実装」と評しつつ、「少なくともハムスターは幸せそうで、必要なカロリー消費を有意義な目的に変えている」とまとめている。

Flamethrower自身も動画の冒頭で、「両親に遺伝子改造もサイボーグ化も禁止されたから、エネルギー源として活用することにした」とおどけてみせる。本人もこのプロジェクトが滑稽さを含んでいることに自覚的で、動画全体のトーンが押しつけがましくならないのもその自覚があるからだろう。

ただ、技術的に見ればこれはれっきとした低電力IoTの実装例だ。エナジーハーベスタ、MPPT、リチウムイオン管理、USB昇圧という産業領域の要素を、ハムスターという身近な題材に落とし込んでいる。電子工作の入門者にとっても、産業技術の応用例を知る手がかりになる動画だ。

ペットの運動エネルギーを電力にする取り組みは過去にもいくつか試みられてきたが、Flamethrowerの装置が興味深いのは、汎用ICを巧みに転用した 点にある。太陽電池向けに最適化されたBQ25570が「ハムスター電源」にも使えるという発見そのものが、この動画の最大の収穫だろう。


参照元

他参照

関連記事

この記事を共有する